「変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な『教養』を30分で身につけられる」をコンセプトに、Amazonオーディブルで配信している『武器になる教養30min. by 幻冬舎新書』。このたび番組開始2周年を記念した特別企画として、人文ライターの斎藤哲也さんをお招きし、「新書・人文書の楽しみ方」についてうかがいました。後編では、斎藤さんならではの勉強法・インプット術を公開。ぜひ、みなさんも実践してみてください!
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「人文書」とはそもそもどんな本か?
── 斎藤さんは最近、「人文ライター」と名乗っていらっしゃいます。人文書を手がけるライターという意味だと思いますが、そもそも人文書とはどういった本なのでしょうか。
一般的に学問は、人文科学、社会科学、自然科学といったカテゴリーに分けられます。そのうち人文科学を扱っている本が、おもに人文書と呼ばれています。たとえば哲学、思想、宗教、歴史、心理、それと教育も当てはまると思います。
ただし、厳密な分類はありません。たとえば、政治は社会科学の分野ですが、政治哲学や政治思想のような話になれば人文書になります。また、今や自然科学の知見なくして人間のことはわかりませんから、そういう意味ではさまざまな学問分野が入り込むようになっていますね。
── 人文書ビギナーに向けて、斎藤さん流の人文書の楽しみ方を教えていただけますか。
どうして自分が人文書を読むようになったのかを考えると、自分一人ではとうてい思いつけないようなものの見方、考え方を教えてくれたからだと思うんです。最近だったら、哲学者の千葉雅也さんが書いたベストセラー、『勉強の哲学』(文春文庫)を読むと、勉強に対する見方が一変するわけです。
たとえば、この本には「勉強すると人はキモくなる」と書いてあります。これまでの勉強法の本で、そんなことを言った人はたぶんいなかったと思うんですよ。本当に哲学者の仕事だなと思って。
人文書ってこんなふうに、自分が今まで抱いてきたような先入観だったり、イメージだったりをいい意味で壊して、新しい見方を教えてくれるんです。そういった意味で、人文書は「知の宝庫」なんですね。
人文書というと、どうしても硬くて難しそうなイメージがありますが、実際にはそんな本ばかりではないし、さっきの『勉強の哲学』なんて非常に読みやすい。
自分の抱えている問題とか、疑問を掘り下げたいと思ったら、そのきっかけとなる本って何かしら見つかると思います。そういうところから、人文書の世界に入っていけばいいのではないでしょうか。
── 斎藤さんが監修した『哲学用語図鑑』(プレジデント社)だって人文書ですよね。
そうですね。ライトな人文書もたくさんあるし、それこそ最近だと名著をマンガ化した本もあります。あれだって一種の人文書ですよね。そういうところから入っても、もちろんいいと思います。
「知のマップ」をメンテナンスするために
── 斎藤さんは、仕事と読書と勉強が渾然一体となっているように見えるのですが、新しい分野のインプットはどうされているのですか?
ふだんから、「知のマップ」みたいなものをメンテナンスしていくことが大事だと思っています。どのような分野でも、今どんな研究者がいて、どんなテーマに注目が集まっているのかは、時代によって変わっていきますよね。
最近、とくに実践しているのは、気になる研究者がいたらその人のシラバス(講義要項)を見るということです。今はどの大学でもシラバスを公開していて、検索すれば誰でも見ることができます。シラバスを読んでいると、その人が今どんなことを考えているのか、なんとなく見えてくるんです。
さらに、複数の人のシラバスを読み比べることで、それぞれの微妙な違いや、重なりも見えてきます。この研究者はとりわけここを教えたいんだとか、ここはどんな研究者でも絶対に欠かせないんだとか、いろんなことがわかってきます。
他には、少しハードルは上がってしまいますが、「博論本」を読むことも重要視しています。博論本というのは、博士論文を書籍にしたもの。あるネットメディアで、これから博論本についてのインタビュー連載をするのですが、正直、読むのはけっこう骨が折れます。
でも、優れた博論本って、そこで取り上げているテーマの学説史、先行研究をうまく整理してくれているんです。もちろん博論本じたいのオリジナリティも面白いのですが、その周辺の理論や学説について一冊読むとすごく勉強になるので、インプットという意味で博論本に今、注目しています。
── 今をときめく千葉雅也さんにしても、國分功一郎さんにしても、博論を書籍化したものが出版されていますよね。しかも、それが代表作にもなっている。
売れっ子の人でも、研究者だと博論本ってあるんですよね。当然、本人としては心血を注いで書いているわけです。値段も高いし、ハードルが高いと感じられて手に取りにくいかもしれませんが、今の有名な文化人、知識人がどんな博論を書いたのか、見ていくのも面白いと思います。
── 新たな発見がありそうですよね。「この人の原点はここにあったのか」と気づいたりとか。
そうですね。と同時に、これから活躍していく人も博論本の中にいるかもしれません。人文ライターとしては、そういう人たちを応援していきたいと思っているので、博論本から得られるものは非常に大きいと感じています。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】「斎藤哲也と語る『新書・人文書の楽しみ方』」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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