12巡目～「津和野・門司港」ささきかつお（作家）

10月某日

朝7時前、尾道の宿を出立。津和野に向かう。

移動するには、山をいくつも越えなければならない。
ルートをあれこれ調べたが、尾道～津和野はなかなかにムズい。JRは本数も少ないし（新幹線を使えばワケないんだけど、高い）、長距離バスも接続が悪く2～3時間待ちの経路も……。都会に暮らす自分が、いかに恵まれた環境にあったか思い知らされる。

編み出したルートは、尾道から広島バスセンターまで1時間半のバス、そこから中国山地を越えて日本海側の浜田までバスで2時間、さらにJRの特急で1時間──が妥当と判断。乗り換えの待ち時間を含め、明るい時間に着くには早めの出立となった次第。
でも何だろ、移動って楽しい。

で、午後に津和野に到着。訪れたかった町だった。

平日の午後、憧れの小京都は人もまばらで、落ち着いた、ゆっくりとした空気が。
あー、来てよかったな、と思えた。
地酒も、和菓子（栗大福）も、宿主さんからいただいた柿も、美味しい。

10月某日

物書き稼業はライター時代ふくめ20年近くになるんだけど、ヒマなときは身体が溶けそうなくらいヒマで、忙しいときは鼻血が出そうなほど忙しい。

今月がまさにそれで、尾道でヒマこいていた日はボーっと海を眺めていたが、津和野に入ると一転ドライブがかかる。3校チェック、巻頭巻末のネームなどなど。

のんびりとした町の、江戸後期築の古民家の一室で、MacBookとiPad使って仕事フル回転してるっていう……ギャップ萌え。

そんな忙しい滞在中、どうしても行きたい場所があった。
仕事が一段落した午後、宿を出てしばらく歩き、山道をフーフー登って辿り着いたこの景色。

心の師の名曲「案山子」の歌詩、《城跡から見下せば》の景色が、これだった。
（美しい……）と心の中で呟く。涙が出そうになる。この国に生まれてよかったなと。

残念だったのは、10月後半の津和野は寒いだろうと、滞在を三泊にしてしまったこと。ここは一週間くらい滞在してもよかったなあ……またいつか訪れたい。

10月某日

移動日。
門司港に向かうのだが、せっかくここまで来ているし、萩の町を経由することに。
またバスで山越え谷越えだったけど、松下村塾はじめ、幕末明治の英雄たちの生家など、貸し自転車でササッと見て回れたからよかった。

暗くなってから、門司港に着。

10月某日

快晴の休日。
門司港は観光客でごった返し──人ごみの苦手な自分は宿に籠もる。
というか、臥していた。

津和野から、喉に違和感はあった。
尾道からの長旅で疲れ、イビキをかいて寝ていたことは自覚していたが、その違和感が痛みに変わり、さらに門司港についてから体が冷えてしゃーない。

もしや……と思い、携帯している検査キットを使おうかと考えたが、熱も咳もない。
様子を見よう、というか、素直に寝てりゃいいかと丸2日、ほぼベッドに。
さいわい症状が重くなることなく、体調も回復したのだが、道中の病気ケガは堪える。
札幌でギックリ腰やったときも辛かったし、今回も臥しながら（何してんだろ？）と。

旅をしているから出会える人、景色、メシがあり、だから旅してる。
コロナで価値観が変わり、MacBookとiPad、あとwi-fiが繋がっていれば、どこでも仕事ができる。だからホッパーケーション（ホッピング＆ワーケーション）を始めたんだけどね。
旅が「日常」になり、感覚が麻痺してきたのかも。

10月某日

ふー、もろもろ疲れた。