「自校方式」「センター方式」「親子方式」「デリバリー方式」と、学校給食には4つの主要方式があるのですが、それぞれいったいどんなもの?
現役の小学校栄養士で給食マニアとして知られる松丸奨さんが上梓した『給食の謎』(幻冬舎新書)から、抜粋して解説します。
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学校給食の4つの主要方式
学校給食の方式はおもに「自校方式」「センター方式」「親子方式」「デリバリー方式」の4種類があります。
〈自校方式〉
学校内に給食室があり、そこで作ったものを教室へ運んで食べる方式です。児童生徒数550人以上の学校には栄養教諭等(栄養士のこと)1人配置、550人未満の場合には4校に1人の配置と定められていますが、実際は小規模校であっても1人は栄養士がいるケースが多いです。
メリットはでき立てを提供できることです。温かいものは温かく、冷たいものは冷たい状態で提供ができます。
そして学校に栄養士や調理員がいるので、児童生徒にとって“顔の見える食育”ができます。お昼近くの時間帯になれば校内にいい香りが漂い、今まさに給食を作ってくれている人がいるのだと感じることができるのです。
デメリットとしては大型調理機器の新規購入費や老朽化した施設の修理費、人件費など、多額の費用がかかることです。
〈センター方式〉
「給食センター」や「共同調理場」と呼ばれる給食調理施設で、1000~3万食ほどを一気に作り、トラックで各学校へ配送する方式です。
提供する児童生徒数が1500人以下の場合は栄養教諭等1人配置、1501~6000人で2人配置、6001人以上で3人の配置が定められています。
メリットは予算の削減が期待できる点です。給食室の改修工事を1校1校対応するのは自治体にとって大きな負担ですが、それを1か所に集約すれば負担を軽減できます。栄養士や調理員の数も、従来の割合から半数以下にできるので、人件費の大幅な削減が可能です。
また、大量調理のため作業効率がよいこと、衛生管理の面で学校ごとにマニュアルを徹底させるよりリスクが減らせるということもあります。
デメリットはおかずが冷めやすい点です。また、手の込んだ献立が作れないことが挙げられます。たとえばパンに1枚1枚何かを塗ったりすることは難しいので、センター方式ではジャムを各自に配布するといった方法をとることになります。
〈親子方式〉
隣同士の小中学校で採用されている方式で、どちらかひとつの給食室で2校ぶんの給食を作ります。栄養教諭等の配置について明確な基準はありませんが、1人で行なうケースが多いです。
メリットは自校方式と同じです。加えて、小学校を卒業すると隣の中学校に進学する子どもが多いので、中学校給食への移行がスムーズに行なえることが挙げられます。
ふつうは中学校に行くと、給食室の設備の違いや栄養士の違いで給食内容が多少なりとも変わるので、慣れるのに時間がかかる子どももいます。その点、親子方式は安心です。
デメリットは、実施できる学校が限られているところです。隣同士であることはもちろんのこと、配送するための安全なルートが確保できていることが条件です。
たとえば、雨の影響を受けない屋根のある道で、かつワゴンが転倒しないように段差のない道がなければ実施できません。
〈デリバリー方式〉
民間のお弁当工場で作られた「給食弁当」を配送する方式です。自治体の役所所属の管理栄養士が献立を作成し、調理と弁当詰めを民間工場に委託します。
メリットは4つの方式のなかで予算がもっともかからないことです。大規模な給食センター施設を作らなくても、既存の弁当工場・食品工場と契約をすればよいので、予算を大幅に削減できます。
また、使い捨ての容器や、回収して再利用できるランチボックスを配送するので配膳の必要がなく、給食時間の短縮も図れます。ほかの方式からの移行にも手間取りません。
デメリットは、食中毒が発生した場合、ほかの方式に比べて食数が多いため被害が甚大になることです。
衛生管理基準にのっとって調理する決まりがありますが、弁当箱に何万食も詰めるとなると、かなり前もっての作業が必要です。ヒューマンエラーとして規定より早くに弁当作りを開始するなど、衛生管理を誤ると、食中毒のリスクが高まるのです。
また、早く作る必要があるぶん、色が悪くなったり、酸化したりするなど見た目や味が劣化するリスクが高いことも挙げられます。
子どもたちが食べるものなので、コンビニ弁当とは違って保存料などの食品添加物が使用できません。そのため色や味の劣化が避けられないので「給食=美味しくない、嫌い」というイメージが定着してしまうリスクもあります。
実際、子どもたちからの不評の声や、保護者からの反発などが見られ、人気情報番組でもデリバリー方式の内容が不名誉な形で取り上げられてしまったことがあります。
こうした声を受けて、現在は少しでも美味しく食べてもらえるように、保温性の高いランチボックスを使用するといった工夫が広まっています。
さらにごはん、汁物、煮物などは温かいまま食べられるようにバット(給食を入れる大型の平たい容器)や食缶を併用する自治体が増え、カレー、シチュー、麻婆豆腐なども提供が可能になりました。
食缶とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、調理済みの料理を保温しながら運ぶ、あのバケツ型の容器のことです。
センター方式と遜色ない給食に近づいていて、児童生徒からの評判も徐々に良くなってきています。
自校方式の学校は半数以下
近年は給食室の老朽化に伴い、自校方式からセンター方式に切り替える自治体が増えてきています。
文部科学省の発表した「令和3年度学校給食実施状況等調査」によれば、自校方式以外の方式を採用している小学校が53.6%、中学校では76.2%です。自校方式の割合は今後も減っていくことになりそうです。
ただ、多くの保護者は自校方式を求めています。子どもたちに温かい給食を食べてほしいというのがその理由です。センター方式でもごはんや汁物・カレーのルウなどは保温食缶を使用しているので温かいまま提供可能ですが、おかずはどうしても冷めてしまいます。
自治体の長の選挙では「センター方式やデリバリー方式をやめて、自校方式給食にします!」などと公約を出している人を見かけます。
しかし、新たに自校方式での給食室配備をするには、自治体での入念な計画が必要です。長期的な運営のためには、毎年度かなりの額を予算計上していかなくてはなりません。そのため、公約が実行されずに問題になることもあります。
一方でセンター方式の導入にも課題はあり、広い土地の確保が必須条件です。何千食もの調理に対応できる広い調理施設、配送のためのトラック数台が安全に出入りできるスペース。このどちらも確保が必要です。
自校方式もセンター方式も条件的に難しい地域では、デリバリー方式が採用されています。
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給食の謎
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