吉永小百合さん主演映画「いのちの停車場」の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。『いのちの十字路』で綴られる、介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。
老老介護―難病を抱えて二人で支え合う老夫婦。
「第六章 バカンスの夢路」
パーキンソン病の夫(80代)と慢性心不全の妻(80代)の二人暮らし。
茂次さん志乃さん夫婦は、お互い病を抱えながら助け合って生活している。けれど、パーキンソン病が進行し、体が思うように動かない夫を妻が支えるのはもう限界だった。野呂は二人で施設に入ることを薦めるが、茂次さんは厭世的な傾向にあり、志乃さんも同調している。野呂が手をこまねいていると、事件が起きてしまった。
志乃
「大変でも、わたくしたち、お互い様ですから。それに介護といっても、要するに主人の世話ですから」
「多少は体力的な限界を感じています。いずれ二人で入れるいい施設がないか、きちんと相談しなければと思ってます。でもね、これ以上、他人様に身を委ねることを主人が嫌がるものですから」
茂次
「私の方はこれ以上、妻に迷惑はかけたくない。早くお迎えが来ないかと思ってますよ」
仙川先生
「自分たちで何とかやっていける。そう信じ込む高齢の患者さんは少なくないからなあ」
加賀日日新聞・有森記者
「老老介護──共倒れや虐待などの悲劇を招くケースも後を絶ちませんね」
志乃
「だから、今度はわたくしが支えたいんです。この家で暮らし続けたいと願う主人のために。訪問診療をお願いしたのも、やり方を変えるだけ、あきらめることはないって言ってあげたくて。でも、無理なことを申しているのでしょうか」
野呂
「お気持ち、よく分かりました。でも、ご夫婦で一緒に入れる施設についても考えてみませんか。実際に見学してみれば、ご主人のお気持ちも変わるかもしれません」
看護師・麻世
「愛する家族に対して最後まで愛情を維持するために、介護者も休みましょう。休むための保障制度を作りましょう。介護を休むことが互いの幸せにつながります──」
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いのちの十字路
吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!
老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。