6月に『京大中年』を上梓したお笑いコンビ・ロザンの菅広文さんと、4月に『夢と金』を刊行したばかりのキングコングの西野亮廣さん。
長年にわたって親密な関係を築いているお二人が、ほぼ同時期に幻冬舎から出版されるのも何かの縁⁉ 対談が実現しました。
3回に分けてお届けします。
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先輩って、怖いの…!?
――お二人のご関係からお聞かせください。
西野亮廣さん(以下・西野) 一番最初の先輩です。僕はこの世界に19歳で入って、劇場スタートで、芸人の階級で言えば三軍ぐらいの感じだったんですけど、最初に声かけてくれた人です、菅さんは。
菅広文さん(以下・菅) 僕からしても、初めてできた後輩みたいな感じです。
――芸人の世界、先輩と後輩というのは、すぐに仲良くなるものですか。
西野 怖かったですよ。ホント、今でこそこうですが、いや、今も怖いんですけど。当時はめちゃくちゃ怖かったですね(笑)。芸人さん同士も今ほど仲良くはなかったと思います。テレビの席数(仕事)もそんなに多くなかったですし。誰かが座ったら、もうしばらくその席からどかない。だから競争というか、結構ギスギスしてましたよね。
菅 テレビしかなかったからね。劇場で結果出してテレビに出るっていう方法しかなかったんじゃないかな。
西野 そうですね。誰かが行ったらしばらく次はないって感じなので、ステージ上では和気あいあいとしていても、楽屋では……みたいな。
菅 いい経験させてもらったと思うよ。エピソードトークをしても、みんな相方のエピソードしかしゃべらないんですよ。要は自分たちが得することしかやらない。今はテレビでも「この前、西野がね」みたいに、普通に他のコンビのことをしゃべったりしてますけど、当時はなかったよね。
西野 競合してるから、やっぱりそこではポイントをやらない、みたいな。
菅 うん、そんなんやった。僕はそれが心地よかったですけどね。
西野 当時は、そんな中で菅さんとフットボールアワーの後藤(輝基)さんがめちゃめちゃ怖かった。後藤さんなんか、誰とも喋んないですからね。今とはもう、真逆ですよね。菅さんには僕が一番怒られてましたね。ダメ出しだけでなくて、ご飯連れて行っていただいたりとか、四六時中一緒にいたので。菅さんに一番怒られた後輩は間違いなく僕です。毎日何かしら怒られてました。
菅 この年になると、あんまり怒らなくなるじゃないですか。最近、たまに西野が言いますもんね。後輩と一緒にご飯行って僕が怒らないと、「話違うやん」って(笑)。
西野 そうですよ、菅さん絶対怒るとこでしょ、何なん? バテたん?
菅 年が違い過ぎるとね、怒りにくいとこもあるじゃないですか(笑)。
昔も今も変わっていないのが西野。屈託なくいろんなことをする(菅)
――西野さんへの指導というのは、例えばどんなことがありました?
菅 西野は変わってないんですよ、今と。屈託なくいろんなことをする。昔、全身白装束姿の信者らが白い車両とともに林道を占拠した宗教団体ありましたよね。
西野 あった、あった、ありましたね。
菅 覚えてますか? 白い服を着て、あちこち白い布をかけて回る人たち。西野は、それを番組の収録の間、ずっとやってるんですよ。
西野 なんか面白くなってしまって、その辺の白い布をカメラにかけるみたいなことを、ずっとやってたんですよ。ホント、ごめんなさいなんですけど、高校卒業して間もなくですから。素人なんですよ。
菅 だから言いました。お前な、スタッフさんもおられるんやから、そういうことはやったらあかんよて。
西野 いやいやいや、そんな感じじゃなくて、みんなの前で「ぐぉらあ、西野ォオ!! なんしとんねん!!」でしたよ! こっちは白いの被ったままで直立不動ですよ。めちゃくちゃ怖い……。
菅 面白かってんで。面白かったけど長かったんやな。一回やるんはええけど、楽しがってずっとやってるから、それは違うやんか(笑)。
西野 ですね、すんません……。こんなふうな怒られ方をしてました。現場でなんだかんだ怒られて、飲みに行っては怒られ、解散して家帰ったと思ったら電話かかってきて、思い出し怒りですよ。「お前今から来い」って言われて、夜中に菅さんの家の玄関の前で怒られる、と……。
菅さんから「しとけ」と言われ、お金の勉強をやらなきゃと思った(西野)
――それは目をかけていたということですよね。
菅 もちろんです。喋ってて一番楽しい後輩やったからね。ずっと一緒でしたね。実際、西野は僕の家の近所に引っ越してきたからね。
西野 そうですね。ずっと一緒にいましたね。僕はそれこそ、本の中身に繋がってくるんですけど、二〇代半ばのころに、菅さんにお金の勉強しろって言われて、西原理恵子さんの本を渡されたんですよ。これ読んどけって。僕は自分の給料すら知らなかったんです。給与明細も受け取ってなかったし、ぼろぼろでしたね。ちゃんとやらなきゃと思ったのは、「それぐらい勉強しとけ」って菅さんに言われてからです。
菅「僕はやりたいことやれたらいいんです」みたいな感じやったんですよ、西野って。お金への執着もなくて。これ読んだ方がいいんちゃうって西原さんの本を渡したら、感銘を受けてくれたみたいで、「僕、間違えてました!」って。で、出来上がったのがこの『夢と金』でしょう?
