「AI」に職が奪われるといった話がありますが、実際には「AIを使える人間」に職が奪われるのです。AI時代にアイデアを生み出す最強の手法を解説する幻冬舎新書『「超」創造法 生成系AIで知的活動はどう変わる?』より、内容を抜粋してお届けします。
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AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との職の奪い合い
前記GPTs are GPTsの指摘で重要なのは、「作業時間が減る」ということです。
AIの影響を考える際に重要なのは、「ある仕事が残るかどうかと、失業が生じるかどうかは別」ということです。
したがって、仮にある仕事がChatGPTによって侵蝕されないとしても、それに従事している人々のすべてが安泰というわけではありません。
それらの人々の中には、ChatGPTを活用することによって生産性を高められる人がいるはずです。それらの人々は、その分野の他の人々を駆逐するでしょう。このような事態が広範囲に発生する可能性があります。
ホワイトカラーについても、このことが言えます。ホワイトカラーの仕事のすべてがAIによって代替されることはないとしても、ホワイトカラーの中の誰かがAIを使いこなすことによって生産性を上げ、「これまで2人でやっていた仕事が一人でできるようになる」といった類いのことが起きるはずです。そうなれば、残りの一人は余分になるわけで、職を失うことになるでしょう。
こうしたことが、高度に知的な活動、例えばマネージメントの仕事や高度な金融サービスなどについて頻発するでしょう。
「AIが職を奪う」と、しばしば言われます。確かにその危険があるのですが、それは、人間がいまやっている仕事がAIに取って代わられるというだけのことではありません。
上に述べたように、AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではなかろうかと考えられます。つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間での職の奪い合いが起こると考えられます。このように、ChatGPTが引き起こす影響は複雑です。
確実に分かるのは、知的活動に関して、非常に大きな変化が起きたということです。それが、人々にどのような影響を与えるかについては、まだ分からない点が多いのです。
仕事は残っても、人間のやることが変わる
前節で述べたように、仕事そのものが残っても、人間が行なうべき仕事の内容は変わるでしょう。つまり、どの分野においても、必要とされるスキルが変わるのです。これにどう対処するかが重要です。
必要とされるスキルは、デジタル機器を扱えることだけではありません。AIにはできず、人間でしかできないことが、これまでより強く人間に求められるのです。
このことが最もはっきり現れるのが、「先生」という職業でしょう。第10章で述べたように、知識を教えるだけでなく、生徒や学生とうまくコミュニケーションをとり、彼らの気持ちをよく理解できることが重要になります。
同じことが、弁護士や医師についても言えるでしょう。したがって、「若い人なら対応できるが、高齢者にはできない」ということではありません。むしろ、逆の場合のほうが多いかもしれません。
人間でなければできない仕事の価値は上がる
上で述べたように、人間でなければできない仕事が残ります。そして、AIが遂行できる分野で効率が上がれば、人間にしかできない仕事の中で、これまでよりも価値の高まるものが必ずあるはずです。
文章執筆の仕事が、AIによって奪われるという見方があります。文章執筆者にとってAIは敵だという考えです。しかしAIが敵になるか味方になるかは、文章の内容や水準によって大きく違います。
AIが書けるような文章を書いている人々にとって、AIは明らかに脅威になります。しかし、他の人が書けない文章や新しい発想、新しい見方、新しい考え方を提供できる人にとっては、AIは決して競合者にはならず、むしろよい協力者であり、強力な味方になります。結局、AIが敵になるか味方になるかは、どのような文章を書いているかによるのです。
「どこに人間の仕事の価値を見出していくか?」を問い続けることが必要です。そうした仕事を見出し、それに特化する個人や企業が、これからの社会において成長するでしょう。
このようなプロセスを通じて、質の低い文章が淘汰され、全体としての文章の質は向上していくことが期待されます。そうしたことを実現するために望まれるのは、読者が質の高い文章を求めることです。これについては、6で述べます。
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この続きは幻冬舎新書『「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?』でお楽しみください。