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大塚篤司 幡野広志 新刊対談

2023.10.04 公開 ポスト

第1回(全3回)

「この小説、どれくらいフィクションなんですか?体験はほとんど……!?」大塚篤司(医師)/幡野広志(写真家)

医師で大学病院教授・大塚篤司先生と、写真家・幡野広志さんの対談が開催されました。

場所は、高田馬場にある芳林堂書店さん。

大塚先生の『白い巨塔が真っ黒だった件』と、幡野さんの『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』……と、お二人の新刊がほぼ同じ時期に刊行されたという、嬉しい偶然がきっかけです。

とはいえ、タイトルからもおわかりのように、内容的に重なる部分は無さそう……それどころか、真逆の匂いさえします!

それでも、日ごろからお付き合いのあるお二人のお話は盛り上がりました。

「この話はリポート記事には入れないで!」の繰り返しでスタートした対談をリポートします。

*   *   *

大塚 急激に恥ずかしくなってしまいました。

幡野 何が恥ずかしいんですか?

大塚 みなさん気づいてないかもしれないですけど、ネクタイが“オリジナル”なんです。さっきまでは余裕だったんですけど、人前に出たらすっごい恥ずかしくなってきました……

幡野 恥ずかしいんですね(笑)。

大塚 見世物になってる感じが……。

幡野 そういうものを着けてる時は、恥ずかしがっちゃダメですよ! 泣きっ面に蜂を、自分でやってるだけですから。

大塚 病院の先生がこれをつけてたら、引きませんか? これから命を預ける人のネクタイに「白い巨塔が真っ黒」って書いてあったら、この人に診てもらうのはやめようって思いませんか?

幡野 そういうお医者さんて、漫画に出てきそうですけど(笑)。ところで、このネクタイは……

大塚 娘がデザインしてくれて……

幡野 素敵じゃないですか!

大塚 大事なことを言っておかないとですが、4000円とられましたからね、デザイン料。

幡野 自分のお父さんが本出して、それのネクタイを作ったんですよね。いいじゃないですか!

大塚 ただ、字が嫌いだって、読んでもらってないのですけどね。

幡野 娘さんの事も書いてあるのに……。スイスでの話のところで、ちょっと泣きそうになっちゃいましたもん。

大塚 まあ、フィクションですからね!

幡野 え? フィクションなの? これ? 大塚先生に会ったら聞きたいなって思ってたんですけど、この小説、どれくらいフィクションなんですか? 変えてるのは名前ぐらいじゃないんですか? 体験としてはほとんど……!?

大塚 いや、これねえ……このあと、このトークイベントが記事になるので、歯切れは悪くなりますけど……。

幡野 編集してくれます! 大丈夫です!

大塚 記事が全部なくなるかもしれないですよ……?

『白い巨塔が真っ黒だった件』を読んで、人間不信になりました

幡野 大学病院の教授って、すごい権力持ってるんですね。

大塚 持ってそうですか?

幡野 いや、大塚先生、権力持ってんだ―と思って……(笑)。

大塚 そういう目で見るの、やめてください(笑)。

幡野 いやいや、僕、見方変わりましたよ。毎月、抗がん剤治療で病院行ってますけど、診てくれる人は教授なんですよ。仲がいいんですけど、「もしかしてこの人も裏があるのかな……」って思っちゃった(笑)。僕が通っているのは血液内科なんで、そんなことないかなって思ってるんですけど。

大塚 いやいやいやいや(笑)。

幡野 ほんとに!?(笑)。

大塚 教授選の面接の日に、カラスに頭を突かれるくだりがあるんですけど、あれは本当です。

幡野 え!? あんなこと、本当に起きるんですか? ところで、あのカラスの雛(庭に落ちて、親元から離れてしまった)は、その後どうしたんですか?(※本書の中で、親カラスは、大塚先生が雛を奪ったと思ったのか、大塚先生に攻撃をしてきた)

大塚 あのあと、警察が来てくれて、回収したんですけど、警察も命がけというか……。

幡野 カラスが襲ってくるから?

