新しい発想で世界経済をけん引する企業が次々と登場する欧米に比べ、なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか。それは、欧米では子どもの頃から「当たり前を疑うことが大事だ」と徹底的に教え込まれ、物事を批判的に思考するクセができているから。その教育の根底にあるのが「哲学」だ。
好評発売中の『「当たり前」を疑う100の方法』(幻冬舎新書)では、人気哲学者の小川仁志さんが古今東西の哲学から、マンネリを抜け出し、ものの見方が変わる100のノウハウを伝授。本書より、試し読みをお届けします。
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今ほど新規事業が求められている時代はないでしょう。どこの業界も新しいやり方、新しい製品、新しい発想を求めています。なぜなら、これをやっていれば安泰という時代がすでに終わりを迎えたからです。
多くの企業が前世紀に築き上げたレガシーで延命を続けていますが、21 世紀も四半世紀が過ぎれば、もうさすがにそれでは持たないことに気づきます。イノベーションが必要なのです。
そのためには、これまでやってきたことを疑う必要があります。成功例や業界の常識だけでなく、身の回りのすべての当たり前を疑う必要があるということです。ただ問題は、当たり前を疑うといっても、その方法がわからない点です。日本では物事の疑い方を教わりませんから。
その逆で、学校では常に信じる教育が行われてきました。教科書や先生の話を信じるというように。批判的思考は、大学に入ってようやく導入されますが、それでは遅いのです。批判的に考える、疑うということの意味がよくわからないまま、日本の大学生は社会に出ます。そしてビジネスパーソンとしても、相変わらず何の疑いもなく前例踏襲で仕事をするのがまさに「当たり前」になっています。
それでは欧米に比べイノベーションが起こらないのも無理はありません。GAFAと呼ばれる世界経済をけん引する巨大IT企業群が、いずれも欧米の企業であるのは偶然ではないのです。ではなぜ欧米ではイノベーションが起こるのか?
それは欧米では当たり前を疑う方法を学んでいるからです。小学校から大学に至るまで、彼らは批判的に思考すること、疑うことを積極的に教育に取り込んでいます。だから授業中でもよく手を挙げて質問します。いや、手さえ挙げることなく質問し出します。質問があるということは、疑っている証拠なのです。その反対で、日本の授業では質問はほとんど出てきません。
そんな欧米の教育の根底にあるのが、哲学にほかなりません。その典型はフランスですが、どの国も程度の差はあれ哲学を意識しています。哲学が西洋で発展してきたことに鑑みれば当然でしょう。
したがって、彼らは哲学を難解で役に立たない学問だとは思っていません。現に、経営者が大学で哲学を学んだり、あるいは哲学者を経営に参画させたりということも盛んに行っています。
その哲学の最も重要な要素こそが、当たり前を疑うということなのです。したがって、哲学という学問には、当たり前を疑うためのノウハウが多く蓄積されています。本書は、その方法を余すところなく紹介したものです。具体的には、パートI で一般的な疑うためのノウハウを50個紹介し、パートII で個別の問題について疑うためのノウハウを50個紹介しています。
ぜひ、これらの方法を活用し、身の回りの当たり前を疑っていただけると幸いです。実践しやすいように、個々のノウハウの使い方も掲載しておきました。
さあ、片っ端から身の回りの当たり前を疑って、イノベーションを起こしましょう! 世の中を変えるのはあなたです。
「当たり前」を疑う100の方法
新しい発想で世界経済をけん引する企業が次々と登場する欧米に比べ、なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか。それは、欧米では子どもの頃から「当たり前を疑うことが大事だ」と徹底的に教え込まれ、物事を批判的に思考するクセができているから。その教育の根底にあるのが「哲学」だ。「知っていることを知らないと思ってみる」(ソクラテス)、「答えを出さない方がいいと考えてみる」(キーツ)等、古今東西の哲学をもとに、マンネリを抜け出し、ものの見方が変わる100のノウハウを伝授する。