考えすぎて動けなくなるより、浅い考えでもいいからすぐ動くことを良しとして生きてきた。文句も愚痴も言いながらだけど動き続けるのは止めない。今日も走りながら考える。残された時間は少ないから。
某月某日
地方から某書店さんが大手出版社主催の会合のために上京。ということで、その大手出版社以外の出版各社で歓迎をする会に出席。こうやって会社の垣根を超えてもてなすのも「出版社営業あるある」だが、やはり今日も話題は本が売れない、と言うことばかり。あの会社でそう思うなら、ウチはどうすれば? なんて思う。そもそも出版は水物だから、出していればいつかヒットが出るよ、とか言う人もいるが、もはやそれだけの余裕がない会社もある。いや会社だけでなく、そもそも自分も50代半ばになって、永遠に打席に立つチャンスがあるわけではない。どうせ売れない、どうせ……。出版社が色々言うのは勝手だが、書店が頑張って売るって言っているんだから、俺たちが一緒の方向を向かないでどうする。そんなことわかりきっているのに。そんなことを言いながらも会は盛り上がり、気が付けば2次会に。久しぶりの終電で帰宅。
某月某日
幻冬舎の社員・箕輪の書籍『かすり傷も痛かった』(幻冬舎刊)『怪獣人間の手懐け方』(クロスメディア・パブリッシング刊)の打ち上げに参加。自分で編集して本を作りながら、サウナ入ったり、格闘技出たり、ラーメン屋はじめたりしている社員がいつの間にか著者にもなっていた。『怪獣人間の手懐け方』なんていうタイトルだが、箕輪がいちばん「怪獣人間」だし、クロスメディアの編集者さんと、弊社の木内がうまく手懐けてくれた。ちなみにクロスメディアと幻冬舎は直線距離でだいたい500メートルの距離。両陣営が集まる打ち上げ会場はちょうど真ん中にあるお好み焼屋さんだった。はじめましての人が多かったが、過剰な気遣いなどなく終始皆が楽しく飲む。それぞれの役割の中で、ちょっとこれは無理だろうって事を乗り越えて形にしてきた猛者たち。うちの怪獣はこうやってチームを作ってきている。調子に乗ってサイン本までくれた。
某月某日
九州選書市に参加。各出版社がブースを出展して、書店さんに商品を案内する会。九州内の書店さんが入れ替わり立ち代わりブースに来てくれる。用意した200枚の名刺がものすごい勢いで減っていく。こちらは1人で書店さんと話すのだが、中には「もう書店員を辞めるのでその挨拶にきました」なんて言われ、言葉に詰まる。そんな事ならきちんと話したかったが、列が長くなるのであまりできなかった。その一方で「独立系の書店を始めます」という人も。ピンチはチャンスなのか。なんの慰めにもならないか……。
「うちで始めたあの仕掛け商品が売れていますよ」という嬉しい報告もいただく。一書店で灯された小さな火がいつか広がり、大きな売り上げになるかもしれない。そんな種火をどれだけ作れるか。これを販促担当は課題にしないといけない。
某月某日
新刊が出ると、作家さんが取材を受けるためやサイン本を作るために来社してくれる。この時にできるだけ販促の立場でご挨拶をさせてもらう。この日は「サドンデス」の相場英雄さんが来社。裏ゲーテでもお馴染み。サイン本を大量に書いてくれる。この小説は「小説幻冬」でも書いているがめちゃくちゃ面白い。サイン本を書きながら、最近のラーメン屋さん情報を聞く。キャバクラから美味しい店までなんでも知っている。相場さんには翌日から関西へプロモーションのための書店回りに行っていただく。本当にお疲れ様でございます。ちなみに書店を何軒も回ってクタクタになって帰路に着いたら新幹線が豪雨でストップ。相場英雄さんが缶詰め状態になってしまうというトラブルにも見舞われたらしい。お疲れ様です、しっかり売ります!
某月某日
今日は土曜日。予定があってもなくても土曜日は早起きして新聞に目を通す。出版業界にいちばん影響があるとされる朝日新聞の書評欄にはランキングが掲載されているが、毎週紙面をめくるたびにドキドキする。どのジャンルのランキングでも、幻冬舎の商品がランクインしているのか、していないのか? していたら何位なのか? 意外なランクインは嬉しいが、入っているべきタイミングで入っていなかったりすると本当に落ち込む。
ちなみに「王様のブランチ」はランキング入りしている場合は連絡を貰えるから、まだ心臓に優しい。午後は、会社の若手の披露宴に招かれて大手町のホテルへ。ふだん、ドロドロした感情のままの救いようのない日々を過ごしているが(!)、新郎新婦の無垢な姿に心が浄化される。ああ、美しい。2次会は幻冬舎の数人だけで近くで飲む。これはこれで異常に盛り上がる。せっかくの土曜日なのにまた遅くまで大騒ぎして1日が終わる。
某月某日
今日も博多に来ている。いつも宿は博多駅周辺に取るが今回は満室で天神駅周辺。宿泊代もだいぶ高くなった。体感ではコロナ前の約1.5倍か。なかなか1万円以内を探すのは大変だ。経理の人もわかってくれているかな。ホテルのロビーには韓国からゴルフを楽しみに来たと思われる男性集団も。眠そうに見えるから昨夜は中洲で飲んでいたのかもしれない。書店周りの合間に福岡にある取次支店を訪ねて、新刊の『栄光のバックホーム』(中井由梨子さん)と既刊文庫の『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』(益田ミリさん)の九州限定カバーの販促をする。『栄光のバックホーム』のモデルの横田慎太郎さんは鹿児島実業OB。九州がご当地なのだ。ちなみに、中井さんは『20歳のソウル』の著者で、同作が映画化された時に、その主人公が通っていた船橋市立船橋高校は夏の甲子園に出場。今回『栄光のバックホーム』を刊行するタイミングで、阪神は日本一に輝いた。なんか持っている人だ。
夜は書店の社長と会食。まったく売上は厳しいが、頑張るしかないですねという結論に落ち着く。特に地方の書店はそのエリアの文化の担い手で、1店舗を閉めるだけで、書店空白地帯が広がってしまう。そんな責任も負わされている。
さて、博多は何が美味しいかと聞かれるが、俺はイカを中心とした魚介類推し。そしてこれも個人の感想だが、ラーメンでなはくうどんの方が好き。
翌日も書店をまわって夕方に福岡空港へ。飛行機は機材の遅れと羽田空港の混雑でだいぶ待たされて離陸した。1時間も経つと飛行機は伊豆半島を過ぎ、東京を目前にして大きく房総半島方面へ旋回した。東京湾の真ん中から進入し滑走路を目指す。窓の向こうには三浦半島の夜景が見える。歳のせいで遠くも近くも目の焦点が合うまで時間がかかる。ああ帰ってきた、というこの瞬間がいつも好きで、また頑張ろうと思うのだ。