西野 ほんま、そうです。ありがとうございます!
菅 西野のすごいところってオタク性やと思うんですよ。一回興味が湧いたらとことんまで行く。読ませてもらって、その集大成がこの『夢と金』やなあと思ったんですよ。こんな奥まで行くかって。いや、多分まだもっと行けるんやと思うけど、出し惜しみじゃなくて、これ以上は伝われへんかなって部分で切ったりとかはしてると思うんですけど、そういうオタク性をすごいなと思いますね。
西野 確かに、なんかよくわからないものに突っ込んでいって一回さわってみるのは好きです。
西野のビジネス書は実体験に基づいて、気持ちが入っているのがいい(菅)
菅 実体験に基づいて書いてるところもいいですね。ビジネス書って、僕も時々読みますけど、西野の本がちょっと違うなって思ったのは、その温度。熱量があるというか、気持ちが入ってるというか、そういうビジネス書ってあんまりないと思うんですよ。ビジネス書ってむしろ気持ちを無にして書くというか。
西野 確かに。淡々とね、情報を並べていくというか。
菅 この本は自分の気持ちだったりとか、腹立たしさであったりとかが伝わってくる。
西野 うん、めっちゃ腹立ってた。書きながらだんだん腹立ってきたりしてました。本当おっしゃる通りです、はい。
菅 それが感じられる本やなあと思います。
西野 怒りもあるんですけど、僕ら、辞めていった芸人を見てきてるじゃないですか。クラウドファンディングとかうまく使ってたら、ワンチャン、ものになったかもしれない……とか思うんです。才能が届かなかったら辞めるのは仕方がないと思うんですけど、やれることを試さずに、なんでそんな終わり方をしちゃうんだっていう、そこの歯がゆさはあるんですよ。
それと、昔に比べて今、仕事場に子供がめっちゃ来るんです。個展をしても映画をしてもミュージカルをしても子供がめっちゃ来てくれる。よそ様の子供ではあるんですが、接する機会が増えると、どうしたって、この子たちの未来は……って考えちゃう。このまま何の知識も持たずに大人になった時の子供を勝手に想像して、大人は何やってんだ!? みたいな、それで前半10ページぐらいキレてますね。
運良くこういうポジションに立てて、いろんな経験をさせてもらっているので、次の世代にシェアしたくて書き殴った感じもありますね。感情が乗ってるってのはそういうことでしょうね。
ジタバタする菅さんを、本で初めて知った(西野)
――西野さんが『京大中年』を読まれて感じたことは。
西野 もしかするとみなさんと少し受け取り方が違うかもしれません。付き合いが長くて、もう二〇年以上ですよ。そんな人は他にいないんですよ。後輩が先輩に言うのはちょっとおこがましいし、憚(はばか)られるんですけど、二人とも走ってないと会えなくなっちゃうじゃないですか。大人になると、相手もちゃんと走っといてくれないと会えなくなる。お互いに気を遣う関係になっちゃう。
菅 ああ、わかる、わかる。
西野 先輩はずっと先輩ですけど、会わなくなってる先輩もたくさんいるんですよね。そんな中で菅さんはもうずっとずっとなんですよ。先月も飲みに行きましたし、僕、42歳でまだ奢ってもらってるんですよ(笑)。
何が変わってないかって、菅さん、もう全部答えが見えてる感じなんです。それはこういうことで、これはこうこうこうやろってピシッと言われて、確かに、みたいな。で僕はそれをパクらせてもらうんですけど、悩んでる菅さんは、ほんとに見たことがなくて。人間的なところをあんまり見たことない。血が流れてない(笑)。
ですが、今回の本は、いや菅さん、じたばたしてんじゃん! と思ったんですよ。たぶん宇治原さんとの間で見せてる菅さんなんだろうなとも思ったんですけど、それがめちゃくちゃ面白かったですね。え、血あったんや、みたいな。
菅 あるわ!
西野 流れてたわ、ってびっくりして。菅さんの矜持(きようじ)もあったと思うんですけど、愚痴ってるとこなんか見たことないし、人の悪口も聞いたことがない。悩んでるところなんて知らない。二〇年以上ずっと一緒にいるのに。だから「えっ?」と思ったんですよ。
菅 確かにそうやね。西野の前では見せたことがなかったし、人前でもあまり見せなかった部分かもしれない。
西野 そうですよね。なんで今回それを出そうってなったんですか?
菅 解けたからかもしれへんね。解が出たから、書けるようになった。
西野 あ、解けたってそういうことか。
(つづく)
取材・構成/篠原知存 撮影/吉成大輔
菅広文×西野亮廣 対談
お笑いコンビ・ロザンの菅広文さんが『京大中年』を2023年6月に上梓。同じく2023年4月にはキングコング西野亮廣さんが、『夢と金』を刊行したばかり。長年にわたって親密な間柄のお二人が、ほぼ同時期に幻冬舎から出版されるのも何かの縁。対談が実現しました。