医師で大学病院教授・大塚篤司先生と、写真家・幡野広志さんの対談が開催されました。
場所は、高田馬場にある芳林堂書店さん。
大塚先生の『白い巨塔が真っ黒だった件』と、幡野さんの『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』……と、お二人の新刊がほぼ同じ時期に刊行されたという、嬉しい偶然がきっかけです。
とはいえ、タイトルからもおわかりのように、内容的に重なる部分は無さそう……それどころか、真逆の匂いさえします!
それでも、日ごろからお付き合いのあるお二人のお話は盛り上がりました。
「この話はリポート記事には入れないで!」の繰り返しでスタートした対談をリポートします。
* * *
大塚 急激に恥ずかしくなってしまいました。
幡野 何が恥ずかしいんですか?
大塚 みなさん気づいてないかもしれないですけど、ネクタイが“オリジナル”なんです。さっきまでは余裕だったんですけど、人前に出たらすっごい恥ずかしくなってきました……
幡野 恥ずかしいんですね(笑)。
大塚 見世物になってる感じが……。
幡野 そういうものを着けてる時は、恥ずかしがっちゃダメですよ! 泣きっ面に蜂を、自分でやってるだけですから。
大塚 病院の先生がこれをつけてたら、引きませんか? これから命を預ける人のネクタイに「白い巨塔が真っ黒」って書いてあったら、この人に診てもらうのはやめようって思いませんか?
幡野 そういうお医者さんて、漫画に出てきそうですけど(笑)。ところで、このネクタイは……
大塚 娘がデザインしてくれて……
幡野 素敵じゃないですか!
大塚 大事なことを言っておかないとですが、4000円とられましたからね、デザイン料。
幡野 自分のお父さんが本出して、それのネクタイを作ったんですよね。いいじゃないですか!
大塚 ただ、字が嫌いだって、読んでもらってないのですけどね。
幡野 娘さんの事も書いてあるのに……。スイスでの話のところで、ちょっと泣きそうになっちゃいましたもん。
大塚 まあ、フィクションですからね!
幡野 え? フィクションなの? これ? 大塚先生に会ったら聞きたいなって思ってたんですけど、この小説、どれくらいフィクションなんですか? 変えてるのは名前ぐらいじゃないんですか? 体験としてはほとんど……!?
大塚 いや、これねえ……このあと、このトークイベントが記事になるので、歯切れは悪くなりますけど……。
幡野 編集してくれます! 大丈夫です!
大塚 記事が全部なくなるかもしれないですよ……?
『白い巨塔が真っ黒だった件』を読んで、人間不信になりました
幡野 大学病院の教授って、すごい権力持ってるんですね。
大塚 持ってそうですか?
幡野 いや、大塚先生、権力持ってんだ―と思って……(笑)。
大塚 そういう目で見るの、やめてください(笑)。
幡野 いやいや、僕、見方変わりましたよ。毎月、抗がん剤治療で病院行ってますけど、診てくれる人は教授なんですよ。仲がいいんですけど、「もしかしてこの人も裏があるのかな……」って思っちゃった(笑)。僕が通っているのは血液内科なんで、そんなことないかなって思ってるんですけど。
大塚 いやいやいやいや(笑)。
幡野 ほんとに!?(笑)。
大塚 教授選の面接の日に、カラスに頭を突かれるくだりがあるんですけど、あれは本当です。
幡野 え!? あんなこと、本当に起きるんですか? ところで、あのカラスの雛(庭に落ちて、親元から離れてしまった)は、その後どうしたんですか?(※本書の中で、親カラスは、大塚先生が雛を奪ったと思ったのか、大塚先生に攻撃をしてきた)
大塚 あのあと、警察が来てくれて、回収したんですけど、警察も命がけというか……。
幡野 カラスが襲ってくるから?
大塚 はい、それに抵抗しながら山に持ち帰って……。
幡野 そうなんですね。山に返したんですか。
大塚 食べたって話は聞いてないです(笑)
幡野 カラスはそんなに美味しくないですからね。
大塚 あ!
幡野 はい、僕、狩猟やってたんで。カラスは何羽食べたかな……。3羽くらいで、もういいわって思いました。
大塚 どんな味がするんですか?
幡野 一番近いのは、焼き鳥のレバーです。
(会場 どよめき)
編集部注:ハト、カラスは鳥獣保護法により、保護の対象となっています。 しかし、農林水産物被害、生活環境の悪化、人身への危害、
幡野 レバーでも、濃いレバー。カラスって、くちばしが細いのと、太いのと2種類いて、みんなが「こわい」っていうのは、太いほうなんですよ。体がデカいから。くちばしが細いやつは、畑とかで野菜や果物をつついてるカラスで、比較的、美味しい。長野とか行くと、ふつうにカラス料理とか出てきます。ふつうに食べられるっていうか……。そんなに「おかわり」はしたくないですけどね。
大塚 どうやって食べるんですか? 干したら美味しい、とか?
幡野 味がきついので、味噌煮込みとか、強い味にしないと食べられないな。
大塚 なるほど。
幡野 ……カラスの話はもういいです(笑)。教授選とか、裏切りの話を……。ええと、向こうは裏切ってるつもりがないかもですけど、こっちからしたら裏切られた、ってこと、結構あるじゃないですか?
