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フィンランドで暮らしてみた

2023.12.15 公開 ポスト

外から見たらここが面白いよ、ジャパン芹澤桂(小説家)

この冬、日本に一時帰国した。昨年も仕事絡みで帰国したので大人の感覚では久しぶりの日本というわけではないが、一緒に帰国した子供たちにとってはかなり新鮮だったようだ。 
フィンランドで生まれフィンランドで育っている子供たちも、これまでは赤子だったりよちよちだったりでただ親に付いてくるだけだったが、ここに来てある程度物心がつき物事の違いを感じるようになってきた。 
そんな彼らの、日本の意外な点に対する言動が非常におもしろかったのでここに記しておこうと思う。 

 

それは気づかなかった!
 

 


1、人がいすぎる 
今回は関西に用事があったので関空から日本入りし、JRに乗って大阪市内に向かった。平日の昼下がりで、電車内は非常にすいていた。車両には私たち家族と、1,2組の乗客のみ。 
途中すれ違った反対方向へ向かう電車の中を覗き込んで子供が言った。 
「人がいすぎる」 
その電車を見てみると座席がほぼ埋まっていて、立っている人が数人、つり革を持っているだけの混み具合だった。 
フィンランド人の夫はよく「フィンランドでは好きな席に座れない混み具合のことをラッシュアワーと呼ぶ」などとうそぶくが、あながち冗談でもないかもしれない。 
 
2、お日様がまぶしい 
同じく電車に乗っているときのこと。車窓から太陽がまっすぐに差し込んできた。時期は12月、外気温は13℃ほどだったが、車内はぽかぽかと温かい。子供たちは暑いのかソフトシェル素材の上着もコットンのパーカーも脱いで、長袖のTシャツ1枚になった。 
車内では子供たちが飽きないように、外に見える面白い風景(他の電車、バス、おいしそうな食べ物屋の看板、山)など指さしてみたが、上の子はずっと太陽の方を直視しようとする。 
「なんでここにお日様が」 
日照時間の短い暗ぁいフィンランドからやってきたので、冬の太陽が珍しいのだとやがて気が付いてなんだか哀れになってしまった。ついでに電車の窓についている引き下げ式のカーテンを下げてあげながら、これもフィンランドにはないなぁとしみじみとした。 
ちなみに夫は、冬なのに紫外線に耐性がない肌のおかげか首を日焼けしていた。 
 
3、側溝がおもしろい 
友人家族数組と田舎の古民家に泊まりに行った。 
周りには観光施設等が何もないという場所で、それでも山に囲まれ川があり橋もあるから子供には充分だろうと踏んでいた。 
夕飯前に家の周りを散歩に出かけるとしかし、我が家の子供たちがもっとも関心を示したのは、山の紅葉でも透き通った水をたっぷり蓄えた川でもなく、「溝」だった。 
側溝。蓋のないむき出しの溝がその村にはあり、今は使われていない用水路なのか乾いていた。 
その中に入ったり出たりしながら道を進んでいくのが子供にはおもしろかったようだ。 
降水量の少ないフィンランドにはこういう形の側溝はなく、それゆえたまにまとまった雨がふるとしょっちゅう道路が洪水状態になっている。 

 

まだまだあるよ!


 
4、なんで室内が寒い 
古い家が寒いというのは日本人にとっては常識であり、それでも泊まらせてもらった古民家には石油ストーブやこたつ、寝室にはエアコンや足温器なるものまでもがあり、私からしたら至れり尽くせりだった。 
しかし寒い室内に耐性のないフィンランド人の見本であるかのように子供たちは「なんで家の中が寒いのー!」とぶるぶる震えながら、教えてもいないのに2人そろって亀のようなうつ伏せ体制で布団を頭までかぶり、眠りにつくのにだいぶ時間を要した。 
測ってはいないが室温は15度はあったと思う。この子たち将来徴兵制に行ったらどうするんだろうと変な心配をした。 
寒い国の子が風の子かというと必ずしもそうではない。 
 
5、キャラクターがあらゆるところに 
今回に限ったことではないが、日本に来ると至るところにキャラクターが配備されていることに驚かされる。 
空港や鉄道会社、商業施設のマスコットキャラクターやご当地キャラクターだけでなく、見知ったドラえもんやキティちゃん、マリオなんかもほうぼうで駆り出されている。 
テレビのニュースや子供番組を見れば端っこに名も知らない何かしらのキャラクターが出てくるし、観光地のお土産の饅頭の包み紙にまで何か生き物のプリントがされている始末。 
子供にとってはたいそうアイキャッチで、日本に上陸して最初の一週間ほどは「見て見てこれ!かわいい!」と場末のキャラにもいちいち反応するので、若干めんどくさかった。 
 
6、ウォシュレット付きトイレが脅威 
近づくと蓋が開く、座ると自動洗浄を始める、立つと勝手に流れる、など高機能なトイレも慣れていない人間には脅威でしかない。 
我が子の場合、ホテルで遭遇した座るとぷしゅうっと音を立てる自動洗浄機能に何か水でもかけられるんじゃないかとビビりまくり、へっぴり腰になりながらなかなかトイレに座れないということを繰り返していた。慣れた後はウォシュレット機能を使いこなしていたけれど。 
 
これらは子供の反応とはいえ、初めて日本に来たフィンランド人がみな経験することなのではないだろうか。 
かくいう私もまぶしい太陽には慣れず、冬だから要らないよねとサングラスをフィンランドに置いてきたことを悔やんでいる。

 

(綺麗な田舎の風景も子供には関係なし)
(落ち葉はある程度子供の興味はひく})

 

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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