AIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。AIに負けないマインドをいかに保つか? いかなる場所も時間も超えて、普遍的な価値を持ち得る仕事の「絶対値」を探る、丹羽宇一郎氏の新刊『仕事がなくなる!』から、一部をご紹介します。
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ストレスはあって当たり前のもの
私は幸いと言ってよいのかわかりませんが、仕事をしていて「疲れたな」とか「これはストレスだな」と感じることは、ほとんどありません。
肉体的には疲れているはずなのに、精神的には「疲れた」とはあまり感じなかったりする。実際、精神的にはなんともなくても、医者に診てもらうと「ストレスがかなりたまっていますよ」などと言われ、検査をすると、それが数値としてはっきり出ていたりします。
医学的には「疲労」と「疲労感」は別ものと言います。つまり、肉体的には疲れていても疲労感を覚えないこともあれば、肉体的にさほど疲れていなくても疲労感を覚えることがあるようです。
体は疲れているはずなのに疲労感を覚えないのは、やっていることに対して満足感や達成感が強いときです。ものすごいエネルギーを注いでやった仕事がうまくいったりすると、疲労困憊でも、成し遂げたという喜びで疲労感がふっ飛んだりします。
これは満足感や達成感が脳内の神経伝達物質であるエンドルフィンを分泌させ、疲労感をマスキングするためと言います。
つまり、私が肉体的には疲れているのに、さほど疲れを感じなかったりするのも、仕事に対してやり甲斐や満足感を覚えているからなのだと思います。
仕事がさほど忙しいわけでもないのに「疲れた」とよく言う人は、人間関係など仕事以外の理由で疲れている可能性もあります。
そして、何かにつけ「疲れた」「ストレスだ」と口にする人は、言葉にすることで、それを一層強く意識している面があります。必要以上に意識すれば、疲れやストレスは増幅されるものです。
ストレスはある程度あって当たり前であり、生きる活力を与えてくれる必要なもの。ストレスという言葉を頻繁に意識する人は、そのことを自覚し、その言葉にあまり囚われないようにすることです。
仕事の主役は自分だと考える
仕事におけるストレスを減らすには、どうすればいいか。前に述べたように、ストレスという言葉にあまり囚われないことが大事ですが、何かとストレスを敏感に感じる人と、そうでない人を大きく分けるものは、仕事に対して受け身か、そうでないかの姿勢の違いだと思います。
仕事がルーティン化し、新しい変化もさほどなければ、仕事を義務でしている感覚に陥るかもしれません。またお金を稼ぐために、仕方なくやっている人もいるでしょう。
生活の糧を得るための義務感で仕事をしていると、「やらされている」感が強くなります。
しかし、そんな気持ちで取り組む仕事が面白いわけがありません。ストレスもたまる一方でしょう。
そうならないためには、どんな仕事に対しても「義務でしている」「やらされている」という気持ちではなく、「自分が主体となってしている」と思うことです。
自分の意思で仕事をしていると思えば、仕事に対する取り組み方は必然的に変わるからです。
自分の意思で仕事をするということは、仕事の主役は自分だと考えることと同義です。会社の指示で義務のようにこなしている仕事でも、自分が主役だと思えば、少しでも楽しく、意義のあるものにしようと、仕事のやり方を工夫するはずです。
たとえば接客の仕事をしている人が、マニュアルに従ってちゃんと動いていればそれでいい、と思っているとします。しかし、仕事を細かく観察すると、マニュアルに載っていないことでも、気持ちがあればできることはいくらでもあります。
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった言葉にしても、気持ちを込めて言うのと、機械的に言うのとでは、相手への伝わり方がまったく違います。
客の気持ちを察して、マニュアルにはない、ちょっとした気遣いやサービスをすることだってできます。いかに相手を満足させられるか、喜んでもらうことができるか、自分の頭で考えながら仕事をすると、前向きな気持ちで取り組めるはずです。
ましてや今後は、マニュアルに沿ってなされる仕事はすべて、AIが行うようになります。どれだけ仕事に自分の気持ちを込められるか、どうすれば顧客を感動させられるか。そのようなことを真剣に考えて、主体的に取り組まない限り、今の仕事を続けることはできなくなるでしょう。
脅すつもりはありませんが、ビジネスパーソンはみな相当な危機感を持つ必要があると思います。
仕事がなくなる!
AIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。AIに負けないマインドをいかに保つか? いかなる場所も時間も超えて、普遍的な価値を持ち得る仕事の「絶対値」を探る、丹羽宇一郎氏の新刊『仕事がなくなる!』から、一部をご紹介します。