大塚 はい、それに抵抗しながら山に持ち帰って……。

幡野 そうなんですね。山に返したんですか。

大塚 食べたって話は聞いてないです(笑)

幡野 カラスはそんなに美味しくないですからね。

大塚 あ!

幡野 はい、僕、狩猟やってたんで。カラスは何羽食べたかな……。3羽くらいで、もういいわって思いました。

大塚 どんな味がするんですか?

幡野 一番近いのは、焼き鳥のレバーです。

(会場 どよめき)

編集部注:ハト、カラスは鳥獣保護法により、保護の対象となっています。 しかし、農林水産物被害、生活環境の悪化、人身への危害、生態系の攪乱が生じている場合、 またはその恐れがある場合は有害鳥獣捕獲申請を自治体に提出し、許可を得て狩猟免許の有資格者が捕獲できます

幡野 レバーでも、濃いレバー。カラスって、くちばしが細いのと、太いのと2種類いて、みんなが「こわい」っていうのは、太いほうなんですよ。体がデカいから。くちばしが細いやつは、畑とかで野菜や果物をつついてるカラスで、比較的、美味しい。長野とか行くと、ふつうにカラス料理とか出てきます。ふつうに食べられるっていうか……。そんなに「おかわり」はしたくないですけどね。

大塚 どうやって食べるんですか? 干したら美味しい、とか?

幡野 味がきついので、味噌煮込みとか、強い味にしないと食べられないな。

大塚 なるほど。

幡野 ……カラスの話はもういいです(笑)。教授選とか、裏切りの話を……。ええと、向こうは裏切ってるつもりがないかもですけど、こっちからしたら裏切られた、ってこと、結構あるじゃないですか?

大塚 そうですねえ。ありますねえ。

幡野 僕、『白い巨塔が真っ黒だった件』を読んで、人間不信になりましたよ! だって、テレビドラマとか普通の小説だったら「確実に味方だよねって人」が、(この本だと)裏切るじゃないですか。映画とかドラマとかに出てくる「裏切り者」って、なんとなくわかるじゃないですか。「事実は小説よりなんちゃら」って言いますけど……

大塚 小説ですからね(笑)。……教授選の最中はやっぱしんどくて、ほぼ人間不信ですよ。山崎豊子さんの『白い巨塔』が、もっと身近に迫ってきた感じの……。

幡野 『白い巨塔』って、“実弾”が飛び交うじゃないですか。実弾って、つまり“札束”が……。ああいうのって、実際あるものなんですか?

大塚 僕、それ、調査したんですよ。「金を包んだ方がいいのか」みたいな。何か「賄賂的」なことをやるべきなのか……と。僕が調査した限りでは、表に出てくる情報はなかったです。

幡野 やってないってこと? 黙ってるってこと?

大塚 ええとですね……これは……

<研究費についての話が展開されますが、ワケあって、途中略……>

幡野 お金……写真業界もわりとそうですよ。

大学病院も、写真の世界も、権力で真っ黒!? これが「賞」の実態だ!

大塚 幡野さんの業界でも、賞ってあるじゃないですか。賞って平等だと思いますか?

幡野 平等だと思いません!

大塚 ですよね!? けっこう、エグくないですか?

幡野 平等だと思ってまじめにやってる子を見るたびに、かわいそうだなと思うと同時に、それじゃうまくいかねーよとも思う。賞は正直、大学受験なみにテクニカルにいかないと獲れない。

大塚 大丈夫ですか? そんな話して、写真業界で消されるとかないですか?

幡野 大きい賞になると、日本中から応募が集まるわけですよ。審査員の方が5人いたとしますよね。5人がたとえば10万点もの作品を見られるわけないじゃないですか。つまり、第一段階で関係者が見てふりおとし、残ったやつを審査員の先生たちが見るわけですよ。まず最初に忖度をしないといけない。二段階で忖度をしないといけない。

大塚 なるほど。

幡野 僕が20代前半から半ばくらいのとき、僕も賞にたくさん出したんですが、落ちて落ちて……で、テクニカルにやったら、すっと通った。あれは受験とか、車の免許と一緒です。教習所に通わないと、車の免許とれないじゃないですか。一発で受けることもできますけど、落とされますよね。それと近しいというか……。今は減ってると信じたいですけど。

大塚 研究者の賞もあるんですけど、僕は審査側にも回ってる人間なので、このどす黒さは、よろしくないなあと思いながら……。

幡野 やっぱ、あるんですか!?

