大竹しのぶさんの朝日新聞の連載エッセイ「まあいいか」を1冊にまとめた『ヒビノカテ まあいいか4』より、大竹さんの日常が覗けるエピソードを少しずつお届けします。
今回は、さんまさんとの合同誕生日会での、おかしくも優しいお話。
幸せってこんなだった
元夫であるさんまさんと私は共に7月生まれで、ここ数年合同でお祝いすることが続いていた。
去年はコロナ禍ではあったものの、緊急事態宣言は出ていなかったので集まることができた。が、今年は運悪く宣言中であり、その上舞台の公演中。
そして公演中というのは、宣言が出ているか否かに関わらず、本当に悲しいくらいに、どこにも行けず、誰にも会えず、何もできない。稽古から約4カ月、その状態が続いていた。もし万が一、誰かと食事に行き、そこで感染したら公演中止という考えただけで恐ろしい事態になってしまう。役者もスタッフもひたすら劇場と自宅を往復するだけだ。
そんな日々を過ごし、気づいたらもう10月の半ばになっていた。スケジュールをみんなで合わせ、元家族だった私たちは、友人のお寿司屋さんへ。その店も3カ月ぶりの営業だ。
何もかもが久しぶりだ。お店も、みんなが揃うのも、乾杯も、ハッピーバースデーを歌うのも。当たり前のことが、どんなに幸せなことだったのか一つ一つに思う。
カウンターに並んだ私たち4人に、大将が張り切ってお寿司を握ってくれる。それを美味しそうに食べながらも、相変わらずの勢いで喋りつづける元夫。ふと、私たち2人を見て、「おい、ずーっとマスクつけてたら、食べられへんやろ」。すると娘がすかさずこう答えた。「だってこんなに近くで、しかもこんな大きな声で喋る人がいるから。気をつけないと。飛沫、飛沫」
笑いながらも私たちの生活が大きく変わってしまったことに気付かされた。当たり前のことが、当たり前でなくなったこの時間。そんな中でだからこそ、いつにもまして幸せな時間になった。
去年の誕生日、息子から彼へのプレゼントはコーヒーメーカーだった。
「2日前に壊れたんや」。これにはみんな大喝采。今年のもまた素晴らしかった。きれいなブルーの小さなトランク。え、トランク? 何とそれは開いてみたら、持ち運びができるレコードプレーヤーだった。ボブ・ディランやビーチボーイズのレコードを添えて。またまたみんなから歓声が上がった。少しレトロな音が店に響き、私たちはより温かく幸せな気持ちになった。
優しい音楽が、世界を祝福してくれているようだった。
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ヒビノカテ まあいいか4
「一日一日、一瞬一瞬の中にささやかな喜びを見つけられる人間でありたい」。
女優・大竹しのぶの過激で、微笑ましく、豊かな日常。
朝日新聞人気コラム書籍化! 第4弾。