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大塚篤司 幡野広志 新刊対談

2023.10.11 公開 ポスト

最終回(全3回)

「働き方改革の結果、世界との競争力は?」「本当のコミュニケーション下手って?」次々に興味深いテーマが大塚篤司(医師)/幡野広志(写真家)

白い巨塔が真っ黒だった件の著者、医師の大塚篤司先生と、息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。の著者、写真家・幡野広志さんの新刊刊行記念対談。

話が膨らみ、子どもや人材の育て方の話に。育て方の正解はあるのか!?

*   *   *

働き方改革で、日本は世界に対抗できる?

大塚 もう一つ葛藤があるんですが、「働き方改革」って、医者側もやってるんですよ。来年から労働時間が制限される……みたいのがあり、当直をバンバンやるような人たちが少なくなるなど、医者の“ボランティア”で成り立ってた構図がなくなっていく。競争力っていうのを考えると、「ゆるくて短い時間」でやって、世界で対抗できるのか?って。「自分が世界で一番最初に発見しよう」みたいに努力してるのが世界なので、「みんなで楽しくやりましょう」ってのは、もちろんいいと思うんですけど、そこで世界との競争力を身に着けられるのかな? っていう……。

幡野 医者の業界は、世界って厳しいんですか?

大塚 競争をちゃんと肯定している世界もあります。パワハラとかは論外ですけど、やっぱりギリギリの闘いをしている人たちがいる。……スポーツと同じですよ、「練習時間を短くして、かつ強いチームにしましょう」っていうことに、指導者は苦労するじゃないですか。

幡野 うんうん。

大塚 僕もチームリーダーになってるので、スタッフみんなの生活を担保しつつ、でも、仲良し集団で終わっちゃいけないなってすごく思いますね。ここで何かいい仕事をするには、やっぱりみんな、ちゃんとやっていかないといけないので、そのさじ加減がすごく難しい。

幡野 そうですね。それって、全体で言えますよね。この間、若手経営者としゃべったんですけど、働き方改革によって「あまり働かないで自分の時間を持とう」みたいな風潮になってきたから、その人は「大チャンス!」って思ったそうなんです。「みんながサボっているのと変わらないから、その間に、僕はただただ仕事をして、業績を上げていくだけです。それで勝つのは俺です」って。確かにその考え、ありますよね。

大塚 それが日本全体で起きている、と……。日本がサボってる間に、「うちの国はこっちの分野で頑張ろう」みたいになったら、どんどん日本は負けてくんですよ。そうすると貧しくなっちゃうじゃないですか。貧しいと、今度はみんな心の余裕がなくなるので、ぎすぎすして足の引っ張り合いとか出てくる。心のゆとりが無くなる状態がいやだなあ。

幡野 うちの子は、今小1で、夏休みの宿題が割と多いんですよ。結構量があるので、僕が子供だったら、やだなって思って、世界の夏休みの宿題を調べたんですよ。

大塚 それはおもしろいですね!

幡野 そしたら、僕が調べたところ、夏休みの宿題がある国って、日本と韓国とシンガポールくらいなんですね。アメリカとかは、ほぼない。一応あっても、本を読みましょうみたいな感じ。ドリルやりましょう、何かやりましょうみたいなことは全然なくて、日本はトップクラスに多いんですよ。ただ、宿題が一番多いのはシンガポール。で、それと学力が比例してるんですよ。

大塚 シンガポール、凄いですよ。医学の世界も、これまでは国際学会をアジアでやるなら東京がメインだったんですけど、もう中心がシンガポールに移りました。

幡野 やっぱりそこは、反映してるんですね。

大塚 アメリカでも“上の人”は、すごく優秀ですけどね。日本は上にいくと叩かれますから、「上も潰される、真ん中も下がる」ってなってしまう。これって、ちょっとつらいじゃないですか。僕はそういうのを脱したいというのもあって。

写真展で写真見ても、「よくわかんくないですか?」。だから言葉が必要!?

大塚 幡野さんの本で、僕が凄いなと思うのが、写真と文がセットでマッチしてて。

幡野 セットでマッチ(笑)!

大塚 ……なんか、すみません、ばかみたいなこと言っちゃって(笑)。

幡野 僕、写真だけ出しててもしょうがないっていうか……。写真展って、日本中でやってますけど、あれ、写真だけ見て、わかりますか? なんか、わからなくないですか?

大塚 僕はもともと写真展にあまり行くような人間ではなかったですが、幡野さんに会うまで、写真と文章をセットで見せるって形にあまり触れたことがありませんでした。

幡野 若い時から、人の写真展に行ったり、パーティーに行ったりして、いつも思っていたのが、「よくわからない」だったんですよ。写真家を目指してる人間なのに、写真を見ても、よくわかんないなって。いろいろ説明してくれるんですよ、これは宇宙のなんちゃらかんちゃらとか(笑)。余計にわかんなくて……! 写真がわからないから、わかりやすい文章を書かないとダメなんじゃないかとすごく思うんです。ところが、わかりやすい文章じゃなくて、ポエムみたいな文章を書いちゃう人がいるんですよ。

大塚 なるほどなるほど!

