吉永小百合さん主演映画「いのちの停車場」の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。『いのちの十字路』で綴られる、介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。
ヤングケアラー―シングルマザーを介護する中2女子。
「第五章 レトルトカレーの頃」
脳梗塞を発症し左半身に麻痺の残った母(40代)を介護する娘(10代)。
【あらすじ】
要介護3のシングルマザー・久仁子さんは、デイサービスや連日の訪問看護を受けている。中学2年生の娘・陽菜ちゃんは、自分と小学校4年生の弟・蓮くんの食事や身の回りのことをこなしながら、母の日常生活の手伝いもしている。そのせいで、自分のことは疎かになってしまう。野呂は、陽菜ちゃんはヤングケアラーで、今の生活は普通ではないと伝えたいが、彼女は自分がヤングケアラーであることを認めようとしない。
陽菜
「もう私、この話したくない。なんかよく分からないし、あんまり考えたくないです。この家のことを、他人が手助けできるはずない。別に困ってないし、私、ちゃんとできています。それに、私がやらなきゃお母さんの機嫌が悪くなるに決まってる。もう邪魔しないでください……」
仙川先生
「ヤングケアラーは、自覚がないことが最大の問題なんです。自分が子どもらしくない生活を強いられて、安全すら確保されていないことに、多くのヤングケアラーは気付けていないものですよ」
野呂
「ねえ陽菜ちゃん、ちょっと考えてみてよ。お母さんの介護って、本当に全部、陽菜ちゃんがやらなきゃいけないことかな?」
「子どもはね、みんなが子どもらしく暮らす権利があるんだよ。周りの友だちのように、遊んだり、テレビを見たり、勉強したりする自由がある。今の君は、そういうことをやらなきゃいけない時期なんだ。陽菜ちゃんはできてる?」
陽菜
「私がお手伝いしなければ、お母さんが怒る。家の手伝いなんて普通のことだし。それに、私はクラスのみんなに……」
「……ヤングケアラーって、バカにされたくない! 私、ヤングケアラーなんかじゃない!」
野呂
「自分を裏切っちゃいけない。自分を大切にするのは、自分しかいないのだから」
「誰かにとって『いい子』でも、自分にとって『いい子』かどうか、考えなきゃ」
いのちの十字路
吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!
老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。