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トンガ人ラガーマンの夫と里帰り

2023.11.15 公開 ポスト

ついに最終回!

夫の歴史を知ったトンガ旅から「愛し方が私と似ている」義母と一緒に帰国マフィあずさ

トンガの里帰りも終盤に近づいたある日。

何やらヘラヘラ笑いながら夫が私の前に現れた。
「どうしたん」と聞くと、

「お母さんに怒られた」と言う。

 

33のオッサンが?(笑)

何があったというのだ。詳細を聞くと夫はこう言った。「オレのお母さん、めっちゃオレのSNSチェックする」

33のオッサンの?(笑)

どうやら村人同士で行なわれているチャット欄を隅々までチェックしているお義母さん。そこでの小さないさかいを発見し、注意してきたらしい。

サイバー義母

内容を聞いたが「そらあんたが悪いやん」と、オールウェイズ100%義母の味方な私は鼻で笑った。

その後お義母さんと2人で話している時にこの事を話題に出してみた。すると「あの子は本当に良くも悪くも正直やからな。注意深く見てんと行き過ぎる時あるねん。私は平和主義で波風たつのが苦手やからあの子の気持ちが分からん時があってな。きっとお父さんに似たんやろうな~」と困った顔で私に言うお義母さんを見てハッとした。

私やん。

私が喋ってんかと思った。夫と出会って10年。一語一句同じ事をずっと思っている。今回お義母さんと過ごす時間が長くて、お互いの考えをたくさん共有できたのだがその全てが私の10年夫と過ごして(育てて)る間に感じていた事とぴったり重なるのだ。

私達2人とも彼の事を心底心配しすぎている。きっと神様は夫がトンガを離れる時にお義母さんの代わりにそばにいてくれる存在が必要だと思い私を送り込んだのであろう。絶対そうだと思えるくらい私達の愛が似ていた。お義母さんの愛にはもちろん敵わないが。

しかし、これだけ夫の事を想っている女性が地球上に2人も存在するというのに言う事を聞かないのがアマナキレレイマフィである。私達からの抱えきれない愛情を受けながらもゴーイングマイウェイで生きている。けっ。

今回の旅では、夫の今までの歴史を沢山垣間見れた気がした。どんな環境で育ち、どんな学生時代を送り、なぜ日本に来たのか。これまで全て夫側からの話しか聞いた事がなかった世界が自分の目で見れた。それはそれは感動的だった。

夫のお兄さんが大昔に撮ったビデオを見せてくれた日があった。夫が中学生くらいの時だ。
今の家ではあるが改装する前で狭くて暗く、そこに10人ほど住んでいた。夫はまだガリガリで筋肉も全然ないが笑顔や仕草は今のまま。幼少期の写真や映像は無いと聞かされていたので、初めて見る幼い頃の夫を見ることができて、何とも言えない嬉しさを感じた。

この時は日本人と結婚するなんて1ミリも思ってないだろうなぁなんて笑いながら見ていたが、心の中は少し悲しかった。家がボロすぎる。ここにデカい兄弟10人と親と孫。十分に無い食べ物。この環境でどうやってこの家族は生きていたんだろう。お義母さんお義父さん、本当に頑張ってたんやろうなぁ......すごいなぁ......と思いながら見ていた。

夫は言う。
「大変だったけどすごく幸せだった」と。

「みんなと離れて日本に来て寂しい思いをすることが多かった」と言って、寂しそうに微笑んだ。今でも家族みんなでの雑魚寝を好むのは、このトンガ生活の名残りなんだと思う。

ずっと日本にいる私には想像もつかない、若い頃から親元を離れて生活する彼らの気持ち。そして残された家族の気持ち。

ラグビー界には沢山のトンガ人選手がいるが、ここまでくるのに彼らはどれだけの努力をしたのだろうか。

裸足でココナッツをボールに見立ててラグビーの練習をして。毎日学校から街灯の無い真っ暗闇な道を何十分もかけて歩いて帰る。将来ラグビー選手になって家族を助けるという漠然とした夢を持ちながら。

それが叶うのはほんのひと握り。私達日本人は、その「ほんのひと握り」の彼らの事しか知らない。

夫はこの旅行中、ずっとリハビリをしていた。毎朝のまだ外が暗いうちからトレーニングに行き、久しぶりにジョギングができるようになったと喜んでいた。そのトレーニングをしていた道が学生時代通学で歩いていた道である。
本当に何もない、一本道。

夫が毎日ひたすら歩いたその道を私も歩いてみた。私がこの目でみている景色は、夫が沢山努力していた時に見ていた景色なんだと思うと、自然と涙が出た。

本当よく頑張ったなぁ......と感動する。

が、しかし次の瞬間。

夫がめちゃくちゃ笑いながら
「今日の朝この道ジョギングしてたらさ、メッチャお腹イタクテさ」「ちょうど今のあーちゃんの横らへんでガマンできひんくてウ◯コしたわ」
と言ってきた。

すなよ!(笑)感動の一本道で!

