平凡な主婦が洗脳・暴行され命を落とした、「太宰府主婦暴行死事件」。「瑠美は佐賀県警に殺されたんです」と訴える遺族の話を、瑠美さんの眠る納骨堂でテレビ西日本の取材班が聞きました。遺族が語るその事件の異様さは、にわかには信じがたいものでした。
『すくえた命 太宰府主婦暴行死事件』より
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納骨堂で聞いた遺族の叫び
西川さんと古江部長が遺族とファミリーレストランで面会した日から約2ケ月が経った2019 年12月30日。
西川さんと私、そして捜査第一課担当の水谷の3人は、佐賀県に向かっていた。
それまでずっと遺族とは西川さんが中心となり連絡を取っていたが、この日は瑠美さんの夫の隆さんと初めて会うことになったので、こちらも今後のことを考えて3人で訪ねることになったのだ。
目的地は基山町にあるお寺。西川さんが運転する車に乗って途中で献花を買い、瑠美さんが眠る納骨堂に赴いた。年の瀬の納骨堂はとても静かで、板張りの床の冷たさが靴下から伝わり体の芯まで冷える。
3人で瑠美さんの位牌に手を合わせると、納骨堂の一角にある小さな休憩スペースのソファに腰かけて、遺族に初めて対面した。
遺族は瑠美さんの夫・高畑隆さん、瑠美さんの母親の安田圭子さん、実妹の安田真理さんと、その内縁の夫の富田啓太さん(全員仮名)の四名であった。
事件うかがから約2ケ月が経ったとはいえ、“何も解決していない”遺族の顔には、かなりの疲労も窺えた。特に夫の隆さんの姿が印象的で、適当にくくった長髪に無精ひげが目立ち、頬は少しこけていた。あまりこちらと目を合わせることなく下を向いているのも気になった。
「瑠美姉は鳥栖署のせいで死んだんです」
妹の内縁の夫・富田さんがそう話を切り出すと、全員が堰を切ったように話し始めた。
瑠美さんは実家から歩いて5分ほどのアパートで、隆さんと小学生の長女、保育園児の長男と4人暮らし。自分のことより家族を優先し、母親や祖母、妹に困ったことがあるとすぐに駆け付け、いつでも手助けしてくれるような優しい性格だったという。
それでいて、忙しく働く隆さんに対しては「次はいつ帰って来れる? その時のご飯はなにがいい?」としょっちゅう電話をかけては、食卓には毎回隆さんの好物を大量に並べた。
「俺を太らす気なんか、食べきらんぐらい好きなものを作るとよ、お義母さん」
と、聞いた周りが恥ずかしくなるほどの幸せな愚痴を隆さんがこぼすくらい、愛し愛されていた。
そんな瑠美さんに異変が起きたのは、事件の半年ほど前。
病院で事務職として働いていた瑠美さんが、「夜勤でやらなきゃいけないことがあるから」と子どもたちを実家に預けることが増えた。母親の圭子さんは「夜勤がないはずの仕事なのにな……」と疑問に思いながらも孫たちを預かっていたそうだ。最初は週に1度くらいのペースだったが、次第にその頻度は高まっていき、心配になって問いただすと、それまでの瑠美さんと同一人物とは思えない言葉遣いで圭子さんに反抗するようになったという。
「ある時、瑠美の長女の小学校から『子どもが学校に来ていない』って電話がかかってきたんです。急いで瑠美の家を見に行ったら子どもたちだけで、慌てて準備をさせて学校に送った後、瑠美に電話したんですけど全然出ないし、ようやく連絡がついて理由を聞いても、友達がどうのこうの言ってよくわからなかったんです」
おそらくこの頃から山本たちと行動を共にし、夜中に出歩き始めていたのだろう。さらに事件の4ケ月前。家族が異変を確信する出来事が起きる。
「瑠美が『交通事故を起こしたからお金を貸してほしい』って言ってきたんです。事故を起こしたけど保険が隆さん名義で使えないから、示談金を払うのに貸してほしいと。それが400 万円とか目が飛び出るほど大きい金額で、私とおばあちゃんで立て替えてあげたんですけど、事故の詳細を聞いても時間も場所もなんか曖昧だったから『ちゃんと示談書と領収書を持ってきなさい』って話をしたんです。瑠美が後日持ってきたんですけど、相手の住所と名前を調べたらデタラメで『これは完全におかしいな』ってなったんです」
普通の主婦が、示談書や領収書を偽造して実の母から金を騙し取った?