大塚 基本みなさん、ちゃんと選ぼうと思ってるんですよ。ですが、一人が捻じ曲げようとしたときに、場が乱れるんです。

幡野 まさにこの本にもある教授選と同じですよね。

大塚 同じです。…みんなが「平等にいい人を選ぼう、いいものを選ぼう」って思ってるときは純粋に進むんですけど、そこで、一人でも強い力を持つ人が現れた時に防げないのは、国際社会でも同じじゃないですか。

幡野 そういうもんなんでしょうね。

大塚 それ以来、僕、賞が嫌いになって。やりませんかと依頼されることもあるんですけど、全部断ってるんですよ。

幡野 そういえば、写真業界でも、賞に出しませんかって言われるんですよ。出したら、入賞するのが決まっている出来レースの賞で、そのかわり、いくら払ってくださいってのがあるんです。

(会場 どよめき)

大塚 『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』は、そんなことは書いてない本ですが。

幡野 そんなことは書いてない(笑)。

業界用語と「ひやちゅう」

大塚 『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』まだ全部読めてないんですけど、(発売は2日前でした)、うちの家族のこと書いてますね!

幡野 京都の中華ね! 大塚先生の奥さんと長男、そして作家の岸田奈美ちゃん。4人で行ききました。

大塚 「冷やちゅう」の話ね。

幡野 中華のサカイだ! 有名なんですね。行ったことありますか?

大塚 そりゃ行ったことありますよ(笑)! 僕の家族が教えたんですから、行ったことありますよね(笑)。

幡野 仕事忙しいから行ってないのかなって……。

大塚 そんなことないですよ。行ってますよ。

幡野 めちゃくちゃおいしくないですか? あそこの「冷やちゅう」。

大塚 「ひやちゅう」じゃなくて、「冷麺」なんですよ。「冷やし中華」を関西では「冷麺」って呼ぶと。

幡野 「冷麺」って呼ぶのが、まず、びっくりした。

大塚 関東では冷やし中華を「ひやちゅう」って言うんだよ、ってうちの妻に教えて、そしたら、妻が「そんなことないよねえ」って。

幡野 あれ?「ひやちゅう」って言わないですか? 関東の人。

(会場「言わない」「言わない」)

幡野 撮影業界では言いますよ、略すことが多いですから。銀座の事を「ざぎん」って言ってた人種ですよ。鮨のことを「しーすー」で、「ざぎんのしーすー」みたいな。

大塚 それ、ひっくり返してるだけですよね(笑)。

幡野 広告業界とかにも、言ってる人いましたよ。20年前に、40歳くらいだった人、今60歳くらいの人。

(次へ続く)

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大塚篤司 幡野広志 新刊対談

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大塚篤司 医師

1976年生まれ。千葉県出身。近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授。 2003年信州大学医学部卒業、2010年京都大学大学院卒業、2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部外胚葉性疾患創薬医学講座(皮膚科兼任)特定准教授を経て、2021年より現職。専門は皮膚がん、アトピー性皮膚炎、乾癬など。アレルギーの薬剤開発研究にも携わり、複数の特許を持つ。アトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー患者をこれまでのべ10000人以上診察。アトピーに関連する講演も年間40以上こなす。間違った医療で悪化する患者を多く経験し、医師と患者を正しい情報で橋渡しする発信に精力を注ぐ。日本経済新聞新聞、AERA dot.、BuzzFeed Japan Medical、などに寄稿するほか、著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)、『教えて!マジカルドクター 病気のこと、お医者さんのこと』(丸善出版)などがある。最新刊は、自身の教授選の体験をもとにした初の小説『白い巨塔が真っ黒だった件』(幻冬舎)。

幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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