涙が引いた。美しく伸びた一本道が普通の道路に戻った瞬間だった。

そしてどうしても気になる事が1つある。
「ティッシュどうしたん……?」と聞くと

「弟のTシャツで拭いた」

なんでやねん(笑)
付き添いで車で並走して道をライトで照らしてくれていた弟のTシャツを無理矢理脱がせて、それで拭いたらしい。とんでもない事をする兄である。
だからあの朝弟は上半身裸で帰宅したのか。全然知らんでいい謎が解けた瞬間であった。そのTシャツの行方は誰も知らない。

ちなみに本当に緊急の時は葉っぱで拭くらしい。もう私はいちいち驚かない。これがトンガなのだもの。トンガの人達のサバイバル能力はズバ抜けている。

そんな学生時代を送った夫。(どんな)
長年の苦労が実り、やっとの思いで掴んだ日本行きのチャンス。そして、辛抱ばかりだった大学時代を経て、晴れてプロラグビー選手になったのである。大学時代はよく「俺たちは誰からも注目されてないけど頑張るしかないんだ」と泣きながら他の恵まれた留学生達を羨んでいた。トンガから出てきても、そこからが辛かったのである。

なので夫は言う。今まで1番思い出に残っている試合は南アに勝った2015年のワールドカップでもアイルランドに勝った2019年でもない。大学生の時Bリーグにいた自分を見つけてもらえた『関西ラグビーまつり』だと。そこから彼の全てが変わった。

日本にいる留学生のラガーマンは皆、本当によく頑張っていると思う。みんな色々な思いを抱えて来日してくる。リーグワンでも選手達をそういったバックグラウンドを思いながら応援すると、より尊く思えるのでオススメだ。

 

そんな夫。実は今回5年ぶりにお義母さんを日本に連れて行きたいと計画していた。
日本での生活をお義母さんに見せたい。孫と一緒に過ごしてほしい、その思いで。最後に日本に来たのはまだお義父さんが生きていた時、長男がまだお腹の中にいた頃だ。久しぶりの日本。見せたい物が沢山ある。

ここに書ききれなかったほどの沢山の思い出と共にトンガの里帰りが終わり、そのままお義母さんと一緒に日本へ帰国した私達。

私と夫と子供達は例のスカイカウチで帰国したのだがお義母さんは特別。
ビジネスクラスに座っていただいた。これは夫からの絶対のリクエストである。頑張って僕を育ててくれたお母さんにビジネスクラスを......! と意気込んでいた。

約10時間の空の旅。

リラックスして過ごせたかな、と日本に到着してから「どやった? 寝転んでゆっくりできた?」と聞いてみると

「ずっと座ってたで」
と言われた。

リクライニングせぇ!!(笑)
どうやら夜便じゃなかったので眠くなかったらしい。でもご飯美味しいし、くつろげたわと言ってくれたので喜んでいた息子アマナキであった。


お義母さんは1か月滞在する予定だ。しかし、久しぶりすぎる日本。何をしたいのか、何を食べたいのか全くの手探りである。何をしたら喜んでくれるのか......。

トンガでは沢山お世話になったので、絶対楽しませてあげたい! とやる気満々だった私。色んな所に連れて行き、美味しい物を食べよう! と意気込んでいた。

まずは大人気の観光スポット「渋谷スカイ」。

めちゃくちゃ怖がっていた。
写真はギリ笑ってくれているが、ずっと窓に近付かなかったお義母さん。トンガではビルがなく、平屋ばかりであるため高い所に登ったことがないのだ。それなのにいきなりめちゃくちゃ高い場所に連れてこられて、めちゃくちゃ嫌そうだった。

ごめん......(笑)

この調子なので乗り物系もダメ。テーマパークなんてもってのほか。全然行きたくない。

ではラグビーはどうだろうか。
夫の練習を観に行こうではないか。ちょうど公開練習があり、観に行く事にした。

ラグビー観戦が大好きなお義母さん。
トンガではいつも大声で叫び応援しながら観客席で踊り狂う(トンガでは普通)なかなかのサポーターである。自分の子供達はとっくに卒業しているのに、未だに母校の応援には必ず行っている。

久しぶりに観る息子のラグビー姿。テンション爆上がりである。ここでサポーターの血が騒いだのか何やら叫びたそうにするお義母さん......しかしここは日本。周りはもちろんとっても静かである。