これだけで家族がおかしいと思うには十分だったが、瑠美さんの職場から母親にかかってきた電話は、「瑠美さんがトラブルに巻き込まれている」ことをさらに窺わせた。
「職場の上司の人からだったんですけど、瑠美さんが無断欠勤を続けていますと。たまに出勤してきた時もぼーっとしていて、何か危ないモノでもやってるんじゃないかってくらい目がうつろだし、話しかけても反応しないんですって言うんです。それに加えてヤマモトという女から『瑠美はいますか?』ってしょっちゅう迷惑電話がかかってくるし、『お母さん、瑠美さん大丈夫ですか?』みたいな内容で……」
勤務態度も真面目で社交的だった瑠美さんの変貌具合に、よほど驚いたのだろう。
成人した女性の様子について、上司が親に電話をかけてくるというのはよほどの異常事態だ。それに加えて圭子さんや妹の真理さんには「ヤマモト」という女の名前に心当たりがあった。
「10年くらい前なんですが、瑠美の兄の智一(仮名)が酒井美奈子という女性との間に子どもができて、中絶費用が必要だから70万円貸してほしいと泣きついてきたことがあったんです。その時に智一が一緒に連れてきたのが山本という女でした。おまけに智一は全然喋らんくて山本がずっと勝手に話を進めていくんです。智一に『あんたどうして?』って言っても、うつむいたまんまでなんにも喋らんくて、結局山本にお金を渡すことになって……」 妹の真理さんが付け加えた。
「山本っていうのは基山では有名なワルというか、すごく評判が悪くって。父親もヤクザか金貸しか何かをやっているとかで有名だったんです。家を奪われた人もいるとかそういう話もあって……」
この事件の発端は10年以上前に遡る――。
兄のトラブルをきっかけに初めて山本と接点を持った安田家。
山本が仲裁人として実家に来てまもなく、兄の智一さんは家族の前から忽然と姿を消して失踪した。圭子さんはその後も何度か智一さんの借金返済という名目で山本に金を支払ったらしいのだが、それからぱったりと接点はなくなっていた。
実はこの頃、山本は瑠美さん夫婦のもとに現れていた。
夫の隆さんが話を続ける。
「瑠美の兄に飲み屋のツケがあってその回収にヤクザが動いている。払わなかったら実家にヤクザが行くことになるとか言われて山本から金を要求されました。合計で600 万~700万近くは払っていると思います」
瑠美さんの実家には高齢の祖母もいる。心配をかけたくないと、夫婦はそのことを家族には伏せたまま毎月10万円を超える金を何年も山本に払い続けていた。
山本はな収入源貴重となった高畑夫婦に「私の父親は道仁会福岡県(久留米市に本部を置く指定暴力団)の相談役」と言って名刺を見せたり、現役の山口組幹部だという松尾(マー兄)と電話で話をさせたりして、自分の背後にヤクザがいると信じ込ませていた。
その結果、夫婦はなおさら実家には心配をかけまいと思い、山本との関係について瑠美さんの実家にはひた隠しにしていた。
そんな事情もあって、娘夫婦を取り巻く環境を一切知らされていなかった圭子さんたちだったが、瑠美さんの異変の背後には「あの時の山本がいる」と確信し、瑠美さんの叔母と職場の上司と共に2019 年7月12日に佐賀県警鳥栖警察署を訪れる。
「瑠美が山本に洗脳されているのでどうにかして救えないかと相談に行ったんです。そこで交通事故を偽装したこととか、職場に山本から迷惑電話がかかってくることとかを2時間くらい話しました。私たちとしては瑠美と話し合いをしたいけど家にもほとんどいないし、電話をかけてもつながらないし困っていると。瑠美の職場の上司は『瑠美と山本との間には強い上下関係ができているようで何か弱みを握られているのでは?』と話していました」
これまでの話を聞いて、私は率直に「警察からすると難しい話ではあるな」と思った。
