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「自分の価値判断の基準」を広げる
真実とフェイクが入り交じったSNSなどによる大量の情報が、人々の意識や考えを混乱させる現象は、世界中で起きています。
アメリカのトランプ前大統領の発言が象徴的ですが、日本でも新型コロナウイルスに関しては、何が本当かわからないという状況がSNSによって増幅されました。
まさに「anything can happen」。どの情報が正しいかわからず、膨大な情報の海のなかで的確な判断をすることがいかに困難か、しみじみ感じている人も多いでしょう。
そうなると何よりも大事なのは、自分の頭できちんと考え、正しく判断し、行動することです。そのためには「自分の価値判断の基準」をいかに広げるかがポイントになります。
そのために必要なのは、まずは読書。本を読むことで思考力を身につけ、ものごとを冷静に見つめ、きちんと判断する力を培う。読めば読むほど、不可解な「人間の本質」についても理解できるようになります。
次に音楽などの芸術に接して感性を研ぎすまし、想像力を広げ、直観力を磨く。そしてさまざまな立場や異なる見解を持った人たちと、できるだけ多く接し、彼らの言うことに耳を傾ける。
そうした努力で「自分の価値判断の基準」を広げていくのです。
「自分の価値判断の基準」が確固たるものになれば、バランスのとれた判断ができますから、この情報はおかしいとか間違っているといった、情報に対するリテラシーが高くなるのです。
玉石混淆の情報に惑わされないために、もう一つ大事なことがあります。それは、人間が持っている「動物の血」を律することです。
人間には本質として、「理性の血」と、自然の本能とも言える「動物の血」が入り交じっています。
どれほど理性的な人であっても、根底には必ず動物の血が流れています。動物の血は、ときとして自分が生き延びるために人の命を奪うことまであり、それゆえ常に理性の血によってコントロールされなくてはなりません。
際限のない欲望、快楽、怒り、嫉妬、憎しみといったものは、動物の血がなせるものです。そうしたものがあるからこそ人間らしさも生まれるのですが、それがコントロールできないほど表に出てくるのは問題です。戦争は、その典型例とも言えるでしょう。
「エコーチェンバー」現象に要注意
では、情報リテラシーと動物の血との間には、どのような関係があるのでしょうか。
先ほど、情報リテラシーを高めるには動物の血を律する必要があると述べたのは、自分の欲望に従って情報に接していると、偏った正しくない情報に傾く危険があるからです。
人間には本質として、自分が見たいものだけを見、知りたいものだけを知ろうとするという傾向があります。つまり人は、自分の欲望を土台にし、そこから見たい世界を切り取っているのです。
たとえば、株の運用益で生活をしている人が、政府の金融緩和策によって株価が上がり、大きな利得を手にすることがあれば、もしその対策に明らかな弊害があったとしても、その経済対策を全面的に支持するでしょう。
SNSの普及は、そうした脳の傾向に拍車をかけています。いわゆる「エコーチェンバー」という現象がそうです。
エコーチェンバーとは、SNSを利用する際、自分と似た興味・関心を持つユーザーをフォローし、次に自分から同様の意見を発信すると、また自分と似た意見が返ってきて増幅される状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえたものです。
ときには根拠のない陰謀論のように、自分の意見や思想が多くの人から肯定されることで、それが正しいものだと勘違いすることも起こります。エコーチェンバーによって、自分の意見や考えは揺るぎない正しいものとして固定されていくのです。
このように人は情報や知識といったものを、理性ではなく、自分の欲望に従って選びとる生き物だという認識を持つ必要があります。
たとえば、政治や社会の問題といったものが、一つの意見でまとまることはまずありません。必ずさまざまな意見や立場があります。
そこには客観性を持って理性的に考える人がいる一方で、社会が損害を被ったとしても、自分の立場や利得だけを考えて意見を主張する人もいます。後者の場合、こう考えたほうが自分にとって得だというような、動物の血を優先しているわけです。
理性の血を忘れ、感情に任せて情報に接すると、それらに対して正しく向き合えなくなるのです。年老いた親がいつのまにか陰謀論を信じるようになっていて驚いたという話を耳にすることがありますが、加齢で自制心が弱まり、理性の血が動物の血に負けてしまったのかもしれません。
おかしな情報に振り回されないためには、幅広い知識や、ものごとをバランスよく見るセンスを身につけるだけでなく、動物の血をコントロールする術も身につけておく必要があるということです。
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