近年、先進国の間で大きな課題となっている「食品ロス」。日本では年間523万トンもの「本来は食べることができたはずの食品」が捨てられており、これは東京都民が1年間に食べる量と同じだそうです。日本が食品ロスの解決に向けて動き出すきっかけとなった『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』で知られるジャーナリストの井出留美さんに、食品ロスを減らすために私たち消費者ができることをうかがいました。
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世界的な問題になっている「食品ロス」
── 食品ロスとは、そもそも何なのでしょうか?
本来は食べられるのに、捨てられてしまう食品のことを指します。賞味期限が迫ってきた、缶がへこんでしまった、パッケージの隅が破けてしまったなど、理由はさまざまです。
食品ロスがもたらす問題は、3つあります。1つめは、お金がムダになること。経済的な問題ですね。2つめは、環境に負荷がかかること。温室効果ガスを大量に発生させる原因になります。
3つめは、社会のさまざまなチャンスを奪うこと。お金が奪われることで、雇用、医療、福祉など、困っている人がますます追い込まれることにつながります。
2015年9月、国連サミットで「SDGs」が採択されました。SDGsとは17の目標、169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」のことです。
食品ロスは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」のターゲット3で、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる」と定められています。
── 食品ロスは、世界でどれくらい発生しているんですか?
FAO(国際連合食糧農業機関)は年間13億トンと発表しています。これは世界でつくられている食品のおよそ3分の1にあたります。
2021年には、WWF(世界自然保護基金)が、食品ロスは年間25億トンにのぼるとのレポートを発表しました。なぜ12億トンも増えたのかというと、FAOの発表では農場で捨てられている食品がカウントされていなかったからです。
日本では毎年、農林水産省と環境省が推計値を発表しています。いちばん新しい数字は、2023年6月に発表された2021年度の推計値で、年間523万トンでした。これは東京都民が1年間食べていける量です。
金額に換算するのは難しいのですが、1グラム1円で計算した場合、5兆2300億円という金額になります。これだけの量を、私たちは毎年捨てているんです。
── 本のタイトルにもある「賞味期限」の存在が、食品ロスと大きく関わっているそうですね。
賞味期限というのは、「おいしく食べることができる目安」です。「品質が切れる期限」ではありません。
しかも企業は、安全係数といって、おいしく食べることのできる期間に1より小さい数字、0.8とか0.7をかけています。つまり、10か月おいしく食べられるとしたら、賞味期限は7か月、8か月になるということです。リスクを考えて、実際よりもかなり短くなっているんですね。
一方、間違いやすいのが「消費期限」です。こちらは「安全に食べることができる期限」で、おおむね日持ちが5日以内のものに表示されます。
具体的には、お弁当、おにぎり、サンドイッチ、お惣菜、ケーキなど。時間がたつにつれて急激に品質が悪くなるので、こちらは守ったほうがいいんです。逆にいえば、気をつけるべきは賞味期限より消費期限ということです。
食品ロスを減らすためにできること
── 食品ロスを減らすために、私たち消費者はどうすればよいのでしょうか。
世界共通の環境配慮の原則に、「3R(スリーアール)」があります。リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の頭文字をとったものですが、大事なのは優先順位です。
優先順位がいちばん高いのはリデュースです。ごみを出さない、ロスを出さない。消費者の立場でいうと買いすぎないことです。
その次に大事なのがリユースです。捨てないでくり返し使う。使わなくなったものは安く売る、あるいは寄付する。
ようやく最後にリサイクルです。資源として再利用することですね。この優先順位が重要なんです。
コロナ禍で、買い物が制限されましたよね。スーパーに行くのは3日に1回にしましょうとか、家族で行かないで1人で行きましょうとか。その結果、日本もふくめ多くの国で食品ロスが減ったんです。
つまり、買いすぎなくなったことで、食品ロスが減ったわけです。ですから私は、「買い物前が勝負」だと思っています。
── この本では、「今日から家庭でできる、食品ロスを減らすための10カ条」を紹介しています。その中から、いくつか簡単に教えてもらえますか。
1つめは、「買い物前に、自宅の戸棚や冷蔵庫にある食品の種類と量を確認する」。重複して買うのを防ぐためです。何があって、何がないのか。賞味期限はいつまでなのか。きちんとチェックして、買い物リストをつくるようにしてください。
2つめは、「空腹の状態で買い物に行かない」。どれもおいしそうに見えて、つい買いすぎてしまうからです。お腹がすいた状態で買い物に行くと、購入金額が64パーセントも増えるという研究結果もあります。
3つめは、「買い物では、すぐ食べるものは手前から取る」。私たちはスーパーなどへ行くと、つい奥のほうから商品を取ってしまいがちです。実際、私がとったアンケートでは、88パーセントの人が「奥から取る」と答えました。
でも、手前の売れ残った商品は、結局私たちの税金を使って燃やされるんです。無理のない範囲でけっこうですから、ぜひ「手前取り」を心がけるようにしてください。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】井出留美と語る「『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』から学ぶ食品ロスの今と人生を切り拓く方法」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
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