NHK放送文化研究所・用語班には全国のNHK放送局からのことばの相談が日々集まります。時代とともに移り変わることばに、知識や見識を持ち寄って激論を交わし、限られた時間で答えを出すこの「ことばの専門家チーム」の名回答を厳選した書籍『NHKが悩む日本語 放送現場でよくあることばの疑問』より、一部を抜粋してお届けします。
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Q. 赤ちゃんパンダの数え方は「匹」ですか?「頭」ですか?
A. 動物一般は「匹」で数えるのが基本です。人より大きな動物は「頭」で数える場合もあり、パンダは状況に合わせて使い分けることがあります。
上野動物園のパンダ、シンシンが双子を出産したことを伝えたニュースでは「午前1時すぎに1頭、そして午前2時半すぎにもう1頭の合わせて2頭の赤ちゃんを出産しました」と助数詞「頭」で数えていました。
動物一般は「匹」、人より大きな動物は「頭」で数える場合もあります。
パンダの赤ちゃんはとても小さいので「おや?」と疑問に思うかもしれません。双子のうちの1頭が生まれた時の体重は124グラム。人の手にものってしまうような小ささです。放送では動物一般を「匹」で数えることにしており、赤ちゃんパンダも「匹」で数えるのでは? と思ってしまいます。しかし、パンダの出産を伝えた今回のニュースでは「頭」で数えていたのはなぜなのか?
2つの理由がありました。
1つは、「動物園の発表に合わせた」ということです。動物園や行政などの動物に関する発表では、どの動物も「頭」で数える傾向があります。ニュースなどでは、そうした発表に合わせて伝えることがあります。
もう1つは、取材現場の絶妙な判断です。「パンダが双子を出産」というニュースを担当した部署に聞いたところ、「パンダは成長が早く、数年で大きくなる。赤ちゃんのときに『匹』で数えると、『頭』に切り替えるタイミングの判断が難しくなるため」とのことでした。
人よりも小さいからといって「匹」で数え始めたら、「あれ? もう人より大きくなった? そろそろ『頭』で数える時期?」と悩んでしまうのです。双子のパンダが、大きくなる日のことを考えて、「赤ちゃんだけど『頭』で数えるよ!」というわけです。
「匹」か「頭」かは、放送現場が悩む助数詞の一つです。映像や伝えるテーマなどによっても使い分けが必要になることがあります。
例えば、親子が一緒の場合、親は「頭」、子は「匹」だとわかりにくいため、親に合わせて子どもも「頭」を使うという判断もあるでしょう。一方、子どものパンダの、あのコロコロとした愛らしい様子を伝えるような番組などでは「匹」が合いそうです。
場合によって「匹」か「頭」か数え方を迷うパンダですが、2021年に生まれた双子がすくすく育つとともに、新型コロナウイルスの状況が落ち着いて、誰もが安心して見に行けるようになってほしいものです。(高橋徹)
NHKが悩む日本語
2023年4月19日発売『NHKが悩む日本語 放送現場でよくある ことばの疑問』(NHK放送文化研究所・著)の最新情報をお知らせします。