巨大地震発生。地下に一人取り残されたのは、目が見えず、耳も聞こえない女性だった――。6月21日発売、井上真偽さん3年ぶりの新刊『アリアドネの声』は、極限状態に置かれた盲ろうの女性を、ドローン一台で救出するという超難関ミッションを描く、長編ミステリ―です。
発売前から話題沸騰となった本作の刊行を記念して、書店員さん×幻冬舎で緊急座談会を開催! その魅力を語り合いました。(第一回)
参加者一覧
・宇田川拓也さん ときわ書房本店
・小泉真規子さん 紀伊國屋書店梅田本店
・本間菜月さん 三省堂書店名古屋本店
・三島政幸さん 啓文社ゆめタウン呉店(業務のため途中参加)
・太田和美 幻冬舎営業
・武田勇美 幻冬舎担当編集
数年にわたる構想
太田 今日はお集まりいただきありがとうございます。まずは簡単に幻冬舎から書籍のお話をさせてもらいます。『アリアドネの声』なんだけど、どんなきっかけで誕生したのか教えてもらっていいですか。
武田 もともと真偽さんとは全く別のお話を最初にしていたけど、中々進まず……。そのときに真偽さんと、お互いにどんな小説が好きか、みたいな話をしてやっぱり○○な物語が読みたいよねという話になりました。それで真偽さんが、構想はあったけど書けていない物があるから、それを書きたいという話をいただいて。(○○はネタバレ防止のため伏字)
太田 いつくらい?
武田 二年前ぐらいだったと思います。
太田 タイムスケジュールがあるので見てください。設定資料がすごいんですよ。この本を作るまでのプロットのようなもので。
武田 構想自体は二年前よりもっと前からあったそうですが、その後もプロットを考える時間やこういったタイムスケジュールを考える時間の方が、本文を書く時間より長かったみたいです。今回は事前準備がとても上手くいったそうで、本文は二、三ヵ月くらいで書けたと言っていました。事件が起きた日について、分単位で出来事を予め書き出しています。
太田 12時41分に地震が発生するんだけど、そこから分単位で色んな物事が動き出す。このプロットを見るだけでも、凄さが伝わってくる。装丁も見せて。
武田 本文を読んだ方はわかると思うんですけど、ドローンの視点で物語が進むから読んでイメージする映像がゲーム的になると思うんです。だから、本文中に何度もマップを入れて書籍自体をゲーム的な作りにしてもらったんですけど、表紙の方もRPGっぽく見せられたらいいなと。アーティストのEveさんのコンセプトアートも担当する尾崎伊万里さんが描いてくれました。作品の雰囲気ともとても合って、真偽さんも絶賛してくれています。
太田 それじゃあ、幻冬舎からはこのぐらいにして皆さんから感想を伺いたいと思います。まずは宇田川さんいかがでしたか? 宇田川さんは、井上さんの『その可能性はすでに考えた』(講談社)で解説も書いています。
ミステリ―好きでない人にこそ届けたいミステリ―
宇田川 さすが井上真偽さんと唸りました。自分が思う「『アリアドネの声』のここがすごい」は、三つあります。一つ目は、手に汗握るタイムリミット救助サスペンスであること。二つ目は、もう無理とか限界といった状況との向き合い方が描かれた人間ドラマであること。そして三つ目が、胸熱くなる驚きが繰り出される見事なミステリーであること。この三つが揃った小説だと思います。泣ける作品でもあって、冒頭の兄と弟の話から泣けますね。
太田 それじゃあ次は小泉さんお願いします。小泉さんは井上さんの『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』の解説を書いてるんですよ?
小泉 『その可能はすでに考えた』は事前に読んで「めっちゃ面白い!!」となって(紀伊國屋書店梅田本店で)大きく仕掛けたことがあったご縁で、第二弾『聖女の毒杯』(講談社)の文庫化の際に、講談社さんから解説のお声掛けを頂きました。
太田 『アリアドネの声』は、どの辺がすごかったですか?
小泉 『その可能性はすでに考えた』では、色々なトリックが一冊の本の中にいっぱい出てきます。もうこれ以上トリックを思いつくのは難しいのでは?? と井上真偽さんにお会いした時に思わず言ってしまったことがあるくらい。それから『アリアドネの声』のゲラを頂いて、新しいトリックを楽しみに読んでたら、あれ? いつものとはなんか違う……全く新しいエンタメを作られたんだっていうのが最初の驚きでありました。しかも最後はちょっと泣けちゃうお話で。
太田 ラストは泣きますよね。
小泉 叙述トリックってあるじゃないですか。あれって映像化したらわかっちゃうから本ならではの楽しみなんですよね。でもこれは叙述でもあるけど、実際の現場が見えていないのは、真実を知らないのは読者も登場人物たちも同じ。彼らの追体験ができたことで手に汗握る臨場感がより出ていて、とても楽しかったです。
太田 ありがとうございます。本間さんはどこをおすすめポイントにしてくれますか?
本間『アリアドネの声』はもともとミステリー好きな人にも凄くおすすめできるし、ミステリー好きではない人にも文芸小説として推せます。普段あまりミステリ―を読まない、一般の文芸書、小説が好きな方にも売れたらいいなというのはありますね。
太田 あんまり本格過ぎず、マニア向けではないということですね。
本間 ミステリー好きな人って一貫していて、こういうのが好きってのがあると思うんです。これまでの井上真偽さんの作品もそういう方に特に人気でした。個人的にも新刊案内で井上真偽って名前を見た時にすごいテンションが上がりました。それで今回読んだら、これは一般の小説を読んでいる層にも、もっと届いたらいいなと思いました。
武田 真偽さん自身、「自分は変わったミステリーを書いてきた作家だと認知されている」って言っていました。それが『アリアドネの声』ではトリックだけじゃなくて、「登場人物の感情の部分をしっかり書けた」と仰っていて。「人の感情の部分は多分、今までの自分にはあまり書けてこなかったところだから、しっかり読者に伝わればいいな」と。そんなことをお話ししていてので、本間さんのお話はとても嬉しいです。
(第二回に続く)