ビッグモーターから独立し、最大手業販サイトで2021年度販売台数ナンバー1の自動車業販店を設立した中野優作氏。氏が営業とマネージメントの最強ノウハウを大胆に公開する書籍『クラクションを鳴らせ! 変わらない中古車業界への提言』より、懺悔と誓いの詰まった「はじめに」を公開します。
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当時の僕は「必要な犠牲だ」と自分に言い聞かせていた
本当に申し訳ない事をした。
当時の僕は自分たちのやっている事に1ミリも疑いを持たずに、仕事に誇りを持っていた。
競争に勝つ事に必死で、社内で勝ち上がり、社内に敵がいなくなると、外にそれを求めた。ライバルを見つけ、徹底的に戦い、勝ち続ける事で自分の力を誇示していた。
無知で無謀な若者でも勢いだけはあった。捨て身だからだ。失うものなど何もない。お粗末なマーケティングと強引なマネジメントを武器に、それでも地域で断トツNo.1と言われる店を運営した。地域を制した後は、全国だ。同業者と徹底的に戦った。金に物を言わせる圧倒的強者の戦略だ。
酷い話だ。地域に根差したお客様主義の店舗を何社潰しただろうか。
30代前半のやる気のある、無知な若造の僕は、楽しくって仕方がなかった。
最年少記録だ、No.1だともてはやされ、30歳で何百人もの部下を率い、右肩上がりに成長していく組織。やる事全てがヒットし、面白いぐらいに売れた。年々上方修正していく目標、上がる年収。付き合う人も身に着けるものも何もかもが変わっていった。
僕は香川県さぬき市にある人口5000人の港町に育った田舎者だ。スーツを着た人を見る事なんかほとんどない。町の人は漁師や工場勤務、土木や建築現場で働く人が大半の貧しい町だ。そんな町で僕も決して裕福とは言えない家庭に育ち、ご近所様にいたずらをして、迷惑をかけてばかりの悪ガキだった。高校も1年も通わずに中退している。そんな自分が何かを成し遂げていっている感覚が、自分をおかしくしていった。周囲の期待も膨らんで勘違いをし、止まれなくなった。数字を作る手段を選ばなくなっていった。
僕がマネージャーや本部スタッフになってからも、沢山の人が辞めていった。病んでしまった人もいるかもしれない。家族がバラバラになった話もよく聞いた。それでも当時の僕は必要な犠牲だと自分に言い聞かせていた。そして、都合の悪い事は耳に蓋をして聞こえないふりをしていた。
再度言いたい。本当に申し訳なかった。
全てが異常だった。当時の僕は一体、何と戦っていたんだろう。
営業を始めたのは、ただ、もっと幸せになりたかったからだ。
多くの人が望むのと同じように、働いて、しっかり稼いで、好きなクルマに乗って、大きな家に住んで、幸せな家庭を築きたかった。ビッグモーターのほとんどの社員がそんな人たちだった。
だが、数年働いて結果を出していくうちに、そのレールから降りられなくなる。
望んでいたよりずっと高い年収を手に入れて、もう十分な筈なのに、もっともっとと、戦う。利益至上主義に染まってしまい、抜けられなくなる。
閉ざされた世界の中での戦いは世間の当たり前とかけ離れていく。
僕はたまたま抜けられたが、盲目的にトップの方針が全てだと思い、従ってきた。もちろん自分なりには正しい事だけをしてきたつもりだ。だけど、その中で手に入れ、広めてきたノウハウは全て正しく使われたとは言えない。今現在中古車市場で起きているマーケティング合戦を始めるキッカケにもなり、強引なマネジメントを加速させたかもしれない。
だから僕は、この本を書く事にした。ノウハウの公開だ。
ノウハウの公開により情報を民主化する事で、業界のレベルアップに少しでも貢献したかった。ライバルともノウハウを共有して、そのお店を利用するユーザーのクルマ選びが少しでも楽しくなって欲しい。この本で書く内容は他では得られないと思う。僕にとっては生きる手段として命を削りながら考えたノウハウだ。僕の命の使い方そのものを書いている。小手先のテクニックとは違う。
急成長を支える土台になったのはビッグモーターでの経験
