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「アート」を知ると「世界」が読める

2024.04.15 公開 ポスト

アート=キリスト教のSNSだった!? 「イエスの生涯」を世界中に広めたアートの力山中俊之(著述家・ファシリテーター)

世界のビジネスパーソンにとって、アートは共通の必須教養! 世界97カ国で経験を積んだ元外交官の山中俊之さんが、アートへの向き合い方を解説する『「アート」を知ると「世界」が読める』より、一部を抜粋してお届けします。

「アート=キリスト教のSNS」だった

「アートの歴史を押さえるには、キリスト教の歴史も知っておきましょう」

ビジネスパーソン向けの研修でこの話をすると、「そうか、キリスト教を学ばないと、アートはわからないのか」とがっかりする人もいるのですが、ここは発想の転換で、「アートを通して、キリスト教が簡単に学べる」と考えることもできます。

なぜなら、キリスト教、特にその中でもカトリックが世界中に広まったのは、一般の庶民にもわかりやすく教えを説明したため。そのわかりやすさのツールこそ、アートでした。

ミケランジェロ『アダムの創造』(Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons)

西洋において読み書きが一般庶民に広まったのは17~18世紀のこと。江戸時代だった18世紀の日本の識字率の高さは世界随一とも言われますが、これは庶民も読み書きを習うことが一般化していたから実現できた、非常に稀なこと。

一方で、「庶民は字が読めなくて当たり前」という教育格差があるのがヨーロッパでした。

16世紀に登場したプロテスタントは各国の言語で書かれた聖書によって布教されましたが、それ以前のキリスト教と言えば、カトリックと、ロシアや東欧地域で広がった正教会。ただでさえ識字率が低いうえに、その頃の聖書は外国語とも言えるラテン語で書かれていたため、読めるのは司祭など一握りのエリートだけでした。そこでカトリック教会が音楽や絵画を用いて教えを広めたことが、今日の西洋アートにつながっていきます。

つまりキリスト教におけるアートは、「なんかすごい! 美しくて尊くて、そしてわかりやすい」と人々の心を動かし、「ものすごくいいから、ほかの人にも伝えたい」という行動に駆り立てる、いにしえのSNS。重厚な宗教画は、よくよく見ると「絵で描かれた物語」であり、定番のモチーフがあります。

たとえば、神が6日間かけてすべての生物と天と地をつくったという、創世記にある「天地創造」のストーリー。これはキリスト教において極めて重要なテーマで、ミケランジェロの〈アダムの創造〉にも描かれ、これらのモチーフは現代アートでも取り上げられています。

イエスやキリスト教は絵画の最大のモチーフ

旧約聖書に登場する預言者や聖人たち(モーゼやアブラハム、ダビデ王など)も多く描かれていますが、中心となるのは、やはり神の子イエス。イエスがどう誕生し、どんな生涯を送って復活という奇蹟を遂げたかも、アートを見ればおおまかに把握できます。

次は、イエスの生涯でよく取り上げられるアートのモチーフです。

 

  • 1 誕生:天使ガブリエルが処女マリアに、「あなたは神の子を宿しましたよ!」と告げにくる「受胎告知」。
  • 2 幼少期:聖母マリアが幼な子イエスを抱いている「聖母子像」。
  • 3 活動期:「善きサマリア人」「山上のすいくん」などイエスが説いた説法。
  • 4 晩年期:イエスが裏切り者のユダの密告で逮捕され、ユダヤ教の指導者に罪人として責められる「審問と逮捕」。
  • 5 たっけい:ゲッセマネの丘に行ったイエスが「受難から解放してください」といったん祈るものの、「やっぱり受け入れます」と決意(ゲッセマネの祈り)。パンとワインで弟子である十二使徒と食事をしながら教えを残す「最後の晩餐」。十字架にはりつけられる「磔刑」で死を迎え、埋葬される。
  • 6 復活:埋葬後3日目、死者の中から甦り、「復活の奇蹟」を遂げる。

 

これらはミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ボッティチェリなどなど、西洋アートの超メジャー級の画家たちに、何世紀にもわたって繰り返し描かれていますが、現在でもイエスやキリスト教は、絵画の最大のモチーフとなっています。

関連書籍

山中俊之『「アート」を知ると「世界」が読める』

NYタイムズではアート関連の記事が頻繁に1面を飾るなど、アートは欧米エリートにとって不可欠な教養である。他方、日本でそのようなことはなく、アートに対する扱いの差が、まさに欧米と日本のイノベーション格差の表れであると、世界97カ国で経験を積み、芸術系大学で教鞭をとる元外交官の著者は言う。アートに向き合うとき最も重要なのは、仮説を立てて思考を深めることである。そこで本書ではアートを目の前にして、いかに問いを立て、深い洞察を得るかについて解説。読み終わる頃にはアートの魅力が倍加すること必至の一冊

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「アート」を知ると「世界」が読める

世界のビジネスパーソンにとって、アートは共通の必須教養! 世界97カ国で経験を積んだ元外交官の山中俊之さんが、アートへの向き合い方を解説する『「アート」を知ると「世界」が読める』より、一部を抜粋してお届けします。

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山中俊之 著述家・ファシリテーター

芸術文化観光専門職大学教授。神戸情報大学院大学教授。株式会社グローバルダイナミクス取締役。1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。2024年現在までに世界97カ国を訪問し、先端企業から貧民街、農村、博物館・美術館を徹底視察。京都芸術大学卒(芸術教養)。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA。大阪大学大学院国際公共政策博士。著書に『世界9カ国で学んだ元外交官が教えるビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)などがある。

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