吉永小百合さん主演映画「いのちの停車場」の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。『いのちの十字路』で綴られる、介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。
認知症の母の介護と仕事の両立に悩む、一人息子。
「第二章 ゴリの家」
認知症の母(80代)の不眠や妄言に悩まされ、仕事に支障をきたす息子(50代)。
【あらすじ】
「まほろば診療所」を訪れた七栄さんと哲也さん親子。トラックドライバーをしている哲也さんは、認知症の母からの頻繁な電話や不眠の対応で仕事が手に付かない。なんとか介護施設に入れられるよう、野呂たちも協力するのだが、介護認定は1でグレードとしては低い。七栄さんが、がんとして施設に入ることを拒否する中で、哲也さんの苛立ちは増してゆく。そして、ついに“事件”が起きてしまい……。
息子・哲也
「ただ私としては、おふくろが、もうちょっと眠ってくれれば助かります。夜中にトイレで何度も起こされますので。薬でも使って……」
「なあ母ちゃん、頼んから施設に行ってや。このままやと、二人ともダメになってしまうがいね……」
白石先生
「大事なことを確認しなきゃって思うのは、正常な心の動きです。でも七栄さんは、短期の記憶が障害されている。そのせいで常に不安に駆られ、何度も確かめてしまう状態になっている。七栄さんにとって息子さんとの電話は命綱だから、つながらないとさらに不安になって、ますますかけてしまうでしょうね。お金についても、自分の生活を守るもの、命にかかわるものという意識が働くから、誰にとっても不安と結びつきやすい。いつでも預金通帳のありかを確認したくなるのも、そのためね」
仙川先生
「まあ、その息子も追い詰められているんだろうね。これからの生活費をどうするか。自分のキャリアはどうなるのか。介護者は介護者で、やり場のない大きな不安を抱え、何かに救いを求めているものだよ」
白石先生
「七栄さんを守るために、そして介護者である息子さんを守るために。介護者がつぶれてしまわないように支えることは、そのまま患者さんを守ることでもあるのだから」
いのちの十字路
吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!
老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。