「......ナイスタックル!」
「......ゴー! ターンオーバー!」

徐々にトンガのソレが出てきてしまっている。

横でドキドキする私。そして夫がダッシュをしながら前を横切った時、

「食べすぎ!」
と叫んだ。

いや「成田屋!」みたいに言わんといて!
しかもトンガ語なので私とフィールド上にいるトンガ人しか分からない。

たしかに夫はこのトンガの帰省で太ってしまい、走るのがめちゃくちゃ重そうだった。それを見て思わず「食べすぎ!」と叫んだらしい。
そのあと

「今日はご飯ぬき!!!」
と叫んでいた。いや今言うこと!?
顔色変えずに走っていた夫はプロだった。

帰ってから夫に聞くと「お母さんの応援久しぶりに聞いたわ。トンガではあれが普通ヤカラ」と嬉しそうに懐かしんでいた。おもろすぎる。ここで「母さんの応援、なちぃ~!」となってる夫、おもろすぎる。

まぁ、久しぶりに応援席で叫べて満足そうだったのでこれはこれで良しとしよう。


次に買い物だ。
お義母さんは物欲が全くない人である。滅多に「これが欲しい」と言わない。服もカバンも今持ってるからいらないと言う。なんて謙虚なお方なんだ......。

しかし何かを買って親孝行したい息子アマナキ。何か買ってあげてと毎日私に言ってくる。なので私は勝手に買うという技を覚えた。
服のサイズも好みも大体分かる。好きそうな服を手当たり次第購入し、プレゼントした。「も~、いらん言うたのに~」と言いながらも嬉しそうにもらってくれた。

そんなお義母さん。日本滞在中に唯一「コレが欲しい!!!」と私にお願いしてきた物がある。

クイックルワイパーだ。

なんで?(笑)

聞くと、トンガでは掃除機がないため、掃除機はホウキとモップが基本なのだが、クイックルワイパーやったら両方の役割果たすやん! と感動したらしい。そういえばやたらと毎日クイックルワイパーで掃除してくれてたなぁと思った。そして写真右側のストロングシートもマストだったらしい。一度違うメーカーのシートを買って置いていたら、

「アズサ、これはアカン。前のシートに戻して」

と言ってきたほどクイックルワイパーに本気だった。トンガにいるみんなに見せたら驚くやろうなぁ~と言いながらスーツケースに大事そうにしまっていた。

掃除はもちろん、洗濯や料理、子守りナキ守りまでありとあらゆる事を手伝ってくれたお義母さん。滞在中本当に助かった。


今回沢山同じ時間を過ごしてお義母さんについて分かった事がある。息子の事を溺愛しているのはもちろんのことなのだが、同時に私達お嫁さんもとても大事に思ってくれているという事。

夫は16人兄弟だが実際お義母さんが産んでいるのは10人。そのうちお嫁さんは私を含め7人いるのだが、お義母さんは喧嘩の仲裁に入ったりすると自分の息子よりお嫁さんを守ってくれる人。なぜなら夫やお兄さん、弟はみんなもれなく同じ性格。という事は全員お義父さんの分身。

お義母さんは私達嫁達の気持ちが痛いほど分かるのだ。対処法も分かっている。真っ先に私達の事を守ってくれる。男子チームもママラブなので万事解決、となるのだ。ただの女神である。

嫁同士で話してても愚痴大会になってくると
私らって同じ人と結婚したん?
となるぐらいみんな口を揃えて同じ愚痴を言う。

国境を超えて、人種を超えて
「それめっちゃ分かるー!」
ができてめちゃくちゃ嬉しかった私。(笑)これから喧嘩して腹たってもみんなの事を思うと乗り越えていけるわ。

こうして夫の今まで知り得なかった背景を家族や思い出を通して沢山知れた私。国際結婚はどうしても分かり合えない部分があるのではと思っていたのだが、こうして彼の生い立ちを目で見て実際に触れると全然そんな事はない。体験する事はとても大事だと思った。

彼は素敵な大家族に生まれ、みんなに愛されて育っていた。そんな大家族の一員になれた事を私も嬉しく思う。そんな旅であった。

トンガ人ラガーマンの夫と里帰り』を最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

そしてこの度、12月から始まるラグビーシーズンに合わせて、新連載『ラグビー妻の頭んなか』をスタートすることになりました。次の連載も楽しんでいただけると嬉しいです。なにとぞよろしくお願いいたします。ほなまた。

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トンガ人ラガーマンの夫と里帰り

パートナーはラグビー選手のアマナキ・レレイ・マフィ。
3人の子どもを引き連れて、夫の故郷、トンガ王国へ。ドタバタ里帰り旅行記!

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マフィあずさ

京都府出身34歳。パートナーのアマナキレレイ・マフィはトンガ出身のラグビー選手。横浜キヤノンイーグルス所属。

趣味で始めたブログラジオで子育てや日常の鬱憤を晴らし、日々奮闘中。

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