大塚 そうですねえ。ありますねえ。
幡野 僕、『白い巨塔が真っ黒だった件』を読んで、人間不信になりましたよ! だって、テレビドラマとか普通の小説だったら「確実に味方だよねって人」が、(この本だと)裏切るじゃないですか。映画とかドラマとかに出てくる「裏切り者」って、なんとなくわかるじゃないですか。「事実は小説よりなんちゃら」って言いますけど……
大塚 小説ですからね(笑)。……教授選の最中はやっぱしんどくて、ほぼ人間不信ですよ。山崎豊子さんの『白い巨塔』が、もっと身近に迫ってきた感じの……。
幡野 『白い巨塔』って、“実弾”が飛び交うじゃないですか。実弾って、つまり“札束”が……。ああいうのって、実際あるものなんですか?
大塚 僕、それ、調査したんですよ。「金を包んだ方がいいのか」みたいな。何か「賄賂的」なことをやるべきなのか……と。僕が調査した限りでは、表に出てくる情報はなかったです。
幡野 やってないってこと? 黙ってるってこと?
大塚 ええとですね……これは……
<研究費についての話が展開されますが、ワケあって、途中略……>
幡野 お金……写真業界もわりとそうですよ。
大学病院も、写真の世界も、権力で真っ黒!? これが「賞」の実態だ!
大塚 幡野さんの業界でも、賞ってあるじゃないですか。賞って平等だと思いますか?
幡野 平等だと思いません!
大塚 ですよね!? けっこう、エグくないですか?
幡野 平等だと思ってまじめにやってる子を見るたびに、かわいそうだなと思うと同時に、それじゃうまくいかねーよとも思う。賞は正直、大学受験なみにテクニカルにいかないと獲れない。
大塚 大丈夫ですか? そんな話して、写真業界で消されるとかないですか?
幡野 大きい賞になると、日本中から応募が集まるわけですよ。審査員の方が5人いたとしますよね。5人がたとえば10万点もの作品を見られるわけないじゃないですか。つまり、第一段階で関係者が見てふりおとし、残ったやつを審査員の先生たちが見るわけですよ。まず最初に忖度をしないといけない。二段階で忖度をしないといけない。
大塚 なるほど。
幡野 僕が20代前半から半ばくらいのとき、僕も賞にたくさん出したんですが、落ちて落ちて……で、テクニカルにやったら、すっと通った。あれは受験とか、車の免許と一緒です。教習所に通わないと、車の免許とれないじゃないですか。一発で受けることもできますけど、落とされますよね。それと近しいというか……。今は減ってると信じたいですけど。
大塚 研究者の賞もあるんですけど、僕は審査側にも回ってる人間なので、このどす黒さは、よろしくないなあと思いながら……。
幡野 やっぱ、あるんですか!?
大塚 基本みなさん、ちゃんと選ぼうと思ってるんですよ。ですが、一人が捻じ曲げようとしたときに、場が乱れるんです。
幡野 まさにこの本にもある教授選と同じですよね。
大塚 同じです。…みんなが「平等にいい人を選ぼう、いいものを選ぼう」って思ってるときは純粋に進むんですけど、そこで、一人でも強い力を持つ人が現れた時に防げないのは、国際社会でも同じじゃないですか。
幡野 そういうもんなんでしょうね。
大塚 それ以来、僕、賞が嫌いになって。やりませんかと依頼されることもあるんですけど、全部断ってるんですよ。
幡野 そういえば、写真業界でも、賞に出しませんかって言われるんですよ。出したら、入賞するのが決まっている出来レースの賞で、そのかわり、いくら払ってくださいってのがあるんです。
(会場 どよめき)
大塚 『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』は、そんなことは書いてない本ですが。
幡野 そんなことは書いてない(笑)。
業界用語と「ひやちゅう」
大塚 『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』まだ全部読めてないんですけど、(発売は2日前でした)、うちの家族のこと書いてますね!
幡野 京都の中華ね! 大塚先生の奥さんと長男、そして作家の岸田奈美ちゃん。4人で行ききました。
大塚 「冷やちゅう」の話ね。
幡野 中華のサカイだ! 有名なんですね。行ったことありますか?
大塚 そりゃ行ったことありますよ(笑)! 僕の家族が教えたんですから、行ったことありますよね(笑)。
幡野 仕事忙しいから行ってないのかなって……。
大塚 そんなことないですよ。行ってますよ。
幡野 めちゃくちゃおいしくないですか? あそこの「冷やちゅう」。
大塚 「ひやちゅう」じゃなくて、「冷麺」なんですよ。「冷やし中華」を関西では「冷麺」って呼ぶと。
幡野 「冷麺」って呼ぶのが、まず、びっくりした。
大塚 関東では冷やし中華を「ひやちゅう」って言うんだよ、ってうちの妻に教えて、そしたら、妻が「そんなことないよねえ」って。
幡野 あれ?「ひやちゅう」って言わないですか? 関東の人。
(会場「言わない」「言わない」)
幡野 撮影業界では言いますよ、略すことが多いですから。銀座の事を「ざぎん」って言ってた人種ですよ。鮨のことを「しーすー」で、「ざぎんのしーすー」みたいな。
大塚 それ、ひっくり返してるだけですよね(笑)。
幡野 広告業界とかにも、言ってる人いましたよ。20年前に、40歳くらいだった人、今60歳くらいの人。
(次へ続く)
大塚篤司 幡野広志 新刊対談
この夏、『白い巨塔が真っ黒だった件』を上梓した医師の大塚篤司氏。『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』を上梓した、写真家の幡野広志司。全く方向性の違う本ですが、話し始めると盛り上がり…。ということで、8月25日に開催された対談をまとめました!