現役の大学病院教授が書いた、教授選奮闘物語『白い巨塔が真っ黒だった件』。”ほぼほぼ実話”のリアリティに、興奮の声が多数。
第1章につづき、第2章「サイエンスの落とし穴」を6回に分けて公開します。
* * *
医者であればわりと耳にすることが多い「教授選」だが、実際にどのように行われるかを知っている者は少ない。
実は、教授選での選抜方法は、大学によって微妙に異なる。
一般的には、定年退職などで教授のポストが空けば教授選が始まる。前任の教授が退任した後に教授選を行う大学もあれば、辞める前に教授選を始める大学もある。前者の方法だと医局に教授不在の期間を長く作ることになり、現場が混乱するリスクを孕むが、後者の方法で行う教授選は、退職する教授の意向を受けやすく”本当に良い人材”が選ばれない可能性がリスクとして残る。
教授選となれば、まず、教授選考委員会が立ち上がる。審査や調査はこの委員会をメインに行われる。選考委員会は、医学部教授会から選考委員長一人と選考委員が数名、選ばれて結成される。
委員会が立ち上がると、書類選考へと進む。全国から自薦、他薦問わず、教授候補となる医師の履歴書や業績一覧が選考委員のもとに集まる。提出する書類は、履歴書や実績一覧に加え、代表的な論文数編のコピーや今後の抱負など多岐にわたり、合計で数十枚にも上る。書類だけで審査をされるわけであるから、教授選に出る人間は、臨床、研究、教育の三本においてこれまでなにをしてきたか、そして、これからなにをしていきたいのか、選考委員に向けて書類上で綿密にアピールしなくてはいけない。
書類選考だけで数カ月の時間を要する。そして、選考委員会は二、三人の最終候補者に絞る。
最終選考に残るだけでもかなり大変なことだ。なにしろ全国の猛者たちが「我こそは」と名乗りを上げるのが教授選だからだ。
こうして選ばれた最終候補者は、医学部教授会でプレゼンをすることとなる。誰が教授に一番ふさわしいかを決める最終決戦だ。
医学部の教授たちは、最終候補者のプレゼンだけで判断するわけではない。選考委員会からの意見を聞き、教授を決める投票へと進む。
臨床の教室に所属する教授と基礎研究の教室に所属する教授、それぞれが一票ずつ投票権を持つ。大学によって異なるが総数はだいたい三十票から五十票くらい。過半数を取れば勝ちだ。
こんなふうに長い時間と手間をかけて次期教授が決まる。
あの日、谷口が受話器を取るとともに、彼のiPhoneからけたたましい着信音が鳴った。
「ありがとうございます」
そう答える谷口の声を聞きながら、ぼくは腰の位置で軽くガッツポーズをした。自分事のように嬉しかった。いや、実際教授選は、チームのメンバーにとって将来がかかった自分事なのだ。
人事係とのやり取りは二、三言で終わった。ずいぶんあっさりとしたものだ。 谷口はすかさずiPhoneを取り出し、
「はい、今決まりました。ありがとうございます」
と、お礼の言葉を口にした。おそらくどこかの支援者からの着信だったのだろう。教授選では学内の支援者が必要だ。それは時に選考委員であったり、それに近い人物であったりするのだが、その詳細が当事者以外、周りに漏れることはない。
「おめでとうございます」
谷口が電話を切るやいなや、ぼくは声をかけた。
「ありがとう」
その日、朝からかすれて低く感じていた谷口の声は、少し高めで軽い、聞き慣れた音に戻っていた。
(第3章「燃えさかる悪意」につづく。ぜひ本書でお楽しみください)
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白い巨塔が真っ黒だった件
実績よりも派閥が重要? SNSをやる医師は嫌われる?
教授選に参戦して初めて知った、大学病院のカオスな裏側。
悪意の炎の中で確かに感じる、顔の見えない古参の教授陣の思惑。
最先端であるべき場所で繰り返される、時代遅れの計謀、嫉妬、脚の引っ張り合い……。
「医局というチームで大きな仕事がしたい。そして患者さんに希望を」――その一心で、教授になろうと決めた皮膚科医が、“白い巨塔”の悪意に翻弄されながらも、純粋な医療への情熱を捨てず、教授選に立ち向かう!
ーー現役大学病院教授が、医局の裏側を赤裸々に書いた、“ほぼほぼ実話!? ”の教授選奮闘物語。
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