デビュー以来、アイドルグループのメンバー、母と娘、女友達など、さまざまな女性同士の関係を描いてきた真下みことさん。最新作の『わたしの結び目』では、中学二年生の女の子二人の、いびつな友情を描きました。
友情が恋愛よりも軽んじられてしまうのはなぜか、という違和感が作品の出発点だという本作。第一章の試し読みをお届けします。
翌週、昼休みに里香の席まで話しかけに行き、わたしはささやかなプレゼントをあげた。
「これ」
「え、何?」
嬉しいような困ったような、里香の顔。アクセサリー屋さんで見かけるピアスみたいに、ふるふると揺れる黒目。しばらく見ていたいようで、誰にも見せたくないから早くその表情をやめてほしいような、不思議な気持ちになる。
「四色ペン。シンプルだから、筆箱検査に引っかからないの」
「え、どういうこと」
大事そうにペンを両手で持っている里香の困ったような表情は、だんだん薄れていく。ライラックピンクと店頭のポップに書かれていた本体の色は、窓の光を受けて紫とピンクの間を揺れ動く。
「あげる」
「え?」
「プレゼント。仲良くなった記念?」
「……そんな、もらえないよ」
「え?」
なんでそんなこと言うんだろう。一昨日、数学のノートが切れて文房具屋さんに行ったときにこのペンを見つけて、ちょうどお小遣いが出た日だったから里香の分も買ったのに。喜んでくれると思ったのに。
「お揃いなんだよ?」
里香の手を引いて自分の席まで行き、筆箱の中を見せる。里香のと同じ、ライラックピンクの四色ペン。この間は筆箱の中になかったペンを取り出して、買ったばかりのノートの一番後ろを開き、色を切り替えて一本ずつ線を引く。
「赤と、ピンクと、紫と、紺。里香が好きな色を、一人で選んだんだよ。どうしていらないとか言うの」
「いらないなんて言ってないよ。ごめん、申し訳なくなっちゃって、お金とか」
「ねえ、もらってくれるの?」
言い訳は聞きたくなかった。わたしがあげたいものを受け取ってくれるかどうか。それだけが大事なことだった。
だって、このペンがクラスに一本しかないなんておかしいでしょう?
「……ありがとう。大事に使う」
里香が両手で持っていたペンを右手に持ち替えたので、わたしは自分のノートの端っこを千切って差し出す。里香はまた戸惑いを顔に浮かべたけれど、ペン先の青いインク止めを爪で引っ掛けて外し、サラサラと円を描いた。
これを買ったせいでわたしの今月のお小遣いはもう残り少なくなっちゃったけれど、里香は喜んでくれたし、わたし達の仲が良いことを周りに示せるようになったし、本当に買ってよかった。お菓子やお金は学校には持ってこられないから、文房具をプレゼントしたのは我ながらいいアイデアだった。
「里香」
やめどきがわからないように円を描き続けている里香が、顔をあげる。
「わたし達、親友だよね」
「え? ああ、うん」
「わたしと友達になりたいって言ってくれて、本当にありがとうね」
里香は少し首を傾けてから、こちらこそと言って笑ってくれた。こんなに素敵な転校生が来てくれて、本当によかった。
(続きは書籍でお楽しみください)