新川帆立さんの最新刊『女の国会』が発売されました。戦前・戦後を通じて女性の参政権や地位向上を求めた故・市川房枝さんへのリスペクトを込めて書かれた本作を、「公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター」理事長の林陽子さんにお読みいただきました。
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ジェンダー・センシティブな最初のミステリー小説、誕生
林陽子 市川房枝記念会女性と政治センター理事長
世界経済フォーラムが毎年公表するグローバル・ジェンダー・ギャップ指数で2023年度の日本の順位は146か国中125位、過去最低を更新した。日本の順位を下げている大きな原因が政治の世界における女性の少なさであることは、今日よく知られるようになっている。日本は極端に女性の政治家が少ない国であり、それは国会議員の供給源であるべき地方議員、官僚、法曹、ジャーナリストなど社会の指導層に女性が少ないことの表れでもある。
「女の国会」は、元弁護士である著者が、なぜ日本の女性政治家はこんなに少ないのか? という問題意識を持って、政治家だけではなく働く女性が直面する困難をリアリティを持って描いている。男性による嫉妬、仕掛けられる落とし穴、ハラスメントの数々。これだけなら類書は多いのであるが、本書はそれをミステリー小説という手法で描き切った稀有な作品である。
本書は、トランスジェンダーをめぐる法律の改正に取り組んでいた保守系の女性衆院議員・朝沼侑子の急死で幕を開ける。朝沼の好敵手だった野党議員・高月馨は、朝沼の死の謎を追う新聞記者の和田山玲奈の助けを借りて、朝沼の死の真相にたどり着く。読者は高月とともに朝沼の不可解な死の真相を探るスリリングな旅に出かけることになり、一気に小説の世界に引き込まれる。朝沼の死の謎の解明と併行して、高月の周りでは、朝沼の死によって空席となった議席を埋めるための補欠選挙が準備されていく。候補者の椅子を争う男性地方議員の卑劣さと狡猾さ。そこでは典型的な男性優位の世界である中央・地方政界における女性たちの理不尽な経験が浮き彫りにされ、随所に著者の綿密なリサーチ・取材の跡を感じる。
「女のいない国会」は、政治を志す女性にとってフェアな場所ではないことを本書は雄弁に語っているが、そのような政治は男性を含むすべてのジェンダーの人々にとって不利益であり不幸なもののはずである。そのメッセージがより明快になれば、将来、フェミニズム日本文学の歴史が書かれる際に、「女の国会」はジェンダー・センシティブな最初のミステリー小説として記憶に留められるだろう。
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