祝シリーズ100万部突破!『はぁって言うゲーム』の作者・米光一成氏による開発秘話&思考法。
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今、話題の人気アナログゲーム「はぁって言うゲーム」を生み出したゲームクリエーター、米光一成さん。第2回で紹介した米光流思考法「3種の神器」を元に生まれた実例たちを伺いながら、今後展開を予定している米光ワールドについても掘り下げていきたい。
「むちゃぶりノート」が生み出した発想転換にハッとした
「むちゃぶりノート」を使った実演ワークショップに、子供の生活をケアするようなNPO法人の人が参加したことがあるという。その際に生まれたアイデアが、まさに「フレームを疑う」ことがうまくいった成功例だったと述懐する。
「テーマに従って、『子供の笑顔』とかいろんなキーワードを書くんですね。で、キーワードの横に『むちゃぶりシール』っていうシールをランダムに貼っていくんですが、そうすると、『子供の笑顔』『を消し』っていうフレーズが生れたんです。
一瞬、場はざわついたんですよ。子供の生活をケアする団体が、子供の笑顔を消しちゃうのかよ! って感じですよね。でも、ここで『むちゃだよ』って考えるのを辞めるんじゃなくて、考えてもらうんです。そうすると、いままで考えてなかったフレームで考えられる。
そっか、最初から笑顔じゃなくてもいいのか、いきなり笑顔にしようとしなくても、真剣に取り組んだ結果、最後に子供たちが笑顔になってくれればいいじゃないか、って。『子供の笑顔を消す』っていう考えたこともないフレームで考えると、また違ったワークショプができることに気づいたそうです」
「フレームを疑う」ための「無茶振り」が、普段考えない、固定された観念を打ち破ってくれることがあることにも納得がいく。
ついにゲームクリエイトの場から、「儀式」の仕掛け人へ!
最近では、「ゲームである必要があるのか」というフレームも疑うことで、新たな「儀式」という、コミュニケーションの場を生み出しているという。
儀式って??? 米光さんの発想に追いつくのが精一杯な取材班は、こちらについても詳しく聞いてみることに。
「今、私が取り組んでいるのは、『記憶交換ノ儀式』というイベントです。もはやゲームでもないんです(笑)。いや、もちろん最初はゲームとしてやっていたんですが、途中でゲームでなくなっていったんです」
米光さん、もう少しヒントをください……(笑)。
「秘密の儀式なので、細かいルールは秘密なんです。参加してもらうしかない。過去の記憶を思い出して、それをある段取りで、分解し、交換し、再構築する儀式です。自分の記憶が、人によって書き換えられたり、新しい記憶が生み出されたりして、刺激的な時間を過ごせます」
他人の記憶を元に、自分の経験として新たな創作を生み出していく。なんというクリエイティブな遊びだろうか。しかし、これは「ゲーム」ではないという。
「最初は、ゲームというフォーマットでプレーしていたんですが、プレーを進めていくうちに、他人の記憶を埋めていく作業のなかで、『ウケ・面白』を狙ってくる人が出てきたんです。でも、本当は素直にやったほうが面白いんです。ウケようとする意図がすけて見えちゃうと、つまんなくなっちゃう。
それで、ゲームをやめました。内容を競い始めると、そうした“狙い”が発生してダメだったんです」
ここにも「フレームを疑う」が発生している。そもそもゲームで良いのか。ここを疑い、ボツになりかけていた「記憶交換」のアイデアが、儀式として成立することに。
「ここでボツにしないことが重要。儀式にしたことで、純粋に豊かに、新しい記憶が生まれたんです。儀式的な神妙さも手伝って、ほんとうに美しい素直な記憶が紡がれるんです。本当にいい話揃いで」
今、この「儀式」にハマる人が増加中で、去る4月2日に「儀式フェス」なるイベントを開催。
「さらに、神田PARAという劇場で、儀式ワークショップもスタートします。新しい儀式を、みんなで作っていく実験的な試みです」
人と人が触れ合う、ここにゲームの醍醐味がある!
