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星降る夜に

2023.04.14 公開 ポスト

第9話 たまには自分のために、泣いたり怒ったりしていいんだよ大石静(脚本家)

テレビ朝日系 火曜21時ドラマ『星降る夜に』の感動を完全収録したシナリオブックがついに発売!
心ときめく大人のピュア・ラブストーリーから、一部試し読みをお届けします。

★人物紹介★

雪宮 鈴(吉高由里子)……産婦人科医。常に冷静に振る舞い、誰かに頼ることが苦手。息抜きに行ったソロキャンプで、10歳下の柊一星と運命の出会いを果たすことに。

柊 一星(北村匠海)……遺品整理士の青年。感情豊かで明るい性格。音のない世界を生きる。手話や筆談などで会話をする。偶然出会った雪宮鈴に一目惚れする。

佐藤 春(千葉雄大)……一星と同じ職場に勤める遺品整理士。親友であり、先輩でもある一星のことを心から尊敬している。

麻呂川 三平(光石 研)……「マロニエ産婦人科医院」の院長。道化した言動も多いが器が大きい男。釣りが好き。

佐々木 深夜(ディーン・フジオカ)……45歳の新米医師。美しい風貌とは裏腹に、衝撃的なヘタレポンコツで、病院中のスタッフから毎日叱られている。

8話ラストより

海辺。

静空が「お父さ~ん」と叫び、そして一星が伴を抱きしめる。

美しい夕陽が、一星と伴、鈴、深夜、そして春と静空を照らしている。

 伴 「(一星に抱きしめられたまま、泣いている)」

深 夜「(泣いている伴を見ている)…………」

一 星「…………」

 鈴 「…………」

静空を抱いた春が、鈴たちの方へ歩き出す。

深夜、伴に近づき肩を叩き、その方向を示す。

 伴 「…………(静空の方を見る)」

伴、立ち上がる。それを支えようと歩み寄る深夜。

しかし、突然………。

深 夜「ふぇっくしょえい!!!」

シリアスな空気をぶち壊す、とんでもないくしゃみをかます深夜。

 伴 「えっ」

一 同「…………」

深 夜「あ………すみません………」

銭湯・外観

同・男湯の湯船

湯船に一星、深夜、春、伴。

冷え切った体を温めている一同。

一 星「…………」

深 夜「…………」

 伴 「…………」

なかなか温まりきらない。

震えている深夜、それに申し訳なさそうな伴。

 春 「何この状況」

 伴 「(申し訳なさそう)…………」

 春 「ていうかこの寒さで海に入ったら、死んじゃいますからね普通」

 伴 「すみません」

深 夜「(急に)ビーチボーイズですね!」

 春 「は………?」

一 星「(手話で)何?」

 春 「(手話で通訳)ビーチボーイズ」

一 星「………?」

深 夜「あ、すみません。知らないですよね。昔のドラマです」

 春 「知ってますけど、見たことないですね。すいません」

一 星「(知らないという顔)」

深 夜「…………(伴を見る)」

 伴 「すみません、知ってます………すみません………」

深 夜「(春に)…………僕、今滑りました?」

 春 「そうですね、それはもうきれいに。ええ」

その時、壁の向こうから静空の声がする。

静空の声「お父さ~ん」

 伴 「(思わず)は~い!」

静空の声「気持ちいい~?」

 伴 「気持ちいいよぉ~! あ………(申し訳なさそうにする)」

深 夜「…………」

 春 「…………」

 伴 「すみません」

一 星「(何が起こっているかわからず、手話で)何?」

 春 「(手話で)あっちから声がした、気持ちいいって」

一 星「!(なぬ!? と思わず女湯の方を見る)」

 伴 「あの、ホントに………すみません………」

一 星「(伴の肩を叩き、手話で)女湯って覗いたことある?」

 伴 「え?」

 春 「女湯覗いたことありますかって」

 伴 「え!?」

一 星「(伴の肩を叩き、催促。手話で)ある? ない?」

 伴 「(首を振り)いやないです、すみません」

一 星「(な~んだと天井を仰ぎ、また何か思いつき、再び伴の肩を叩き、手話で)じゃあ『喪服でイェイ!』は見たことある?」

 伴 「あ? え?」

一 星「(手話で)駅弁!」

 伴 「(ジェスチャーを見て推理)………駅弁?」

一 星「(伝わったことに喜んで指差し)そう!」

 伴 「(正解したらしいことに喜んで)おお! ………え、駅弁が何ですか?」

 春 「(一星を殴り、手話と声で)困らせんなよ」

一 星「(顔で春に)いってーな!」

同・表の道

湯上がり状態の面々がぞろぞろ出て来る。

 伴 「…………(一体全体どうしたら)」

一 星「(伴の肩を叩き、手話で)またな」

 伴 「え?」

 鈴 「(伴に通訳)またね、って言ってます」

深 夜「…………」

静 空「(真似しながら手話と声で)またね~!」

 鈴 「(手話と声で)またね」

 伴 「…………」

伴、深く深く、頭を下げる。

やがて顔を上げると、静空の手を引いて、帰って行く。

途中で振り返って、手を振る静空。手を振り返す鈴と一星。

黙って見ている深夜。そして春。

深 夜「…………」

一 星「…………」

 鈴 「…………!(と、くしゃみをする)」

一星・深夜「!」

深 夜「湯冷めしちゃいますね、僕らも帰りましょう」

 春 「(手話と声で)じゃ、お疲れした~」

春と深夜も、それぞれ帰ってゆく。

2人になった途端、一星、突然不機嫌な表情になり、プイッとひとりで、歩いて行ってしまう。

 鈴 「え? 何? 一星(と呼びかけるが聞こえない)……(走って追いかけ、一星の前に回り込む)ちょっと!」

一 星「(ブスッ)」

 鈴 「(手話と声で)何?」