洗脳されていると言われても証拠はないし、交通事故偽装の金銭トラブルに関しては山本は表立っては登場していない。背後にいることはこれまでの話から想像はつくが、親族間の金銭トラブルと言えばそれまでだと判断されてしまいそうな話ではあった。
想像通り警察は「証拠がない」「山本との関係がわからないので話し合いに山本が出てきた際は第三者を立てるように」というアドバイスを送るにとどまったそうだ。
しかし、ここから事態は急激に悪化していく。
瑠美さんが圭子さんや真理さんに、さらにとんでもない大金を要求してくるようになったのだ。
「瑠美が『これまでは内緒にしとったけど、智一の借金をずっと隆くんが肩代わりしてきた。でも離婚するってなってそれを隆くんに返さなきゃいけないから500万円必要』みたいな話を急にしてきて……でも何かおかしいんです。いつもの瑠美の口調ではないし、電話口の後ろでひそひそずっと聞こえている。誰かに言わされているようなそんな感じで」 ほぼ同時期に妹の真理さんのもとにも、瑠美さんから別の理由で550万円を要求する電話がかかってきていた。声色はすっかり変わり、優しかった姉の面影はすっかりなくなっていたという。
家族の当時の記録では、7月から8月中旬にかけて鳥栖署へ7回も相談に行っている。
「瑠美が山本という人物に洗脳されている」という7月中旬の相談を皮切りに、瑠美さんの子どもの所在がわからなくなっていることや、妹の真理さんに借金取りから脅しの電話がかかってきたことなど日々悪化する現状を伝えながら「瑠美を山本から引き離さなければ大変なことになる」と訴え続けた。
あや ところがこのべ 頃、相談を主に担当することになった鳥栖警察署生活安全課の若手警察官・綾部巡査長(仮名)は「家族間の問題だから動けない」として具体的に動くことはなかったという。
そんな中、とうとう山本は実家に押し掛けてきた。
2019 年8月27日、午後6時半過ぎのことだそうだ。
この日は佐賀を中心に記録的豪雨となった日で、圭子さんも真理さんも鮮明に覚えていた。
圭子さんが仕事を終えて家に帰ると、山本、岸、瑠美さん、知らない男の4人が実家の玄関に居座っていた。瑠美さんは最後に会った1ケ月前に比べてかなり太っていたばかりか、普段グレー系の地味な服しか着ないのに、ピンクの上下スウェット姿に前髪はパッツンというかなり奇妙な出で立ちになっていたという。
圭子さんが「何しに来たと?」と聞くと、山本が「瑠美が離婚したらこの家に戻ってきていいですよね?」と言ったという。
圭子さんは山本の親が借金のカタに家を取り上げた、という悪評を聞いたことがあったため「絶対ダメだ」と断ると、そこから岸も玄関から中に入ってきて押し問答となった。一報を受けた真理さんが110 番通報をして警察を呼び実家に着くと、今度は真理さんに難癖を付け始め、「帰ってくれ」と言っても20分~30分家の中から出ていかなかった。
この時、通報で駆け付けた鳥栖署の署員は一部始終を見ていたが、「何度言っても全然帰らないから住居侵入で現行犯逮捕してください」と2人が頼んでも、「弁護士を立てて話したらどうか?」などと対応しなかったという。
遺族が考える瑠美さんを救い出せたタイミングの一つがここだ。
他人の家に入り込んできて「帰ってくれ」と何度言ってもその場にとどまる行為は「住居侵入罪」または「不退去罪」に当たる。
もちろん「帰れと言って帰らないから」とすぐに適用されるものではないが、遺族の話の通り警察官が現場に到着して20分~30分も玄関に留まるようなら罪の要件は満たすかもしれない。
それまで散々「瑠美を山本から引き離してほしい」と言っていた家族にとって、向こうからやってきたこの状況は、まさにチャンスだった。
しかし、警察官は「まあ、家族だから」と要望を聞いてくれなかったそうだ。
