「赤ちゃんパンダの数え方は『1匹』? 『1頭』?」
NHK放送文化研究所・用語班には全国のNHK放送局からのことばの相談が日々集まります。時代とともに移り変わることばに、知識や見識を持ち寄って激論を交わし、限られた時間で答えを出すこの「ことばの専門家チーム」の名回答を厳選した書籍『NHKが悩む日本語 放送現場でよくあることばの疑問』より、一部を抜粋してお届けします。
* * *
Q. 最近、「爪痕を残す」を良い意味で使う人がいますが、悪い意味のときに使う表現ではないのですか?
A. 「爪痕を残す」を、「印象づける」といった意味で使う人がいますが、「おかしい」と感じる人もいるので注意が必要です。
「爪痕」について、『大辞林第四版』(三省堂)は、「1. 爪でかいた傷あと。2. 災害や事件などが残した被害のあと」という2つの意味を載せています。「爪痕を残す」という表現は、「今回の台風は、県内の農業に大きな爪痕を残した」というように、ニュースでも使われます。この場合の「爪痕」は、「災害や事件などが残した被害のあと」という意味です。
しかし最近では、「爪痕を残す」を「印象づける」「成果をあげる」といった良い意味で使う人もいます。「この大会で爪痕を残して、自分をアピールしたい」「今回の出演で、爪痕を残すことができた」といった発言を、スポーツ選手や芸能人がするのを聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
このような「爪痕を残す」の使い方について、一般の人たちがどう感じているか、NHKで調査しました。すばらしい演技をした場合に、「今回の出演で爪痕を残すことができた」と表現することについて、どう思うか聞いたところ、「おかしい」と答えた人が全体の40%、「おかしくない」が37%、「どちらともいえない」「わからない」が、あわせて33%でした。
これを年代別で見てみると、20代では「おかしい」が18%と割合が低く、「おかしくない」が62%だったのに対して、50代では「おかしい」が49%、「おかしくない」が33%でした。
このように「爪痕を残す」を良い意味で使うことについては、年齢によっても受け止め方が異なる傾向があり、若い人に比べて、年齢が高い人のほうが「おかしい」と感じる人が多いことがわかります。
「爪痕を残す」は、もともとは、災害などに使われることが多いことばです。使う場面を間違えると、「変な爪痕を残してしまった……」と後悔してしまうかも。気をつけましょう。(中島沙織)
NHKが悩む日本語
2023年4月19日発売『NHKが悩む日本語 放送現場でよくある ことばの疑問』(NHK放送文化研究所・著)の最新情報をお知らせします。