10年以上も前の新書で、再びベストセラーとなっている『裁判官の爆笑お言葉集』。本書の著者で、フリーライターの長嶺超輝さんは、いわゆる「裁判傍聴ブーム」の先駆けとして知られています。そんな長嶺さんに、裁判傍聴のやり方と、数ある中からどんな裁判を選べばよいか、初心者に向けてアドバイスをいただきました。
* * *
「爆笑」だなんてけしからん?
── 『裁判官の爆笑お言葉集』というタイトルは、編集部からの提案だったんですよね。このタイトルをめぐっては、私(編集担当)と長嶺さんの間でささやかなバトルがありました。
バトルというほどではありませんが(笑)、「えっ?」と思ったのは確かですね。「はじめに」の中に「爆笑」というフレーズがあるので、そこからのインスピレーションでつけてくださったと思うのですが。
ちなみに、私が提案したタイトルは、『裁判官は喋り好き』でした。いま思えば弱いですね。
── でも、本が出てから読者の方から「内容は素晴らしいけど、タイトルがよくない」「『爆笑』だなんてけしからん」といったご批判をいただくことになりました。タイトルをつけたのは編集部ですので、長嶺さんは無罪です(笑)。ただ、結果論かもしれませんが、タイトルの意外性と中身の面白さが相まったことで、多くの読者の方が手に取ってくださったと思うんです。
おっしゃる通りだと思います。このタイトルだったからこそ、多くの人に広まったのではないでしょうか。この本をきっかけに裁判傍聴をするようになった、という人もけっこういます。社会にある程度の影響を与えることはできたのではないか、と思っています。
ですから、いまでは感謝しています。ただ、発売から16年たったいまでも、「爆笑」という言葉が不謹慎だと言われることがあります。正直、もう勘弁してくださいと思うこともあるのですが(笑)。
以前、裁判官の会合に呼ばれたことがあります。そのとき1日中、裁判官のみなさんと語り合ったのですが、このタイトルについてのクレームはまったくありませんでした。また、本書で取り上げた事件の当事者の方にも、何人かお会いしたことがありますが、そのときもタイトルについてのご批判をいただくことはありませんでした。
── それを聞いて安心しました。この本を読むと、罪を犯すのも人間だけども裁くのも人間で、裁判官も悩んだり、迷ったりしながら判決を出しているんだなということがよくわかります。
最近では、やがてAIが裁判を行なうようになるとも言われています。しかし、AIが出した判決ではたして人間は納得できるのか。そこが問題です。判決はAIが出す、説諭は人間が行なう。そんな役割分担もありうると思います。
初心者は「新件」の裁判がオススメ
── 長嶺さんはいわゆる「裁判傍聴ブーム」の先駆けだと思うのですが、現在も裁判傍聴は続けているのですか?
2020年に、東京地裁の法廷で新型コロナウイルスのクラスターが発生して、しばらく足を運ぶのを控えていました。ようやく最近になって再開しまして、「ああ、こういう空気だったな」と喜びを噛みしめているところです。
── 何か追いかけている事件があるのでしょうか。
いえ、飛び込みで気になった裁判をはしごして見ています。裁判傍聴ってそれくらい気軽にできるものなんですよ。申し込みは必要ありませんし、平日の10時から17時までの間であれば、法廷にいつ入っても、いつ出てもかまいません。
── 裁判と言っても、いろんな裁判があると思います。初心者の人は、どんな裁判を傍聴したらいいと思いますか?
その日にどんな裁判があるのかは、たいてい裁判所のロビーなどに掲示されています。電子端末が用意されていて、気軽に調べることができる裁判所もあります。
裁判傍聴が初めてという方は、その中から「新件」と書かれている裁判を選ぶといいと思います。新件というのはその日から始まる裁判、つまり初公判のことです。
なおかつ、その日のうちに最後まで終わる裁判がいいでしょう。1件のみの起訴と思われる窃盗事件や詐欺事件、あるいは覚せい剤取締法違反や大麻取締法違反などの薬物犯罪ですね。
逆に、余罪がたくさんある事件だと、何度も裁判をくり返す必要があるので、その日のうちには終わりません。
その日のうちに終わる裁判を傍聴すると、全体の流れをつかむことができます。人定質問から始まって、冒頭陳述で事件の概要を理解する。さらに被告人質問、必要があれば証人尋問があり、運がよければ判決まで進むこともあります。
── 通っているうちに、この本に出てくるような面白いお言葉に出会えるかもしれませんね。
それはもう、運しだいです。面白い言葉に出会うコツは、私もいまだにわかりません。裁判というのは実際に行ってみないとわからない、ということですね。
── 最後にみなさんへメッセージをお願いします。
『裁判官の爆笑お言葉集』と、続編『裁判官の人情お言葉集』をまだ読まれていない方は、オーディオブックでもけっこうです、お皿を洗いながらでも、お風呂に入りながらでもいいので、ぜひ鑑賞してもらえたらと思います。
今後の予定としては、いま15冊めの本をつくっています。全国のいろんな「おもしろ条例」をまとめた子ども向けの図鑑で、今年中に出したいと思っています。こちらもぜひ、楽しみにしていてください。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】長嶺超輝と語る「『裁判官の爆笑お言葉集』から学ぶ個性あふれる裁判官の言葉」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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