なぜ日本ではこんなにも頻繁に地震が起きるのでしょうか。世界が認める地質学の第一人者が解き明かす地球科学の最前線、幻冬舎新書『地球の中心で何が起こっているのか』より、一部を抜粋してお届けします。
地球の水はどこから来たか
現在の地球には、約14億立方キロもの海水が存在する。しかし驚くなかれ! 実は地球の中には、この2倍くらいの水が存在すると言われている。水といっても、H2Oではなく、多くは水酸化物として鉱物中に含まれている。
なぜこんなにも多量の水が地球の内部に存在するのだろうか?
最大の理由は、プレートテクトニクスが作動していることだ。
海洋プレートが海嶺で作られるときには、海水がマグマによって熱せられて、活発な熱水循環が起こる。このことで、プレート内部に水を含む粘土鉱物などが多量に作られるのだ。このような「みずみずしい」海洋プレートは、沈み込み帯から、地球深部へ水を持ち込んでいく。
もう一つ考えられる理由は、マグマオーシャンの中に含まれていた水が、マグマオーシャンが冷え固まるときに、鉱物中に取り込まれてしまったことだ。
では、もともと地球の水は一体どこからやってきたのだろうか?
地球の起源物質と考えられる炭素質コンドライトは、他の隕石に比べて水や揮発性元素を多く含むことが特徴である。
1969年にオーストラリアのビクトリア州マーチソン村に落下した「マーチソン隕石」は、地球上には存在しないアミノ酸を含むことで知られる炭素質コンドライトだ。
この隕石にはなんと、15パーセントもの水が含まれている。したがって、原始地球を作った微惑星に、地球の水の起源を求めるのは自然なことであろう。
一方で、原始太陽系円盤から直接凝縮したとか、氷彗星が水を地球にもたらしたとする説を唱える研究者もいる。
水が、気体ではなく液体として地球に存在するには、地表付近の温度が数百度以下に下がらなければならない。
私たちが水の沸点としてよく知っている100度よりずっと高温なのは、原始大気の気圧が現在よりもずっと高かったせいだ。調理時間を短くするために、圧力鍋を使うと中の水分が100度以上になるのと同じ原理だ。
やがて大気の温度が下がり、大気中の水蒸気が凝固を始めると、雨が降り出して、さらに地表の温度は下がっていったに違いない。こうして海が誕生した。
38億年前には広い海があった
先にも述べたように、地球最古の鉱物であるジルコンは、44億400万年前には地球表面の一部に海が存在した可能性を示している。
しかし、広くて立派な海の証拠が残っているのは、グリーンランドのイスアに分布する38億年前の地層だ。この地層は、粒子の大きい砂と細粒の泥が交互に繰り返すのが特徴だ。簡単に考えると砂粒子は大きいので沈降しやすく、そのため浅い海に溜まる。一方泥は、深い海に堆積する。これらの堆積した深さが違う砂と泥が繰り返しているのはちょっと変だ。
ところが、このような地層が「普通に」溜まっている所が、潜水調査などで発見されているのだ。それは、海溝の陸側の斜面だ。海溝近傍では巨大地震が頻繁に起こる。この地震によって、比較的浅い斜面に溜まっていた砂層が崩れて、斜面を流れくだる「海底地滑り」が発生する。地滑りした砂は、深い場所の、普段は泥が溜まっている所まで流れ着いて海底扇状地を形成する。このようにしてできた砂と泥が繰り返す地層は「タービダイト」と呼ばれる。つまりこの地層は、海溝のように十分に深い部分を持つ、広い海が存在したことを示す証拠なのだ。
さらにイスアの地層群は、海洋プレートが沈み込む際に、その一部が陸のプレート側へ掃き寄せられるように形成される「付加体」の特徴も持っている。実は、日本列島の多くの部分もこの付加体からなっているのだ。
海洋地殻を作る玄武岩や、プレート上に堆積したチャートと呼ばれる深海底堆積物、それにサンゴ礁を作っていた石灰岩などが、プレートが海溝から沈み込む際にはぎ取られて、ベタベタと陸にくっついていくのだ。
38億年前のイスアでも、このようにして付加体が作られていたらしい。つまりこの時期には既に、海、それに海溝が存在した。さらにプレートテクトニクスも作動していたことになる。
生命も38億年前に誕生していた?
イスアの地層が語ってくれるのは、海の存在だけではない。なんと、38億年前に生命が地球上に存在した可能性もあるらしい(図2-1)。
最初の報告は、先のタービダイトからであった。その中に含まれるグラファイト(炭素)の同位体比を測定すると、異常に軽い(質量数が小さい)炭素同位体の割合が高かったのだ。生物は炭素を体内に取り込む際には、選択的に軽い炭素を取り込むことが知られている。イスアのグラファイトは、生物由来の炭素と同じくらい低い同位体比を示していたのだ。すわ、地球最初の生命か! と人々は騒然とした。
しかしこのデータだけでは、確実に生命の痕跡とは断定できない、というのが現状のようだ。現在でも多くの研究者が、より確実な証拠を競い合うように探している。
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