当選確率1%以下といわれるアメリカ合衆国グリーンカード(永住権)のくじが奇跡的に当選! 職なし、コネなし、英語力なしで2020年からNYに移住した黒川祥志さんが、キラキラとはほど遠いNY生活を赤裸々につづります。
今回のテーマは映画の本場・アメリカでの映画鑑賞について。スクリーンの内と外が渾然一体となって盛り上がるさまに衝撃を受けたといいます。
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はい、どうも~! 厄年ニューヨーカーの黒川です。
体の各所にガタが来たり、バイクで走行中に信号無視の暴走車に横から突っ込まれそうになって転倒したりと、厄年を実感する日々を過ごしています。修理代にため息しか出ません。
というわけで今回は、そんなイヤなことも吹き飛ぶような楽しいアメリカ(NY)での映画鑑賞について書いていきます。
NYでの忘れられない映画体験
よく知られているように、アメリカでは映画が一大産業だ。
そうした映画好きという国民性によるものなのか、映画館での鑑賞の様子は日本とだいぶ違う。上映中に歓声やブーイングが起こるのだ。
例えば、『Star Wars ep.7』でハリソン・フォードが出てくれば、劇場の観客はスクリーン内の彼に大きな拍手を送るし、『Top Gun: Maverick』でトム・クルーズが女性とキスをすれば、観客は「キャー」とか「ヒューヒュー」というような、学生時代に同級生カップルを茶化すような声援を送る。
これが生の舞台だったら日本でもこういったリアクションを示すことがあるし、歌舞伎には決まったかけ声をかける習慣もある。
だが映画の上映中に、笑い声やすすり泣く声とは別に、スクリーンの出来事に対していちいち大きな声を上げながらリアクションを取ることは、日本ではあり得ないだろう。
少なくとも僕は、特別な上映会を除いて経験したことがない。
こんな鑑賞方法が当たり前のアメリカ(NY)において、僕が忘れられない映画がある。
少し古い話になるが、2015年8月にインターンビザを取ってNYに住んでいたころの出来事だ。
アメリカも日本と同様、夏は各映画会社がその年の勝負作品を公開するので、映画業界が盛り上がり、街中のビルボード広告にはさまざまな作品のポスターが貼られ、映画ファンのハートを刺激する。
今年の夏は日本でも話題になったが、『Barbie』と『Oppenheimer』が同日に公開され、「Babenheimer」という造語が誕生するくらいアメリカの映画産業は盛り上がった。
日本人として笑えない部分もあったが、街中でピンクの衣装に身を包んだ方々をたくさん見かけて驚いた。
こういった「衣装を含めてコンテンツを楽しむ」というのは、日本のコスプレ文化の影響もあるのかもしれないと思ったりするのだが、不勉強なので認識が違っていたらごめんなさい。
ちなみに、僕は『Oppenheimer』と、同時期にアメリカで公開された『THE FIRST SLUM DANK』を見て、両方とも大満足だった。
前者は字幕なしだと結構きつかったが、歴史的な知識は多少あったので、ストーリーは何とか理解できたし、日本人が見ても考えさせられる内容だと思う。
後者は、ストーリーの多少の追加や削除はあったが、何度も見た試合で結末も知っているのに、いい歳して号泣してしまった。
話を戻す。2015年夏に最も注目を集めていた映画が『Straight Outta Compton(ストレイト・アウタ・コンプトン)』だ。
舞台は80年代後半、LAで実際に活動していたN.W.A.という伝説的なHip Hopグループの伝記映画だ。
N.W.A.は日本でも人気のヘッドフォンメーカー「Beats by Dre」を創設した音楽プロデューサーのDr. Dreが所属していたグループといえば、そのすごさが少しは伝わるだろう。
映画の内容はエンターテイメントな側面と、黒人差別や92年のロス暴動などの現実的な側面をうまく描いていて、公開から8年経った今見ても楽しめる作品だと思うのだが、NYの劇場で鑑賞した衝撃はすさまじく、いまだに忘れることができない。
以下、映画の内容に触れるため、多少のネタバレをお許しいただきたい。
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N.W.A.は「F*ck tha police」という曲が原因でFBIに世界一危険なグループとしてマークされたという有名なエピソードがあって、この出来事も映画内で描かれていた。
