「書評アイドル」として執筆活動をしつつ、モデルや女優業など幅広いジャンルで活躍する現役女子大生、渡辺小春さん。
19歳の小春さんが、「17歳の時を振り返って」綴ってくださった書評です。ぜひご一読ください。
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ビオトープの場所が分からない私たちへ
17歳になったときのことを思いだす。私にとって"17歳"という言葉は特別だった。好きな雑誌のタイトル、好きな映画、小説の主人公の年齢だったからだ。しかし私は憧れの17歳の誕生日、学校に行けずに家にいた。どこにも私の居場所なんてないのに何で生きているのだろうとふさぎ込んでいた。そんなことを思ってしまっている自分が嫌で早くこの暗闇から抜け出したかった。
千葉県の奏杜高校で働く公務員の平人生は、"人生"という名前もあってか生徒の色んな相談に乗ったりして「人生先生」との愛称で親しまれている。本作は、二人の男性から好意を寄せられ、恋と愛の違いについて考える藤崎葵、怪我でサッカー部を退部し、この世は運ゲーだと思う坂東昌平、バズった時に幸せを感じるも「幸せになりたい」が口癖の来栖梨花、生きる意味を知りたがっている水野陽菜たちそれぞれの悩みを抱える4人の生徒がそんな人生先生と共に居場所や答えを考えていく物語だ。
千葉県の高校に通っていたので私にとって見覚えのある風景が度々登場した。海浜幕張駅のロータリー、津田沼駅前のロイホ、船橋の大病院⋯。どこも高校生の時に見た場所だ。風景からも自分が高校生だったころの記憶と重なり親近感を持った。
中でも陽菜は、まるで中高生の自分を見ているかのようだった。陽菜は、教室が苦手で、家に帰ることも家族に自分を心配させないよう気を遣ってしまうので億劫だ。そんな生きづらい思いを抱える彼女が帰りに寄るのは、学校生活で唯一ともいえる友人の詩織が入院している病院だ。詩織は病気で難しい手術を控えており、陽菜は、死にたいと願っている自分とは違って死が身近にあり、「死にたくない⋯」と泣いている詩織の姿を見て自分の情けなさに苦しむ。
また、Twitterの匿名垢で陽菜は『生きる意味が見つからない私は、このまま生きていてもいいのかな』などと人には言えない感情を吐露する場所を作っていた。私はちょうど17歳のころ、旧Twitterでいわゆる病み垢を作り、学校行きたくない、消えたい、と家族には言えない感情を友人とも繋がっていない匿名の鍵垢でつぶやいていた時があった。心の内を話すことが苦手で、誰にも迷惑をかける人がいないネット上で叫んでいないと生きていられなかったのだ。あの時、独りよがりせず人に頼ることを覚えていればもっと楽に生きられたのではと今は思う。
詩織の手術が成功し、安堵した陽菜に人生先生は、「生きていて良かったとまだ自分には思えなかったとしても、今は他の人にそう思えるだけで充分だと思います。」と言う。人生先生の言葉はどれも説教臭くはない。心の隅にそっと残る言葉の優しさがあるのだ。
題名の「ビオトープ」は生き物の場所であることから、私たち人々の居場所を意味している。19歳になっても私のビオトープを明確に答えるのは難しいけれど、色んな人や本に出会ったことで居場所がないからと苦しまずに今は生きている。私は17歳の時、自分と同じ気持ちを知って安心したくて書店に行っては自分と似た悩みを持つ登場人物がいる本を探していた。その時の私にこの本を届けたかった。ビオトープの場所が分からないあなたにも届きますように。(「小説幻冬」2023年12月号より)
渡辺小春(わたなべ・こはる)
2004年生まれ。5歳より芸能活動を始める。ミスiD2021。「読書人WEB」にて『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。
17歳のビオトープ
ドラマ化でも話題となった『さよならの向う側』の著者、最新作。本特集では『17歳のビオトープ』にまつわる情報をお届けします。
【あらすじ】
いつも飄々と、謎めいた雰囲気を醸し出している、奏杜高校の校務員・平人生。「人生先生」と呼ばれる彼のもとには、日々、悩みを抱えた高校生が訪れる。人生先生と話すうちに、自分なりの答えを見い出していく生徒たち。彼らは次第に、人生先生が始めた中庭のビオトープ作りに参加するようになり……。
第1話 恋と愛のちがい
第2話 運とかガチャとか
第3話 不幸せになる方法
第4話 生きる意味って