楽しみにしていた休暇、意気揚々と出かけた旅先なのに、ついちょっとしたことでモヤモヤ、イライラしてしまったりしていませんか。小池龍之介さんの『しない生活』は、そんな乱れた心をスーッと静めてくれる一冊。本書が説く108のメッセージの中から、いくつかピックアップしてお届けします。
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本項を記す前夜、筆者にはしばらくぶりに腹立たしい出来事があり、うっかりイライラを反復していますと寝つけなくなり(いやはや)、それからようやく我が怒りを見つめ、受け止めようとし始めたのでした。
それまでは切れ間なく怒りが自分を支配していたように見えます。ですが、面白いことに、自分の怒りを観察し始めますと、それ以外の感情が多数混ざっているのが見えてくるものです。たとえば「一時間くらいは怒っていたなあ」と悔やむ思いや、「明日起きたら仕事しなきゃなあ」と未来へ走る思念、などなど。
それらを経てから、再びとらわれの強い感情(この場合は立腹)が現れる。ただし、心は「怒っている自分」という自我イメージを固定したがり、強い感情のみを記憶して弱い感情を無視して忘れるため、同じ感情が持続していると錯覚します。
つまり、実際の心は一瞬一瞬、変動する(無常である)のに、自我はそのうちの目立つもののみに気を取られ、いわば変化がなかったことにして、一色に塗りつぶしてしまうのです。
裏返しますと、強く反復する怒りの合間に、別の弱い感情が入ってくることを見つめると、怒りが永続していないことに気づく。すると「怒っている自分」という確固たる自我イメージは崩れ、楽になる。悲しみが続くときも、その合間に「あ、天気が良いな」といった別のことを思う自分に気づくと、抜け出せます。
この脳には、ものごとを雑に見て情報を一色に塗りつぶす癖があります。それに抗して、こまやかな変化、心が無常であることに気づくよう、意識の解像度を上げるお稽古をすることです。「無常を智慧によって体感すると、苦しみから離れ心が清まる」(『法句経』二七七偈)と。
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メールの返信が遅いだけで、「嫌われているのでは」と不安になる。友達がほめられただけで、「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。つい私たちは、ちょっとしたことでモヤモヤ、イライラしがちです。小池龍之介さんの『しない生活』は、そんな乱れた心をスーッと静めてくれる一冊。本書が説く108のメッセージの中から、いくつかご紹介しましょう。