いずれにしても山本が実家にとうとう姿を現し、瑠美さんの変わり果てた姿を見た圭子さんや真理さんはより一層の危機感を募らせていた。
その翌日、実家からはこれ以上金を取れないと判断したのか、山本たちはターゲットを夫の隆さんに定め、さらなる脅しをかけた。
「今度は瑠美がホストクラブでマー兄の200万円を使い込んだとか、瑠美を面倒見ている分の生活費も合わせて305万円払えみたいな感じで電話で脅されました」
しかもこの時、二人三脚で山本からの要求に耐えてきたはずの瑠美さんが、いつの間にか「山本側の人間」となっていた。
「『お金はどうすっと? どんくらい人に電話かけたと?』とか瑠美にも毎日毎日言われて……」
隆さんは伏し目がちのまま話を進めた。
山本はこの頃から太宰府の家に瑠美さんを引っ越させて監視下に置き、マー兄を使いながら隆さんに金を要求した。
「瑠美から『あんた浮気しとるやろ』とか訳わからんこと言われたかと思ったら、今度は山本が電話代わって『瑠美はホストに狂って金使い込んだけん、その金をあんたが代わりに支払ったらあんたは解放してやる』とか言われて……」
日本中をトラックで走りながら、毎日毎日こんな脅迫電話を受けていた隆さんは精神的に追い込まれ、死んだ方がマシだと本気で自殺を考えたという。
自分だけで受け止められる範囲を大きく超えたと感じていた隆さんに、タイミングよく妹の内縁の夫・富田さんが働きかけたこともあり、ようやく瑠美さんを除く全員で家族会議を聞いた。
瑠美に一体何が起こっているのか?
目まぐるしく悪化していく状況についていけていなかった圭子さんたちだったが、双方の話を足し合わせようやくその全貌を理解した。
長期にわたって、暴力団を背後に勾わせた山本から何度も脅されている。
総額何百万円もの金を巻き上げられている。
山本らは瑠美さんを同居させ洗脳している。
家族だけで立ち向かったり、脅しに対抗しようとしても、相手はヤクザだ。 暴力団に家族ごと殺されるかもしれない。
こんな状況になったら、もう自分たちにはどうすることもできない。
警察を頼るしかない。
しかし、
「瑠美を山本から引き離してほしい」
「相手は明らかに暴力団をチラつかせて脅迫してるんだから逮捕してほしい」
そう懇願し続けるも、鳥栖署は動いてくれなかった。
「鳥栖署はこちらがいくら訴えかけても、事の重大さを全然わかってくれなかったんです。私たちが明らかに脅されているのに、『これは家族間の問題』と、鳥栖署、とくに綾部は真剣に取り合ってくれませんでした」
それどころか、鳥栖署は家族の相談を面倒くさがっていると思われてもおかしくないような対応にだんだんなってきていたという。
明らかに脅迫・恐喝を受けている家族が、「生活安全課の綾部さんではなく刑事課と話がしたい」と相談した際には、「アポを取ってください」と言われ、「ではそのアポを取らせてください」とお願いすると、「また昼間に電話かけてもらっていいですか?」と断られたこともあった。
また、長距離トラックの運転手である隆さんが大阪での仕事中、山本とマー兄から電話で脅されたので脅迫罪で被害届を出したいと話しても、
「脅されたのは大阪でですか? だとしたら管轄は大阪府警なので鳥栖署には被害届は出せません。またその脅迫も録音がないので証拠がない」 と断られたという。
隆さんのこの話が本当ならば、鳥栖署の対応はおかしい。通常は脅された場所がどこであろうと被害届を出すことができる。被害届は被害に遭った管轄の署でないと出せない、と万が一鳥栖署の担当者が言っていたとしたら、それは間違ったことを隆さんに伝えていることになる。
家族はこの状況を何とか変えようと弁護士を入れていた。
そして9月23日、隆さんは山本とマー兄に再び電話で脅迫された。鳥栖署に言われた通り電話を録音し、意を決して弁護士を入れましたというと、山本からは「金を返せ」「借りた金も返さないで弁護士入れるなんて、詐欺よ詐欺!」と覚えのない借金の返済を求められ、マー兄からは、
