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フィンランドで暮らしてみた

2023.12.30 公開 ポスト

住めば都かフィンランド芹澤桂(小説家)

日本での休暇を終えて、フィンランドに帰ってきた。家の最寄り駅で空港からの電車を降りて住宅地を自宅へと歩いていくと、時刻は夜半過ぎ、あたりは雪で覆われていて昼間なら聞こえる電車の音も終電間際で本数が少なく、雑音らしき雑音がまったく聞こえてこない見事な静けさだった。

寒いとはいえマイナス3度程度。風もなく過ごしやすい冬の夜で、これならまた暮らしていけないこともないな、と心の中で再確認した。

 
(朝7時の裏庭。まだ暗い)

日本で暮らしてもいいけれど

日本へ一時帰国して人に会うと頻繁に聞かれるのが「もうずっとフィンランドの予定ですか?」だ。

実は日本に着いてすぐ、あまりにもお日様が照っているのと奇跡的に暖かかった12月、それから物価安においしいごはんのおかげで夫なんかは「なんで我々はフィンランドに住んでいるのだろう……」とわりかし本気でつぶやいていた。

夫の場合はもともと日本好きなのもあり、日本に暮らせるものならいつでも暮らす心の準備はできている、といった具合である。

今回、当初は予定になかった一時帰国を急に決めたのもあまりにもひどい円安が理由で「こんなに安いなら今行っておく?」といったノリだった。

もともと日本は、フィンランドから比べると物価が安い上にサービスがよく、もちろんそれはその中で暮らす人々からしたらいいことばかりではないのだけれど、外から来るとパラダイスなのである。日本ではお弁当が買える500円=3.18€でもフィンランドではスタバのコーヒーも買えない。

つまりフィンランドは一言で言ってしまうと、寒くて暗くて冬が長く、物価が高い国なのである。

しかし私は、おそらくずっと、せめてしばらくはフィンランドで暮らすのだろうな、と思っている。

やっぱりただいまフィンランド

やろうと思えば日本を含めた海外への移住も、よそのうちより比較的簡単だ。買った家は簡単に売れるし、仕事もどこでもできる。隣国が戦争を始めてからずっと、その可能性も夫婦でなんとなく程度には視野に入れている。

またフィンランドでの犯罪もここ数年でぐっときな臭いものになりつつある。未成年による犯罪や銃犯罪が増えているというニュースを見るにつれ、ここにいるも長くもないかもしれないなぁとぼんやり考える。定住したかのように見せかけて、水面下での移住のための筋トレは欠かしていないのである。

ただまあ何も起きない限りは、しばらくはフィンランドで暮らして行きたい。

フィンランドが好きだから、と言い切れてしまえばいいのだけれど、せっかく落ち着き始めたから、というのが大きい。

今の家の間取りや便利なわりに森に近い住環境が好きだし、子供の教育と安全を考えるとしばらくはこの田舎都市にいるのは悪い案ではないと思う。

冬にお日様に当たりたければ簡単に南欧やその他のリゾートに行けるし、バスタブがなくてもサウナがある。むしろバスタブはどの国でも簡単に購入できるけどサウナを一般家庭に導入するにはリフォームやら許可やらいろいろ大変だろう。

巷のコーヒーが高ければ自分で淹れるまでだ、どうせ家にいるばかりなので問題ない。人によっては面倒な雪かきも、今年から夫の甥っ子にお小遣いを渡して頼むようになったのでぐんと楽になった。

出汁とソーセージの共存

それらのあれこれに慣れてしまうとこの国は快適なのだ。日常の小さな問題に解決策を見つけて進んでいく生活のあり方が私は気に入っているし、その点では慣れ親しんだ日本より海外暮らしの方が外国人として解決しなければならない問題や順応しなければならないことが山積みで性に合っているともいえる。

ただ一つ、胃袋だけは制御不可能で、いったんフィンランド料理に慣れたと思われた味覚も年々和食を恋しく思うようになり、今では週の半分は米を炊いている。世の中はクリスマス料理から年末のポテサラ・ソーセージに移行している頃だけれど、私は出汁を丁寧に取って日本から持ち帰ったそばを茹でることばかり夢見ている年末なのである。

(帰ってきて食べたくなったのはサーモンスープくらい。だけど、やっぱりただいまフィンランド!)

長らくご愛読ありがとうございました! 連載は今回が最終回ですが、また文庫化予定。お楽しみに!

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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