
日本が「食品ロス」削減に向けて動き出すきっかけをつくったロングセラー、『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』。この本の著者で、ジャーナリストの井出留美さんは、「他人が決めたことを鵜呑みにしてはいけない」「自分の頭で考え、自分の心で感じ、自ら行動し、自分の人生を切り開いていく生き方をしよう」と説きます。そんな井出さんが、これまで実践してきた学びや読書について、くわしくうかがいました。
* * *
社会人になっても学び続けよう
── 井出さんのオフィシャルサイトには、『イデルミ物語』というマンガが掲載されています。それを読むと、社会人になってからも勉強を続け、栄養学の博士号や農学の修士号を取得するなど、井出さんが珍しいキャリアを歩んでこられたことがわかるのですが、そのモチベーションはどこから生まれたのでしょうか。
私はもともと、外資系の食品メーカーで広報の責任者をしていたのですが、仕事をしていると自分の足りない部分がどんどんあらわになってくるんです。
たとえば、お客さまから「自分は人工透析をしているんですが、どの商品がいいですか?」と聞かれて、答えることができなかった。食品そのものについては理解しているけれど、身体との関わりになると弱いなと思ったんです。
それで、栄養学を学ぶために、女子栄養大学大学院というところに通い始めました。自分の足りない部分を補って、お客さまにちゃんと説明したいという思いがモチベーションになりましたね。
ただ、時間の捻出はとても大変でした。女子栄養大学は、家からも職場からも遠かったので、行き帰りの電車では必ず席を確保して、車内で勉強をしたり、仕事をしたりしていました。
── 農学を学ばれたのはいつごろですか?
食品メーカーをやめて、独立してからですね。当時はフードバンク(品質に問題がないのに廃棄せざるをえない食品を引き取り、必要としている人に届ける活動)の仕事をしていたので、日本とアメリカのフードバンクの違いや、フードバンクの評価指標などをおもに研究していました。
それまでフードバンクの評価指標は、「重さ」だったんです。企業から何トン引き取って、困っている人に何トン寄付したか。でも、本当に重さでいいのかなという疑問があったんです。
たとえば水ってすごく重いけれど、0キロカロリーなんです。逆に、私が勤めていた会社で扱っていたシリアルは、すごく軽いけれども栄養価としては非常にバランスが取れています。
そこで、国土交通省などが使っている「B/C(費用便益比)」をフードバンクに当てはめて、新しい評価指標をつくってみると、アメリカよりも日本のほうがコストをかけずに効果を出していることがわかりました。
こうした研究をしていたのですが、働きながらだったので大変でした。睡眠時間を削っているので、毎日眠くて、眠くて。仕事を終えて、大学に行く前にマンガ喫茶に寄って仮眠をとったりしていましたね。
他人が決めたことを鵜呑みにするな
── 読書についてはいかがですか?
食の分野でいうと、マイケル・ポーランというアメリカの有名なジャーナリストがいるのですが、毎朝、歯磨きをするときに、この人の原書と邦訳本を同時に読んでいます。同じ部分を読み比べるんです。分厚いので、なかなか終わらないのですが。
影響を受けた本としては、当時の「とらばーゆ」がまとめた『女と仕事・私の方法』が印象に残っています。いろんな分野で活躍されている女性が、自分はどうやってキャリアを切り開いてきたのか語っている本なのですが、社会人なりたてのころに読んで、とても参考になりました。
似たような本で、『プロ論。』という本も何度も読み返しました。この本ではリリー・フランキーさんが、「生業と仕事は違う。生業はお金を稼ぐこと、仕事はお金にならないことをすること」、そして「仕事にどれだけ人生を費やせるかが大事だ」とおっしゃっていて、なるほどと思いました。
14年間、勤めた食品メーカーをやめるときに参考になったのは、『「もうこの会社やめたい」と思ったとき読む本』ですね。「一度、すべてを捨てて、マイナスからスタートできる人は、まず間違いなく成功します」と書いてあって、背中を押されたことを覚えています。
あとは、『賞味期限のウソ』を担当してくださった小木田順子さんが編集された、山田ズーニーさんの『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』も、ボロボロになるまで読み込みました。
とにかく、本は大好きですね。本屋さんに行くのも好きだし、図書館もよく利用しています。本を読む、読んで考える、考えて書くということが、自分を耕していくのかなと思います。
── 最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
この本の最後のほうで、私は次のようなメッセージを書きました。
「他人が決めたことを鵜呑みにする、“ひとごと”で“あなたまかせ”で受け身な姿勢をやめ、自分の頭で考え、自分の心で感じ、自ら行動し、自分の人生を切り開いていく生き方をしよう」
この「他人が決めたこと」の代表例が、賞味期限だと思うんです。
他人が決めたことに惑わされるのではなく、「どうやってこれは決まっているのだろう?」とか、「本当にこれは正しいのだろうか?」とか、そんなふうに一度、問うてみることが大切だと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】井出留美と語る「『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』から学ぶ食品ロスの今と人生を切り拓く方法」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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書籍『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』はこちら
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AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
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