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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

2023.09.15 公開 ポスト

欧米の「イスラム嫌い」はどこから来ているのか? 日本人が知らない2つの理由武器になる教養30min.編集部

暴力的、自由がない、人権を認めない……。イスラム教に対して、こんな偏見を持っていないでしょうか? イスラム地域研究の第一人者で、著書『分断を乗り越えるためのイスラム入門』を上梓した内藤正典さんは、欧米の「イスラム嫌い」には、大きく分けて2つの理由があるといいます。日本人が知らないこの「2つの理由」について、ご本人にくわしく解説していただきました。

*   *   *

イスラム教徒をやめるのは人間をやめるのと同じ

── イスラム教とは、そもそもどんな宗教なのでしょうか。

イスラム教では、人間が生まれてから死ぬまでの間に経験するであろうすべてのことについて、何がいいことで何が悪いことなのかを、イスラム教の聖典『コーラン』や『ハディース』で示しています。

絶対にやるべきこと、やったほうがいいこと、どちらでもいいこと、やらないほうがいいこと、絶対やってはいけないこと。ありとあらゆる行為が、この5段階のどれかに当てはまるんです。

何が善で、何が悪か。何をすべきで、何をしてはいけないのか。すべての価値判断が信仰にふくまれている。イスラム教とは、そういう宗教なんです。

 

たとえば、イスラム教では、弱い立場の人には優しくしないといけないと示されています。小さな子ども、女性、高齢者はもちろん、旅人にも優しくしないといけないと。

だから、日本人がイスラム圏を旅行すると、多くの人が「みんな親切だった」という印象を持ちます。それも、イスラムの教えから来ているわけです。今は「この国は親日的だから」という説明をされがちですが、それより以前に、イスラム的な価値観なんですね。

日本人の大半は宗教がなくても生きていけると思っていますが、ほとんどのイスラム教徒は生まれたときからこうした価値観にどっぷり浸かっています。ですから、イスラム教徒をやめることは、人間をやめることと同じなんです。日本人にとって、ここがもっとも理解しにくい点だと思います。

 

── たしかに、頭では理解できても実感がわきませんね。

イスラム教徒には、5つの義務があります。1日5回礼拝をしなさい、弱い立場の人に財産の一部をあげなさい、年に1か月間、断食をしなさい、メッカへ巡礼しなさい。

そして、もっとも重要なのは「信仰告白」といって、アッラー以外に神はいないこと、ムハンマドがアッラーの使徒であることを心の底から信じることです。

 

イスラム教では、じつはアッラーの使徒はたくさんいることになっています。イエス・キリストもそうですし、モーセもそうです。

イスラム教は、神は一人しかいないとする一神教です。しかし、イスラム教ができる前から、同じく一神教のキリスト教、ユダヤ教が存在しています

ここでキリスト教、ユダヤ教を全否定してしまうと矛盾が生じます。神は超越的絶対者であり、無謬の存在、つまり間違ったメッセージを発することはないからです。

よってイスラム教では、イエスが伝えた福音も神のメッセージである、モーセの伝えた律法も神のメッセージであると考えます。ただ、その中で至高のメッセンジャーになったのがムハンマドだと考えているんです。

欧米の「イスラム嫌い」はここまで根が深い

── 9.11(アメリカ同時多発テロ事件)の記憶もあって、「イスラム教はテロを起こす危険な存在」というイメージを持っている人が多いと思います。でも、先生のお話をうかがっていると、そうではないようですね。

ごくかいつまんで言えば、西洋社会のイスラム嫌いには2つの理由があります。1つは、キリスト教社会としてイスラムを嫌っていることです。

イスラム教もキリスト教も一神教だと言いましたが、キリスト教から見ると、自分たちのメッセンジャーが現れて600年以上たってから、新たなメッセンジャーがアラビア半島の砂漠の中に現れたと言われても、「そんなものは偽者だ」と思うわけです。

これはユダヤ教徒にとって、イエスが偽者が見えたのと同じことです。だから、イエスは処刑されてしまったわけです。ですから、キリスト教がイスラム教を肯定的に見るということは、成り立ちの段階からあり得ないんです。

 

── もう1つの理由はなんですか?

こちらはまったく逆の理由です。ヨーロッパもアメリカも、近代を経て宗教からだんだん離れていきました。つまり、キリスト教から離れていって世俗化したわけです。

世俗化した人間は、宗教の教えに従って行動しようとする人間を、遅れた人間であるとみなしがちです。たとえば、同性愛やLGBTQの話が典型的です。

 

かつてキリスト教世界は、彼らに対して大変な差別と迫害を行なっていました。しかし、現在では差別と迫害をやめた、少なくとも「これではいけない」ということで変えようとしてきた経緯があります。

自分たちは進歩したのに、いまだに偏見や差別感情を持っている社会がある。あいつらはなんて遅れているんだ。そういった見方をしてしまうんですね。

しかし、ヨーロッパの人もアメリカの人も、イスラムの中で同性愛やLGBTQがどのように扱われているか、ほとんど知りません。ただ差別しているとか、処刑してしまうに違いないとか、思い込みですべてが語られています

 

このように、もともとのキリスト教社会としてもイスラムを嫌う理由があるし、世俗化した近代社会としてもイスラムを嫌う理由がある。西洋のイスラム嫌いは、きわめて根が深い問題といえるでしょう。

 

※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】内藤正典と語る「『分断を乗り越えるためのイスラム入門』から学ぶ知ることの大切さ」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。

 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら

 

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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

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武器になる教養30min.編集部

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『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにした番組です。

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