幡野 かっこいい文章というのかな……。そうすると、よくわかんない写真によくわかんない文章が重なって、余計にわかんない作品になっちゃう。それで、僕は、簡単な文章を……って。

大塚 書いてる側も、「わかんなくっていい」みたいな奢りがあるのでは。

幡野 あるある!

大塚 幡野さんみたいな形での写真と文章って、両方できないといけないから、結構難しいと思います。

幡野 そうですね、文章が苦手な写真家は多いかも。「写真家は文章が上手い」って思ってる方って、結構いるんですけど、写真家の世界の住人からすると、これほど文章を書くのが下手な「群」も珍しいと思います。

大塚 でも、幡野さんも上手だし、ワタナベアニさんも上手だし。

幡野 一部の人を見てしまうと、「写真家の方って文章書くんですね」と思われがちだけど、写真家は何万人といるわけですから、全体から見たら、かなり、語彙力というか文章能力が低いんじゃないかな。

コミュニケーションの上手な人ほど、「距離感は遠い」!?

大塚 時々、僕のTwitterを見たり、僕の本を読んでいる患者さんが診察に来るんですけど、明らかに他の患者さんより、距離感が近いんです。ニヤニヤしながら、診察を受けたりします。

幡野 それってどうですか?

大塚 ええ?と思います(笑)

幡野「コミュニケーションが苦手な人」っているじゃないですか。世間一般では、「距離が遠い人」の事を、「コミュ障」みたいに言うじゃないですか。でも、「コミュニケーションがほんとに下手な人」って”近い”んですよね。逆なの。「遠い人」って全然普通ですよ。あたりまえじゃないですか、初対面なんだから。

大塚「間を詰める」ところがわかってないんでしょうね。幡野さんは人間関係を構築されるのが上手なので、仲良くなったらすごく近くなったんですけど、そうじゃないときは、さーって引きますよね。メールの返事、本当に返さないですからね(笑)。びっくりするくらい!

幡野  返さないですよね(笑)

大塚 幡野さんとの会話、ほぼマネージャーの小池さんですから!

幡野 そうそう(笑)。でも、会ったら普通じゃないですか? メールだけです(笑)……みんな、メールって全部返すんですよね?

大塚 社会人ですから!

幡野 全部返してたら仕事にならないかも……(笑)。

大塚先生の白い巨塔が真っ黒だった件についておススメしてください

幡野 この本は、途中でやめると、ただただ人間不信になるので、最後まで読んでください。最後の10%で、ようやく「よかったー」ってなります。大塚先生のことを知ってるし、奥さんの事も子供の事も知ってるから、最後まで読まないとただつらい、って感じかも。

大塚 つらいと思って生きてる皆さんへのエールが込められてます!

幡野 つらい経験をした人ほど、ホッとするかも。

幡野さんの息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。なんで僕に聞くんだろうシリーズ』をおススメしてください

幡野 自分の本を推すのってむずかしい。特にないですね。自分の文章を紹介するの苦手なんですよね。面白いらしいですよ(笑)。あ、自分のものを面白いって言わないか!

大塚 僕が思うに、両方とも優しい本なんですけど、「なんで僕」のシリーズは優しさの中に強さがある。の『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』のほうは、「優しい」で全面覆われてる感じ。基本、どっちも優しいんですよ。幡野さんて、文章だけ読むとすごい怖い人って思われるみたいですね(笑)。

幡野 よく言われる! 会うと「キレれるんじゃないか」みたいに思うらしいです(笑)。

 

―ーその後、サイン会でお客さんひとりひとりとの交流のの時間もとり、とても楽しい対談&サイン会となりました。

大塚さん、幡野さん、ご来場くださった皆さん、芳林堂さん、どうもありがとうございました!

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大塚篤司 幡野広志 新刊対談

この夏、『白い巨塔が真っ黒だった件』を上梓した医師の大塚篤司氏。『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』を上梓した、写真家の幡野広志司。全く方向性の違う本ですが、話し始めると盛り上がり…。ということで、8月25日に開催された対談をまとめました!

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大塚篤司 医師

1976年生まれ。千葉県出身。近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授。 2003年信州大学医学部卒業、2010年京都大学大学院卒業、2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部外胚葉性疾患創薬医学講座(皮膚科兼任)特定准教授を経て、2021年より現職。専門は皮膚がん、アトピー性皮膚炎、乾癬など。アレルギーの薬剤開発研究にも携わり、複数の特許を持つ。アトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー患者をこれまでのべ10000人以上診察。アトピーに関連する講演も年間40以上こなす。間違った医療で悪化する患者を多く経験し、医師と患者を正しい情報で橋渡しする発信に精力を注ぐ。日本経済新聞新聞、AERA dot.、BuzzFeed Japan Medical、などに寄稿するほか、著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)、『教えて!マジカルドクター 病気のこと、お医者さんのこと』(丸善出版)などがある。最新刊は、自身の教授選の体験をもとにした初の小説『白い巨塔が真っ黒だった件』(幻冬舎)。

幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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