新しい発想で世界経済をけん引する企業が次々と登場する欧米に比べ、なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか。それは、欧米では子どもの頃から「当たり前を疑うことが大事だ」と徹底的に教え込まれ、物事を批判的に思考するクセができているから。その教育の根底にあるのが「哲学」だ。
好評発売中の『「当たり前」を疑う100の方法』(幻冬舎新書)では、人気哲学者の小川仁志さんが古今東西の哲学から、マンネリを抜け出し、ものの見方が変わる100のノウハウを伝授。本書より、試し読みをお届けします。
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私たちはどうしても答えを出そうとします。そうでないとすっきりしないからです。でも、この不確実な時代、なんでも答えが出るわけではありません。だからモヤモヤするのです。
だとしたら、そもそも答えを出さなくても済むような発想をしたらどうでしょうか。そこで参考になるのが、19世紀初頭のイギリスロマン主義の詩人ジョン・キーツ(1795 ― 1821)が唱えた「ネガティブ・ケイパビリティ」です。あえて訳すなら、消極的受容力とでもいえるでしょうか。
もともとキーツは、詩人や作家の取るべき望ましい態度としてこのネガティブ・ケイパビリティについて論じていました。不確実なものや未解決のものをそのまま受け止める能力のことです。
これによって人は、早急に答えを出してしまうのではなく、本当の正解を導くためにより多くの可能性を残した状態でいられるというわけです。詩などの文学的表現には、まさにそうした可能性、つまり余韻を残した状態が求められるといっていいでしょう。
それは文学だけでなく、あらゆる分野に当てはまります。実際、ネガティブ・ケイパビリティは、後に精神医学などに応用されています。不確実なのに無理に答えを出しても、それが正しいとは限りません。
だとするならば、いっそ不確実性をそのまま受け止めた方が、悩む必要はなくなります。さらにこの場合、事態がはっきりした時には、様々な可能性の中から本当に正しい選択をする余地が残るという利点もあります。
〈こんな感じで使ってみよう〉
Q、ネガティブ・ケイパビリティで判断を留保した方がいい事例を考えてみてください。
A、たとえば、うまくいっていない時に、人生をどうするかは早まって決めない方がいいと思います。そんな時はネガティブ・ケイパビリティで、あえて選択せずに日常を過ごすのです。そうすれば、いずれ自ずと決めたくなる瞬間がやってくるはずです。あるいは、世の中が混沌としている時もそうです。時代が変わろうとしている時に、従来の価値観で物事を判断すると誤りを犯す可能性があります。そんな時こそネガティブ・ケイパビリティで見極める方が賢明です。
「当たり前」を疑う100の方法
新しい発想で世界経済をけん引する企業が次々と登場する欧米に比べ、なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか。それは、欧米では子どもの頃から「当たり前を疑うことが大事だ」と徹底的に教え込まれ、物事を批判的に思考するクセができているから。その教育の根底にあるのが「哲学」だ。「知っていることを知らないと思ってみる」(ソクラテス)、「答えを出さない方がいいと考えてみる」(キーツ)等、古今東西の哲学をもとに、マンネリを抜け出し、ものの見方が変わる100のノウハウを伝授する。