書店でなかなか見つからない本年度の最重要作
先日、手塚治虫文化賞の授賞式のパーティがありました。その席上、呉智英さんにお会いしてマンガの話になりました。2014年も半年ほど過ぎたいま、呉さんは今年のマンガベストワンの候補として、小林まことの「劇画・長谷川伸シリーズ」(講談社)を挙げました。私は虚を突かれました。まったく聞いたことがない作品だったからです。一緒にいたマンガに詳しい関係者も同様と見えて、会話が途切れてしまいました。
すると、呉智英さんは、「ふうん、君たち、しょうがないなあ」という感じで、先生独特の、教えを垂れる前にきっと口をひき結ぶチャーミングなお顔をなさったのち、長谷川伸がいかに偉大な作家であるかを力説し、それなのに近頃の連中はほとんど読んでいないが、自分はかつて朝日新聞社から出た「長谷川伸全集」全16巻を読んでおり、世上人気のある股旅ものはもちろん悪くないが、長谷川の真価は『日本捕虜志』『相楽総三(さがらそうぞう)とその同志』など後期の歴史小説にあり、なかでもいちばん凄いのは、どうしようもない親不孝者の一生をリアリズムに徹して書いた『足尾九兵衛の懺悔』だとひと息にお述べになりました。
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マンガだけでも、いいかもしれない。
いまやマンガは教養だ――。国内外問わず豊穣なる沃野をさらに掘り起こす唯一無二のマンガ時事評論。
※本連載は雑誌「星星峡」からの移行コンテンツです。幻冬舎plusでは2011/04/01から2014/04/17までの掲載となっております。
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