国会議員・須藤元気さんは、日本の現状に危機感を覚え、日々戦っています。そんな彼が日本を救うために日夜考えていることを綴った『減税救国論』が発売されました。早くも話題になっている本書の「まえがき」を抜粋してお届けします。
* * *
まえがき 闇からの救出
二〇一九年七月、参議院議員選挙で当選して政治家となった。ご存じの方もいるかと思うが、僕は格闘家だった。引退後は学生レスリング日本代表監督、WORLD ORDERというパフォーマンスユニットでの活動、居酒屋の店主やその他いろんな分野に挑戦してきた。全てにおいて言えることは、何をするにしても踏切台に向かうスキージャンパーのように「前のめり」だったということだ。ある程度計画性はあったものの、僕は何かを思い立つと止まっていることができないので、周りにいたスタッフや仲間は大変だったと思う(今もです)。
経歴だけ見れば要領良くやってきたと思われがちだが、振り返れば綱渡りの人生だった。
そんな僕にとって生まれて初めての「就職」は政治家だった。僕が政治家になることを選んだことに戸惑った人もいたが、この選択は自分自身にとっては意外ではない。子供の頃から政治家になろうと思っていたからだ。
子供の頃は、多動気質で、教室の椅子にずっと座っていることがきつかった。椅子に座っていることはほとんどの子供にとって簡単なことだと思うが、僕には困難だった。
僕は中学生になり、「トリッキーすぎる」というトリッキーではない理由で先生たちに殴られるようになり、中学三年くらいからグレ始めた。
自分の居場所が見つからず、友達とつるんで笑っていても、空虚な思いが消えることはなかった。生きる場所を求めて、精神的に彷徨っていたように思う。
そんな僕が政治家になろうと最初に思ったのは高校一年の夏、上野で警察に補導された時の出来事がきっかけだった。
僕を補導した女性警察官が、まるで陶芸家が器の輪郭を確かめるかのように目を細めて僕の顔を見ながらこう言った。
「あなたの目にはまだ光があるわ。見逃してあげる。心を入れ替えなさい」
まるで二流映画で目にする、強引な展開を作るセリフのようであった。
そして、その言葉通り、僕をその場でリリースしてくれた(ちなみに一緒に捕まったのはヤンキー漫画『クローズ』のリンダマン似の友達だったのだが、彼は態度が悪すぎて警察署にしょっぴかれた)。
僕には、まだ可能性があるのか?
切り替えが早い僕は、この日を境に心を入れ替えた。
「みんなが弱者や困っている人にもっと手を差し伸べて助けることができたら、誰もが生きやすい世界になってくるのではないだろうか。おそらく政治が変わればいいのだろう」
と考え始めた。
「なぜ、自分は道を踏み外したのか」
自分なりにそのことを考えてみると、社会の中で疎外感があったのだと思う。
自分は「人と違う」という理由だけで、学校という組織からのけ者にされていたが、それは自分だけではないはずである。他にも同じ思いをしている人がいるのではないか。本当に、この社会は、全ての人に開かれているだろうか。
学校という、誰にでも開かれているかのように見えるドアが僕の目の前で閉ざされ、暗闇の中で生きてきた。そんな僕の瞳に、光が残っているのか。それならば自分で世の中を変えればいいのかもしれない。
「そうだ、政治家になろう!」
JR東海のCMの音楽が頭の中で鳴り始めた。単純であるのが僕の強みである。
政治家になるにはどうすればいいのかと思い、関連本を書店で立ち読みしたり、弘兼憲史氏の傑作政治漫画『加治隆介の議』などを読んで士気を高めたりした。日本における公職選挙で必要とされる三つの要素は「三バン」と言われる。「三バン」とは、「ジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)」だ。世襲政治家は票のジバンがあるし、お金持ちはカバンがあるが、僕は下町にある居酒屋の倅だ。そんな自分に作れるのは、「カンバン(知名度)」しかないと思った。そして地元のゲームセンターで『ストリートファイターII』のブランカを使い、「ゲランカさん」という異名を持っていた僕は、格闘ゲームで終わらず実際に格闘技の道へ進んだ。運良く格闘技ブームが始まり、知名度も上がっていった。
僕はいわゆる「ロスジェネ世代」だが、幸運にも格闘技ブームに乗り、メイウェザーの足元にも及ばないが、格闘家としてそこそこ稼がせていただいた。しかし、周囲の友達の多くは非正規雇用という不安定な身分で給料の安い立場にあった。とはいっても二十代はなんでもやれる可能性が多くあったし、悲観的になっている仲間は少なかった。むしろ正規雇用で大企業勤めの友達の方が高給取りの分ストレスが多く苦しそうであった。
しかし、僕らの世代が三十代、四十代と年を重ねるにつれて非正規、正規雇用関係なく友人たちの生活が厳しくなっていった。
一生懸命に働いている人たちが幸せになれない、それは政治が間違っているからだろう。最初は何の政策が間違っているのかとか、具体的なことはわからなかったが、みんながお金に困っているのに消費税が上がり、就職氷河期だと言われている中で労働者派遣法が改正されて、働く人たちはこうした一連の流れで何かがおかしいということに気づき始めた。
僕は今までいくつか書籍を出しているが、この本は政治家としては初めてのものだ。今まで永田町で経験してきたこと、そして今、我が国がやらなければいけないと僕が考えている政策などをまとめてみた。
「WE ARE ALL ONE」をモットーにしている僕は、みんなで幸せにならないと本当の意味で誰も幸せになれないと思っている。日本社会の閉塞感。バブル崩壊後、上がらない賃金。重たくのしかかり続ける税負担。「闇」に直面した今こそが「光」を生み出す時だ。
僕を闇から救い出してくれた、今でも誰だかわからない女性警察官がくれた言葉を信じて。
* * *
※続きは『減税救国論』でお楽しみください。
減税救国論の記事をもっと読む
減税救国論
- バックナンバー