劇中、LIVE公演前の会場に多数の警官が現れ、「この曲をやれば逮捕するぞ」と釘を刺すのだが、そんなことを言われた彼らがただ黙っているわけはない。
曲の合間、MCの1人が観客に向かって「会場に警察が来てる。お前ら、中指を立てろ」と言い出した。
もちろんスクリーン内にいるLIVEの観客たちは腕を高く上げ中指を立てるのだが、驚いたことに、スクリーンの外、つまり映画館の観客のほとんどが劇中の観客同様に腕を上げて中指を立て、次第に立ち上がる人も現れた。
そして「F*ck tha police」が始まると、映画館の観客たちも大きな声で「Yeah!」といった歓声を上げ、スクリーンの中と外が一体となり、劇場がまるで本物のLIVE会場のように盛り上がった。
これには衝撃を受けたし、劇場が歓声で揺れているのを感じた。
驚いたのはこのシーンだけではない。
日本では映画のエンドクレジットが終わるまで劇場の電気は点灯されない。だから、エンドクレジットを最後まで見る人が結構いるが、アメリカ(NY)は違う。
エンドクレジットが流れ始めるとすぐ、劇場の電気が点灯され、誰もエンドクレジットを見ることなく、足早に劇場から出始めるのがふつうだ。
だが、この映画のときは少し違った。
映画がラストを迎えると、劇場の観客は全員総立ちになり、スクリーンに向かって盛大な拍手を送り始めたのだ。
映画祭でもない通常の映画鑑賞で、僕は生まれて初めてスタンディングオーベーションを体験した。
エンドクレジットが流れて劇場の電気が灯されると、さすがに何人かの観客は会場を出始めたが、そんなことは気にせず拍手を送り続ける方々もけっこういた。
そして、明るくなった劇場で、僕の周りにいる拍手を送っている観客の姿を見た時、何とも言えない衝撃を受けた。
彼らの大半が、映画での出来事をリアルタイムに体験したであろう世代の黒人の方々で、人目を気にせず涙を流し、拍手を続けていた。
この映画が単なるエンターテイメントの枠組みを超えて、黒人の貧困や差別、そしてそれに抗ってきた歴史を描いた価値ある作品だと気付かされた瞬間だった。これはアメリカ(NY)でないと体験できなかっただろう。
映画館の種類も豊富
ほかにもアメリカ(NY)での映画鑑賞で楽しいのは、日本にはあまりないような映画館の形式があることだ。
巨大な駐車場に巨大なスクリーンが設置されていて、観客は車の中にいながら映画を楽しめるドライブインシアターは、日本ではめったに見かけなくなったがアメリカには今でもよくある。
座席にテーブルが付いていて、レストランのようにお酒や料理を注文して、食事をしながら映画を楽しめるような映画館もある(各々の映画館のシステムやサービスを細かく説明すると、文字数を使う割には面白くないので割愛する)。
↑マンハッタンにある映画館。ブルックリンにある同系列の映画館の座席と机はさらに大きくて、見た目もクラシックな木目調でかっこいい。
ほかにも、日本ではデジタル上映が主流だが、NYにはフィルム上映を売りにしている映画館が結構あり、料金は割高だが、画質や音質にこだわって鑑賞したい映画好きにはたまらないだろう。
映画館の座席も劇場によっては全席が1人掛けの大きめのソファ(足を伸ばせるタイプ)の場合もある。しかも通常料金でOKだ。
と、ここで映画の料金について触れておく。
2015年頃は$10-$15(当時のレートで1200~1800円ほど)だったが、今は$15-$20(現在のレートで2200~2900円ほど)と上がっている。円の為替レートもだいぶ変わっているため、日本人の感覚としては高級なレジャーになった感が否めない。
なので、極貧生活を送っている僕は、昔ほど映画館に行けなくなってしまった。悲しい話だ。
というわけで、今回はここまで。次回はいよいよ、最終回?
グリーンカード当選男のNY移民ぐらし
当選確率1%以下といわれるアメリカ合衆国のグリーンカード(永住権)のくじを引き当て、NYに移住した41歳の著者。しかし英語もできないまま移民となった著者を待ち受けていたのは、キラキラとは無縁の泥臭いNY生活だった。グリーンカードにはどうやって応募するのか? 当たったあとはどんな手続きが待っているのか? アメリカに渡ってからの生活はどんな感じか? グリーンカード当選者が不器用に生きるリアルな日常を、赤裸々につづります。
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