26歳で大手企業に勤めるまでの僕は土木の現場で働いていた。中卒の僕にとって大企業でスーツを着て働くだけで夢のようだった。掴んだチャンスを絶対に手放さないように、命懸けで毎日真剣に考えた。人生を取り戻すと一分を惜しんで死ぬ気で行動した。毎日鏡の前で、「やれよ!」と自分に言った。「気を抜いたらあの頃に逆戻りだぞ」と。時には倒れたり、血尿を流しながら、それでも休まず働いた。周囲からは何かに取りつかれたように見えていたらしい。
毎日命を燃やしながら働いた。今日まで手を抜いた日は一日もない。他の人とは覚悟が違った。もう一日も無駄にしたくなかった。一秒でも早く成長したくて必死だった。
そうやって、26歳の未経験から、入社1年で全国トップになった。その半年後に初店長。その後、超大型店舗での店長やエリアマネージャーを経験した。売りまくった。その実績を認められて営業本部に抜擢された。マーケティング、マネジメント、仕入、採用、教育、グループ会社の再建等、自動車販売に関する仕事のほとんどを経験してきた。
当時を振り返っても異常な出世スピードだったと思う。持ち場で誰よりも結果を出し、全員を黙らせるだけの数字を常に出し続けてきた。ビッグモーターに入社してから退職するまでの約10年間、プライベートを捨てて、全てを捧げていた。
その後、一人でプレハブからスタートしたBUDDICAも、創業5年で販売台数四国No.1を獲得した。
僕たちは、これまで業界で培った全てを「商品力」に注ぎ込み、2022年度オートサーバーでの販売台数日本一を獲得した。品質の五つ星認定もいただき、業販日本一と言われるまでに成長した。
そして、その商品の全てを、全国のライバルにも開放している。
BUDDICAはこれまでのライバルを「競争関係」から「共闘関係」へと再定義し、自分たちの「商品」をライバルと一緒に市場に届けてきた。
創業時、商品を開放すると話すとあらゆる先輩方が、「絶対にうまくいかない」とアドバイスをくれた。だが、今のところ、これまでの誰よりも早く組織を成長させてこられたと思う。
この創業からの急成長を支える土台になったのはビッグモーターでの経験だ。今回世間を騒がせているような、不正なんかじゃない。この本には、真っ当にやってきて成功した部分や、繰り返して欲しくない失敗を余すところなく書いた。
自分自身が数々のトライ&エラーを繰り返し、時には小便に血を混じらせ、内臓を痛めながら手に入れた、僕にとっては数少ない、大切な財産だ。
現役のビジネスパーソンや、これからクルマ屋を始めたい人、営業マン、マネージャー、経営者の皆さんが当事者として読めるように書いた。
課題を解決していくノウハウは失敗から始まっている。当時を思い出しながら書いたが、苦しい時がほとんどだった。本当に壁にぶつかってばかりだったなと改めて思う。当時の自分のように、今現場で戦っている全ての人の力になればと僕の人生と重ねて書いた。
本書は3部に構成が分かれている。
Chapter1では営業とは何かを再定義し、クルマの売り方を具体的に説明する。クルマ業界の人はもちろん、営業職に就く全ての人に意味がある内容だと思う。
Chapter2では店舗マネジメントや組織運営について。僕の生々しい実体験を通してマネジメントの本質を伝えている。まだビッグモーター騒動の根源にも触れている。
Chapter3ではビッグモーターの崩壊の理由と僕が革命を決意した事について書いている。
どこから読んでもらっても構わない。Chapter1、2は超実践的なマニュアルだ。成長ステージに合わせて何度でも読み返せるように意識して書いている。読み終えたら試して欲しい。改善点を見つけ、翌日アクションして欲しい。
この本は当初、ビジネス書として全国10万社を超えるとも言われている自動車販売店の方に向けて書いていたが、ビッグモーターの一連の報道によって大幅に加筆修正する事にした。組織ぐるみの不正や犯罪とも呼べる問題の根幹になっている組織風土にも触れている。絶対に同じ事を繰り返してはならない。
金儲けの為に誰かを苦しめたり、傷つけたり、誰かの笑顔を奪うような事は仕事とは言わない。
本来仕事とは、誰かの笑顔を増やす事の筈だ。
本書は、極端な利益至上主義に対する、クラクション(注意喚起)でもある。