モノマネでブレイクして以降、役者業を中心にボクシング、絵画、ヨガの世界でも活躍する片岡鶴太郎さん。「60代は体が元気に動く最後の時間。漫然と過ごすのはもったいない!」とおっしゃる鶴太郎さんが“人生後半”の生き方を教えてくれる幻冬舎新書『老いては「好き」にしたがえ!』より、老いに負けない極意を抜粋してお届けします。
* * *
60代以降は自分に向き合える贅沢で貴重な時間
常に何かにチャレンジしている男──。私、片岡鶴太郎を昔から見てくださっている方は、そのようなイメージを持っているかもしれません。確かに、芸人としての仕事が順調だった30代でボクシングのプロライセンスをとりに行き、役者へと本格的にシフト、40代からは画家として個展を開き、50代後半ではヨガに出合い、60代後半からは三線を始めています。
この経歴からしても、挑戦的でアッパーな人生と言えますが、実は私にも鬱々とした思いを抱えて、ダウンしていた時期がありました。詳しくは第1章でお話ししますが、50代前半の頃のこと。毎日毎日、得体のしれない不安が押し寄せてきて、それはもうたまらないのです! 男の更年期とはこういうものかと、初めて“心の老い”を実感しました。
私の場合は50代でしたが、一般の方では現役を退かれる60~70歳頃に、ガクッと落ち込みやすいと聞きます。ちょうど私と同世代の方々は、「男たるもの、仕事一筋」で生きてきた人がほとんどではないでしょうか。だからこそ、仕事という生き甲斐を失ったら、まるで自分のすべてを失くしたような気になってしまう。私も仕事が大好きですから、その気持ちはよくわかります。
しかし、仕事から退いたとしても、人生はそこで終わりではありません。それどころか、仕事上の責任から解放され、家族を養うといった役割から離れられ、ようやく自分のやりたいことや好きなことに熱中できる時間。贅沢で貴重な時間となるのではないでしょうか。
「そんなこと頭ではわかっているけど、別にやりたいことなんてない」。また、「この年齢から何をやっていいかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。でも、大丈夫です。いくつになったって、誰だって、やりたいことや好きなことは見つかります。意外に思われるかもしれませんが、私もこれまで挑戦してきたことを、「○歳になったらこれをやる!」とわざわざ決めて、計画的に進めてきたわけではありません。
自分が何かを始めたがっていることに、最初は私自身も気づいていないんですね。潜在意識の中に、顕微鏡で見なければわからないほど小さいシード(種)がある。シードとは、「気づいていない能力」とも言えるかもしれません。そのシードは心の中に無数にあって、ふとした瞬間に「発芽したい」とサインを送ってきます。それを見逃さずにキャッチして、心の赴くままに行動してみる。それこそが「自分のやりたいこと」であり、これが何にでも大体共通している、私の「始める動機」でもあります。
人生後半は好きに生きていい!
常に自分の心の声を聴き、行く道を決めてきましたが、還暦の年には、もう一つ大きな挑戦をしました。それは、ひとりになること。離婚し、持ち家を手放し、賃貸マンションに移り住み、仕事以外では極力誰にも会わない。完全なひとり暮らしを始めたのです。そうそう、ガールフレンドだっていませんよ。
この決断には、60歳になる3年前からヨガを始めたことが大きく作用しました。ヨガで身体と心を整えていくうちに、生活をいったんリセットしたいという潜在意識が顕在化してきたのです。それまで、還暦の節目をまったく意識せずに生きてきましたが、今思えば、人生の最後に与えられる“自分だけの時間”を、とことん楽しむための準備をしようと無意識に考えていたのかもしれません。
もちろん、この生活が成り立っているのは、家族の理解があってこそ。彼らには感謝しかありません。中には私の生き方を、我儘、特殊、極端と捉える方もいるでしょう。なぜそこまでしたのかと聞かれれば、自分に向き合える時間って、実はすごく短いと考えたからです(【心身ともに自立して健康でいられる「健康寿命」、男性は72・68歳、女性は75・38歳 ※令和元年調べ】。【実際に亡くなる「平均寿命」、男性は81.64歳、女性は87.74歳 ※令和2年調べ】)。あくまで統計の結果にすぎませんが、どんなに努力しても、誰もが死から逃れることはできません。だとしたら、お迎えが来るのをただ漫然と待っているよりも、自分の心の赴くままに好き勝手に生きるほうが、後悔のない人生を送れるのではないでしょうか。
私は今、はっきり言って自分にしか興味がないんです。
「今の自分は何をすべきか」「今日は何をするべきか」を考えて、ひたすら目の前のことに取り組んでいます。私の行動は勝手に思われるかもしれませんが、他人の意見や、他人から自分がどう見えるかは気にならないのです。結局、他人は他人。何より大切なのは自分ですから。
本書では、これまでの私の経験を元に、心と身体の老いを打破する方法、やりたいことや生き甲斐の見つけ方など、この先限られた時間を楽しむための秘訣をお伝えしていきます。もちろん、それぞれの人生に違いがありますから、私の生き方やライフスタイルを良いものとして、人様に押し付けようという気はまったくありません。ただ、「おっ! これは面白そうだ」「これならできそうだ」ということを生活に取り入れてもらうだけでも、自然と日常に変化が出てくるはずです。単純にそれを楽しんでもらえたら、著者としてこの上なく嬉しいです。
言わずもがなですが、人生は一度きり! 体が元気でいられる最後の時くらい、思う存分自分だけのために生きてみましょうよ。どうか、年だからといって人生をあきらめないでください。心の赴くまま動いてみる。それだけで、まだ見ぬ新しい世界の扉が開くのですから──。
老いては「好き」にしたがえ!
モノマネでブレイクして以降、役者業を中心にボクシング、絵画、ヨガの世界でも活躍する片岡鶴太郎さん。「60代は体が元気に動く最後の時間。漫然と過ごすのはもったいない!」とおっしゃる鶴太郎さんが“人生後半”の生き方を教えてくれる幻冬舎新書『老いては「好き」にしたがえ!』より、老いに負けない極意を抜粋してお届けします。