「もしかしてワシらのこと舐めてんのかお前?」
「弁護士入れたところでどうにかなると思ってんのかコラァ!!!」
「舐めた真似してくれたな、弁護士入れてどうなるか、上等や、してみたらええ!!!」 などと脅迫され続けた。
隆さんはこの時のことを、「もう山本の声も松尾の声も聞きたくなかった。でも少しでも脅迫の証拠になればと耐え続けました」と声を絞り出して振り返った。
後からこの実際の音声を聞く機会があった。文字だけでは少々わかりづらいが、マー兄は関西弁と博多弁を混ぜたような、よくヤクザや暴力団が脅す時に使うドスを利かせた声で、怒鳴りつけたり絶叫したり、時にはあまりの大声で音が割れ、何を言っているのかわからないほどの凄まじい勢いで、隆さんを恐喝している様子が聞き取れた。
隆さんはほとんど涙声になりながらも必死に、「弁護士を入れました」「支払いはできません。すみません!」と震える声で対峙していた。
「ヤクザ」を自称する男が一般市民にこんな風に怒鳴っているのが恐喝や脅迫でないなら、一体何なんだ? という印象だ。
こういう話を聞くと「警察は民事不介入だから」と言う人がいるが、これは現在の警察の
指針とは異なる。どんな事件も入り口は「金銭トラブル」や「人間関係」などから発展することは警察も過去の事例から学んでいるので、民事の段階からきちんと察知するべきだ、という考え方になっている。
例えば1999 年10月、埼玉県桶川市で当時21歳の女性が通学途中に待ち伏せしていた元交際相手の仲間に刺殺され、その兄や殺害の実行犯ら4人が逮捕された、いわゆる「桶川ストーカー殺人事件」。この事件は、殺害された女性や家族が事件前に何度も警察に足を運んでいたが、「民事不介入」を建前に業務の負担を避けるという悪習に染まっていた結果、最悪の結末を迎えた。
この事件をきっかけに2000年5月にはストーカー規制法が成立し、ストーカーの専門部署を設置する県警も誕生したりした。
昨今の警察は、家族間のトラブルや親族のトラブル、または知人同士のトラブル程度の話でも、きちんと耳を傾け、起きていることを把握しようとする場合が多い。というのも、警察はその手の事案が最終的に重大事件になる可能性を孕んでいるという考え方を持っているからだ。
隆さんは長時間の脅迫に耐え、証拠となる音声を録音することができた。これで警察はまともな対応をしてくれる、被害届を受理してくれると思った隆さんだったが、今までの警察の対応があまりに杜撰だったので、弁護士に念のためこの録音を聞いてもらうことにした。
「これは10 0 %恐喝です。これで被害届が受理されなかったらおかしいです」 録音を聞いた弁護士がそう断言したので、隆さんの意は固まった。
鳥栖署の刑事課にアポを取った隆さんは、9月25日午後8時40分に真理さん、富田さんの 3人で訪問した。
ところが、刑事課が全員出払わなくてはいけない事案が発生し、結局いつもの生活安全課の綾部巡査長が対応するという。
綾部巡査長の今までの不誠実らち な対応に不信感を抱いていた家族は、
「いやいや、綾部さんだと埒が明かないので、他の人に話を聞いてほしい」
と頼んだものの、刑事は全員出払っているから、と結局綾部巡査長が対応することになった。
「それまでに私たちは鳥栖署に10回も訪れていて、主に対応していたのが綾部だったんです ……この綾部が全然こちらの希望を聞いてくれないので、いい加減刑事課の方と直接話がしたかったのですが、この日もまた刑事さんとは話せず、結局綾部さんに話を聞いてもらうことになったんです……」
吐く息も白い、冷え切った納骨堂で。
鳥栖署のあの日の対応に憤りを隠しきれない遺族の訴えに、耳を傾け続けた。
その日の鳥栖署の対応は、にわかには信じがたいものだった。