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仕事の辞め方

2024.01.31 公開 ポスト

鈴木おさむ「僕も老害になっていた」 40代からのソフト老害とは鈴木おさむ(放送作家)

2024年3月31日をもって、32年間続けてきた放送作家業と脚本業を辞めることを表明した鈴木おさむさん。マンネリを捨てることで、働く意味、人生の目的、幸せのカタチが見えてくるといいます。著書『仕事の辞め方』の一部を再編集してお届けします。

*   *   *

老害は60代、70代の話ではない

僕は「老害」による被害者側だとずっと思ってきました。

でも、この一年はそうでもないと思っています。

老害は60代、70代の話ではない。40代から老害を与える加害者側に立っている人もかなり多い。

1人がけのソファに座りこちらを向いている鈴木おさむの写真
PHOTOGRAPH=倭田宏樹

事の始まりは、とあるYouTubeチャンネル。『街録ch』という人気チャンネルをご存じでしょうか?

三谷三四郎というテレビディレクターが町中で、とんでもない人生を経験した人たちにインタビューするもので、これがとてつもなくおもしろい。

三谷Dは、元々お昼の番組『笑っていいとも!』のADさんで、そのあとディレクターになり、僕もいくつか番組を一緒にやっていたことがある。

三谷Dが、テレビから少し離れて、『街録ch』を始めてヒットし始めたときに、嬉しくて電話した。「良かったな、三谷」と言っても、なんかノリが悪い。あんまり嬉しそうじゃない。

その理由が一年後にわかった。

 

三谷Dとの一回も使われてないLINEに、いきなり映像が送られてきた。それはライターの吉田豪さんに三谷が逆インタビューされている『街録ch』の映像。

まだ公開されてないが、ちゃんとサムネイルも入っていて、そこに「鈴木おさむを逆恨み」と書かれている。それを見て心臓の鼓動が速くなる。

そしてLINEの文章に、いきなりアップするのも卑怯だなと思ったので、とりあえず公開前に送ります……的なことが書いてある。

見てみると、僕ととある番組をやっていた時のこと。三谷たちが必死に作ってきた企画やVTRが僕の一言で、簡単になくなったり、直されたり。しかも、僕の意見をプロデューサーや演出たちが大切な発言として、受け入れて、その通りにしてしまう環境に対して激しくキレていた。

僕ら作家は10以上の番組を担当し、週に一回、番組の会議に来て発言する。ディレクターは一週間、その会議に向けて気持ちを込めて作り上げてくる。だが、それが週に一度そこに来た僕らの発言でひっくり返される。

三谷は僕に対してもですが、その環境を作り上げている「大人たち」や局にも問題があると提言していた。

見終わり、色んな感情がこみ上げてきたが、三谷にはこうLINEした。「おもしろいじゃん」と。

三谷はその言葉を求めていたらしく、その後のLINEの文面は急に穏やかになり、 結果、後日、彼のチャンネルに僕も出演して、自分の人生や思いを語った。

三谷のVTRを見て気づいた。これって、自分は「老害」の被害者側だと思っていたけど、加害者側に立ってたんだよなと。

自分も40代から老害の加害者側になっていたんだと気づき、40代から「ソフト老害」 は始まっているのだとわかった。

自分の行動がソフト老害になっている

60代、70代の「老害」と40代の「ソフト老害」はちょっと違う。

40代になり、会議に出席し、自分が一番上に立つ。僕ら放送作家の仕事というのは、 誰かのパートナーになることが多い。

プロデューサーや総合演出と言われる番組を作る一番の責任者のブレーン的パートナーとなる。

自分の一言で全てが決まっていく時も数々あるし、時には、プロデューサーや総合演出の気持ちをアシストすることもある。

20代の時よりも、全体の「バランス」を取ることが多くなる。ただ、自分の発言力が大きいため、バランスを取っているはずの僕の言葉は、結果、若者たちが必死に考えてきたことを妨害することになっていた

胸の前で手でバツ印を作っている会社員の写真

これ、どの会社でもあるのではないでしょうか? 40代になり、20代、30代とは違い、会社全体のことを考えて動かなきゃいけないポジションになる。

そのポジションに立ったからこそ、会社のことを考えて発言していること自体が若い世代からするとソフト老害になっていたりする。

そして、例えばそのプロジェクトがうまくいっている時はいいが、うまくいってない時。「上の人」からは、なんとかうまくいくようにツツかれる。

若い世代からは、自分たちのやりたいようにやりたいと言われる。こういう時に、自分は「上の人たち」とは違うよというフリをしながら、若者たちを説得するようにして、結果、走る方向を変えさせていく。あるあるだ。だが、これもソフト老害と言えるだろう。

誰も傷つかないようにとバランスを取っているつもりだが、20代、30代からしたらそのバランスを取っている行為が、妨害行為になっている。

良かれと思ってやっていることは、ソフト老害になっていることが多いのだ。40代は老害なんて関係ないと思いがちだが、40代から始まっているのだ。それを自覚した方がいいと本当に思う。

嫌われるなら正面からちゃんと嫌われる

僕は、三谷DのVTRを見てから決めたことがある。バランスを取るのはやめようと。自分が違うと思ったことは、オブラートに包んで言ってるつもりだったが、結果、それがソフト老害になるならば、なぜ違うのかをハッキリ伝える。

そして、嫌われるなら正面からちゃんと嫌われようと。嫌われることを恐れてうまくやろうと思うから、逆にソフト老害になるのであって。

嫌われることを恐れずに、ハッキリ伝えるようにした。

そんな僕がどう思われているかわかりませんが、もし自分が若者だったら、そんな「大人たち」の方が気持ちよく映るのではないかなと思っている。

僕が今の仕事を「辞めよう」と思った理由の一つに、40代以降、どうしてもバランスを取る立場になることが増えてしまい、自分の行動がソフト老害になっているのではないか、と思ったのもある。

*   *   *

※続きは書籍『仕事の辞め方』でお楽しみください

※この記事はWeb版GOETHEに掲載された記事を再編集したものです

関連書籍

鈴木おさむ『仕事の辞め方』

マンネリを捨てることで、人生を取り戻す 32年間やった放送作家を辞めます。 ワクワクしない仕事をダラダラ続けるほど、人生は長くない! 「仕事を辞める」と想像することで、働く意味、人生の目的、幸せのカタチが見えてくる。 人生100年時代に、毎日をキラキラ生き続けるための方法

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仕事の辞め方

2024年3月31日をもって、32年間続けてきた放送作家業と脚本業を辞めることを表明した鈴木おさむの著書。「仕事を辞める」と想像することで、働く意味、人生の目的、幸せのカタチが見えてくる。

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鈴木おさむ 放送作家

1972年生まれ。多数の人気番組の企画・構成・演出を手がける。 そのほか、エッセイ・小説の執筆や漫画原作、映画・ドラマの脚本の執筆、映画監督、ドラマ演出、ラジオパーソナリティ、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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