米光さんを魅了するゲームの醍醐味とは。続いては、仕事を楽しむ米光さんが、ゲームに取り憑かれる原動力を探る。
「ゲームの面白さ、ですか。人と人とが“やり合う”。これに尽きるのではないでしょうか。それぞれがどう考えているか。ということがぎゅっと凝縮される。
例えば、ゲームでは、相手はこうきたか、ならば、僕はこうしよう、みたいなことの繰り返しですよね。同じルール上で、同じ舞台の上では、みんな平等で、それぞれの思考や、アクションが、凝縮される。つまり、“やりとり”がゲーム上ではしがらみのない形で出現して、ストレートにコミュニケーションが取れるんです。
言い換えると、気の置けない仲間たちが集まってわいわいできるグルーブ感を、ゲームというフラットな空間では生み出すことができるんですよね」
お互いをよく知らない仲でも、ゲームをきっかけに仲良くなる、ということは日常茶飯事。我々も子供のころから行ってきたコミュニケーション手段だ。改めて言語化されるとハッとする。
「コミュニケーションって、幸せじゃないですか。同じルールのもとで、同じ目的に従って、互いに“やり合う”。『はぁって言うゲーム』もそうで、人前で、変な、非日常的なことをするのって普通だったら恥ずかしくてできない。けれど、同じゲームをやる仲間、相手もやる、自分もやるという関係のなかで、一体感も生まれてくるわけです」
さらには、人生における「気づき」を提供してくれることさえあるという。
「ノンバーバルなやりとりがもたらすディスコミュニケーションってありますよね。例えば、何かの確認を求められたときに、『あぁあぁ』みたいなことを、OKのつもりで発したりする。でも、言い方次第では、相手には『渋々だったかな? 大丈夫かな?』と思わせてしまったり、ときには、真逆のNGと取られてしまったりもしますよね。
日常のなかだと、伝わったのか伝わらなかったのかぼんやりとわからないケースが多々ありますが、『はぁって言うゲーム』をやると、それがゲームというスタイルの中ではっきりわかる。伝わると思ったのに伝わらない! その体験は、日常の中にもどったときに、新しい気づきになると思っています」
米光さんが考える、いいゲーム、面白いゲームとは?
「何が面白いか、っていうのは、正解がない。だから、“面白さ”も疑っていますね。僕は『こんなことが面白いんだ』という新しい面白さの種が見つけられたらいいな、と思いながらアイデアを探っています。『はぁ』って言うだけで、みんなで爆笑できるって、馬鹿馬鹿しいけど、ハッピーなことだと思うんです。
僕の好みは、明示されるルールが少ないものです。ルールが最低限しかない。ゲームづくりで、ブラッシュアップするときに可能な限りルールを削っていきます。減らしていく。ルールを言わなくてもわかるようにする。覚えるのも面倒くさいし、自然なほうが楽しめる。
新作の『負けるな一茶』『いっしゅんジェスチャーはぁ?』『言いまちがい人狼』も、どれもシンプルです。『負けるな一茶』も最初は、得点チップを入れたり、あれこれやっていたんですが、最終的には、一茶の俳句か、贋作かを当てるだけのシンプルさにしました。やっていくうちに”一茶っぽさ”が分かってくるところが醍醐味です。
『いっしゅんジェスチャーはぁ?』も、“一瞬だけジェスチャーを見て当てる”“ジェスチャーを当てられなかったらジェスチャー側に入って、ジェスチャーする人が増えてわちゃわちゃになる”の2点だけを残して、他の部分はシンプルにしました。これも得点計算とか凝ったシステムにしてたんだけど、それよりジェスチャーする人数が増えるときの感覚のほうが楽しいから、邪魔しないように得点計算は素直にしよう、と。
『言いまちがい人狼』は、人間が“ボクサー選手”って一斉に言ってるなかで、人狼だけが“奥さんにチュ”と言ってるんで、それを聞き取って人狼を当てろ、ってゲームです。これも、やることはシンプルだけど、ゲーム体験そのものは奥の深いものになっています。
とにかくルールを削ってシンプルにすることで、遊ぶときに邪魔しない。プレイヤー自身が考えたゲームだって錯覚するみたいに自然に遊べるようにしたいんです。世の中もそうですが、ルールなんて少ないほうがいいじゃないですか」
人生をかけて楽しんでいる“ゲームづくり”というゲーム
四六時中、何某かのアイデアを生み出している米光さん。もちろん、仕事だからといえばそれまでかもしれないが、人間なのだから、当然、息抜きしたいときもあるのではないか。
「僕にとって、ゲームのことを考えるのは、趣味と同じ。ゴルフ好きが一日中ゴルフを、あるいは、エロい人がエロいことを四六時中考えているのと何ら変わりません(笑)。
しかも、アイデアを考えるのってお金がかからない(笑)。しかも、いいやつを思いついたらめっちゃうれしくて、その喜びは何者にも代えられない。『これ、おもろいわ、絶対!』って反芻する時間も楽しめる。もちろん、翌日、『やっぱ、おもんな』ってこともしばしばありますけどね(笑)。格安な趣味です」
もはや「考えること」が趣味! これは、多くの成功している経営者たちと同じような発想。そう、「仕事が趣味」という方々。すべての人が必ずしも堂々とそう宣言できないだろうが、やはり、仕事を楽しめる環境をつくれたら、強い。
最後に聞いてみた。本当に息抜きしないんですか?
「ほかのゲームはしますね(笑)」
やっぱゲームなんですね、さすがです(笑)。
※この記事はWeb版GOETHEに掲載された記事を再編集したものです
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「はぁって言うゲーム」開発者インタビュー
デジタル全盛のこの時代に、大人から子供までジワリとブームを博しているアナログゲームがある。その名も「はぁって言うゲーム」だ。確かに、始めると何度もやりたくなる、面白さの真髄がつまったようなものなのだが、この快作を生み出したのが、なんとほかならぬ、一時代を築いた伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。本作を生み出した背景から、ヒット作を創造する思考法などなど、聞きたいあれこれをぶつけてみた。