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家族のレシピ

2024.02.14 公開 ポスト

「親孝行がしたい」がん闘病中の母に娘は家族旅行を計画。しかし…NBS「看取りを支える訪問診療」取材班

がんを患い、「余命わずか」を宣告された母が、家族に遺した1冊のレシピノートに込めた思いとは。「NBSみんなの信州」で大反響を呼んだ感動のドキュメンタリーを書籍化した『家族のレシピ』より、抜粋してお届けします。

親孝行がしたい

在宅医療が決まった頃、優華さんはある計画を思いつきました。間もなく、お母さんの誕生日です。だから、誕生日プレゼントとして、お母さんに家族旅行をプレゼントしようと考えたのです。

 

毎年、自分や弟、お父さんの誕生日には、盛大にお祝いをしてくれるお母さん。だけど、お母さんの誕生日や母の日に「何が欲しい?」と聞くと、「いらない」と言ってプレゼントを拒みます。「私のためにお金は使わなくていいから。自分のために使って」と。それでも、お花やプレゼントを毎年渡してきましたが、豪勢に祝ったことはこれまで一度もありませんでした。

だから、今年こそは。

本当は、来年就職してからちゃんとしたお祝いをしたかったけれど、それはできなそうだから……。

 

「ねえ、お母さんの誕生日に、どこか近くでもいいからホテルを取って、お祝いしようよ」

「いいよ、そんなことしてくれなくて」

「いいじゃん、せっかくだし。ほら、ここなんてどう?」

「んー」

 

これまで本当に色々なことをしてもらってきたから、ちゃんとした思い出を残してほしい。その一心で、優華さんは密かに予約を取り、「もう予約したから行こうね!」と、半ば強引に計画を進めます。

お母さんも「わかったよ。だいぶ体力は落ちてきてるけど、9月8日ならまだ行けると思う。ありがとう」と、旅行を心待ちにしていました。

ところが、体調は坂道を転げ落ちるように悪化していきました。

昨日できていたことが今日はできなくなり、今日できたことが、明日はできなくなる。一日ずつ、命が削られていきます。結局、旅行に行くことはできませんでした。

娘と母

在宅医療が始まってから、優華さんは家事や買い物、食事の準備、お母さんのお世話、学校の実習など、たくさんのことに追われていました。

力仕事や深夜のお世話など、24時間体制で介助しているお父さんを見ていたので、「力仕事は無理だけど、なるべくできることはやろう」。そう思って、体を拭いたり、着替えさせたり、体をマッサージしたり、自分にできることを必死にやっていました。

学校が終わり、買い物をして夕方帰宅。それからご飯を作る日々。

けれども、帰宅すると、お母さんが台所にいることがよくありました。

 

「お母さん! 私が作るからいいって言ってるでしょう?」

「ここまでしかできなかった。ごめんね」

 

何度、優華さんが自分でやるからいいと言っても、お母さんは立てなくなるギリギリまで料理を作っていました。

もう、自分が食べられるわけでもないのに。

食欲が落ち、口を大きく開けることも難しくなっていたお母さんは、ほとんど食事を取れなくなっていました。

主な栄養源は、缶に入った栄養剤です。異様に甘く、決しておいしいとは言えません。だからお母さんは、少しでも口にしやすいように中身を凍らせて食べていました。

 

優華さんは、お母さんが最後に作ってくれた料理が何だったのか、覚えていません。

本当に毎日作ってくれたから。明日もまた作ってくれるのかなと、期待するわけではないけれど、明日もそれが続くと思っていたからです。

けれども、いつしか台所に立てなくなり、立ち上がることもおぼつかず、寝たきりになっていくお母さん。

在宅医療でいつも一緒にいられて嬉しいけれど、そんなお母さんを見るのがどんどん辛くなっていきました。

姿を見ると泣けてきます。痩せ細って寝ているお母さんを見るのが耐えられません。

でも、泣いているところは見せたくない。

だから、学校から車で帰ってくると、車の中で一人、涙を出し切ってから家に入る。それが優華さんの日課になりました。

*   *   *

この続きは書籍『家族のレシピ』でお楽しみください。

関連書籍

NBS「看取りを支える訪問診療」取材班『家族のレシピ』

胆のうがんを患い、「余命わずか」を宣告された母・三嶋伊鈴さん。歯科衛生士を目指す専門学校生の娘・優華さん。高校受験を控えた中学生の息子・健渡くん。寡黙ながら優しい父・浩徳さん。 コロナ禍で病院での面会が制限される中、家族は在宅医療を受けることを決断する。在宅医療を支えたのは、訪問診療クリニック樹の瀬角英樹医師。 NBS「看取りを支える訪問診療」取材班の中村明子記者は、瀬角医師から紹介を受け、2022年9月から家族4人で過ごす最期の日々を取材していく。 伊鈴さんが亡くなる数日前に見つかった1冊のレシピノート。材料と工程がイラストと共に丁寧に書かれたレシピの数々には、家族への深い愛情と絆が刻まれていた。

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家族のレシピ

がんを患い、「余命わずか」を宣告された母が、家族に遺した1冊のレシピノートに込めた思いとは。「NBSみんなの信州」で大反響を呼んだ感動のドキュメンタリーを書籍化した『家族のレシピ』より、抜粋してお届けします。

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