一 星「(手話で)俺、怒ってる」

 鈴 「え?」

一 星「(手話で)何でひとりで静空のところに向かった?」

 鈴 「あ…………」

一 星「(手話で)何で俺を置いてった? どんだけ心配したと思ってんだ!」

 鈴 「………(手話と声で)ごめん………」

一 星「(手話で)ひとりで突っ走んな!」

 鈴 「(あまりに一星が怒るので、逆ギレ。手話と声で)じゃ、ほっとけばよかったの!?」

一 星「(は?)(手話で)そんなことは言ってないよ」

 鈴 「(手話と声で)わたしは一星のせいでおせっかいになったんだから!」

一 星「(手話で)俺のせい?」

 鈴 「(手話と声で)そうだよ」

一 星「(手話で)何だそれ!(頭をぐしゃぐしゃして座り込み)もおおおお!」

 鈴 「………(顔を覗き込むため、しゃがみ込む)」

一 星「………(手話で)鈴が死んじゃったらって想像したら、すごく怖かった。どれだけ俺が鈴を大事に思ってるか、鈴はぜんぜんわかってないんだ(むすっ)」

 鈴 「(手話と声で)わかってるよ」

一 星「…………」

 鈴 「(もう一度、手話と声で)ありがとう。来てくれて」

一 星「(ため息)…………(手話と顔で)あーあ、ムカつく! 惚れた方がいっつも負けだ」

 鈴 「(笑って立ち上がり、手話と声で)帰ろう。(そのまま一星に手を伸ばすが、またもやくしゃみをする)う~冷えた」

一 星「(と、急に立ち上がり、コートの前を広げて、がばっと鈴をいとおしそうに包み込む)」

 鈴 「あったか~………」

一星の腕の中にうもれる鈴。

それから一星を見上げる鈴。

 鈴 「…………」

一 星「…………」

2人、見つめ合い、微笑み合う。

東京・深夜の昔の家・表

昔の家の前に立っている深夜。

同・リビング

10年前で、時が止まっている部屋の中。家の中をじっと見回す深夜。

亡き妻・彩子との新婚時代の写真が入った写真立てを手に取る。

深 夜「……………(遺品整理をしようと、心に決める)…………」

(日替わり)

マロニエ産婦人科医院・前

翌朝。

ピンクの特攻服を着たオバサン達を前に、犬山が演説している。マロニエの面々が遠巻きにそれを眺めている。

犬 山「本日をもって、ピンクエンペラーは解散する!」

元ピンクエンペラー達「………!?(動揺)」

元ピンクエンペラー1「なぜですか、総長!」

元ピンクエンペラー2「うちら、まだ総長とてっぺん目指したいっす!」

犬 山「昔のうちらは、このピンクの鎧がねえと生きられなかった。だけど、今は違うだろ?」

元ピンクエンペラー達「…………」

犬 山「普通のオバハンとして、胸張って生きていけんだろ? こんなトップクで絆を確認しなくても、そこらのファミレスで集まれんだろ!」

元ピンクエンペラー1「イヤです、総長!(泣き出す者あり)」

犬 山「制服を脱げ! 総長、最後の命令だ!」

苦しげにピンクの服を脱ぎ出す面々。その下から現れたのは、普通のおばさん服だ。

犬 山「今日からあたしは総長じゃない。ただの犬山さんだ。じゃあな」

実にカッコよく特攻服を脱ぎ捨て、マロニエの面々のところにやって来る犬山。

犬 山「お騒がせしました。最後に雪宮先生を守って戦えてよかったです」

別にピンクエンペラーが守ったわけでもないが、一同、そんな気分でうなずく。

蜂須賀「(もらい泣きしている)師長はカッケーっす」

 鈴 「解散しないでもいいのに」

深 夜「もったいない気もします」

犬 山「物事には始まりと終わりがあるからね。さて、仕事戻ります!」

一 同「(なぜかピンクエンペラーのように)うぃっすッ!」

犬山について、鈴、蜂須賀、伊達、外来診察室の方に行く。

2人になる深夜と麻呂川。

麻呂川「みんな変わって行くんだな………」

深 夜「…………院長」

麻呂川「ん?」

深 夜「今度、何日かお休み頂きたいんですけど」

麻呂川「(察して)………ああ。もちろんだよ(微笑む)」

*   *   *

ついに家を整理する決心をした深夜。命の“はじまり”と“終わり”をつかさどる2人の結末とは―ー。続きは本誌にてお楽しみください。

関連書籍

大石静『星降る夜に シナリオブック』

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。 感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。 対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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星降る夜に

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。

感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。

対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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大石静 脚本家

東京生まれ。脚本家。1997年にNHK連続TV小説『ふたりっ子』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。脚本作品に大河ドラマ『功名が辻』『セカンドバージン』『家売るオンナ』『大恋愛~僕を忘れる君と』『和田家の男たち』など多数。

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