「名前が出てこない」「昨日の夕飯は何だったっけ」「また同じ本を買ってしまった」……。年をとると、とたんに増えてくる「もの忘れ」の悩み。しかし、高齢者医療の第一人者・鎌田實さんは「人生の8割は忘れていいこと」だと言います。そんな鎌田さんが説く、面倒なことは忘れて、好きなことだけで生きるヒントがつまった『60歳からの「忘れる力」』より、心がスーッとラクになるメッセージをお届けします。
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ほとんどのもの忘れは年相応のもの
50年近く内科医をしていて感じるのは、多くの人が忘れることに恐怖を感じているということです。心配性の人は、「認知症の始まりではないか」と外来で相談してきます。いくつかの検査をすると、ほとんどが年相応のもの忘れ。「心配はないよ」と丁寧に説明すると、ほっとした表情になります。
「認知症じゃないか?」と自分を疑いはじめるときに多いのが、ワーキングメモリの衰えです。ワーキングメモリとは作業記憶のことで、短期記憶ともいわれます。
いろいろな作業をするうえで必要なルールや手順を、その作業が終わるまで一時的に覚えておく力です。言い換えると、その作業が終わったら忘れていい記憶のことです。
この機能が低下すると、いちいち手順をマニュアルで確認しなければならなくなり、能率が上がりません。ミスも多くなります。料理中、鍋を火にかけたまま野菜を切るなどほかの作業をしていたら、火がついていることをすっかり忘れて焦がしてしまった、などというのもその例です。
ワーキングメモリの低下が心配になるのは高齢者だけではありません。比較的若い年代の人たちも、コロナ禍の生活で脳への刺激が減少し、重要な書類を忘れたり、記入漏れがあったりという失敗が目立つようになります。
そこで、ぼくは患者さんに次のようなテストをしています。
「いまから言う4つの数字を覚えておいてください。0、3、4、1」
そして、しばらく別の話をして、最後に質問します。
「さっきの数字を覚えていますか? その数字を反対から言ってみてください」
答えは「1、4、3、0」です。紙に書かれた数字を反対から読むのは簡単ですが、口頭で言われた数字を記憶し、それを思い浮かべながら逆から言うのは難しい。ワーキングメモリが正常に働いていなければ、なかなかできません。みなさんも家族や友人と問題を出し合って、やってみてください。
軽度認知障害も半数が正常まで改善
しっかり答えられなくても、落胆する必要はありません。認知症を発症する前段階に、軽度認知障害(MCI)という状態がありますが、この段階で手を打てば、年齢相応の認知機能に戻すことができるといわれています。
軽度認知障害を改善し、認知症を予防する方法として、コグニサイズをおすすめしています。コグニサイズは、体を動かしながら頭を働かせたり、同時に2つのことをしたりする「頭の体操」のこと。コグニサイズを続けると、軽度認知障害の半数は正常に改善するというデータがあります。
2022年2月、「徹子の部屋」(テレビ朝日)に出演したとき、黒柳徹子さんにコグニサイズをやってもらいました。1から数字をカウントしていき、5の倍数のときにしりとりをするというものです。
たとえば、「1、2、3、4、ゴリラ、6、7、8、9、ラジオ、11、12、13、14、オナガドリ……」というように続けます。一人でもできますし、数人でやるのもいいでしょう。
リズムを崩さないようにテンポよくするのがポイントですが、数字と言葉がごちゃごちゃになって、かなりオロオロします。でも、このオロオロするくらいが脳にはいい刺激になるので、まちがえても、言葉に詰まっても、気にしないようにしましょう。
正解することが大切なのではなく、正解を出すまでの間、オロオロしたり、ドギマギしたり、「解いてやるぞ」という前向きな気持ちになって脳を活性化することが大事なのです。
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60歳からの「忘れる力」
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