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地球の中心で何が起こっているのか

2024.06.11 公開 ポスト

起源物質「コンドライト」が示す地球の不思議 大陸と海の明確な違いは「地殻」だった巽好幸(理学博士)

なぜ日本ではこんなにも頻繁に地震が起きるのでしょうか。世界が認める地質学の第一人者が解き明かす地球科学の最前線、幻冬舎新書『地球の中心で何が起こっているのか』より、一部を抜粋してお届けします。

地球科学での「大陸」と「海」の明確な違いは、地盤(地殻)の化学組成の違い

太陽系の惑星の中で地球が持つ際立った特徴の一つが、大陸の存在だ。

大陸は、核やマントル、それに海洋地殻と比べると、地球の起源物質である炭素質コンドライトから、最もかけ離れた組成を示す。起源物質がいろんな組成の物質に変化することを「分化」と呼ぶが、地球は太陽系惑星の中で、最も分化してしまった惑星なのである。つまり、大陸の形成過程を知ることは、地球の進化を知る上で避けて通ることのできない問題なのだ。

エチオピアのダナキル砂漠の写真

地形学では、「海」と「陸」とは、海水の存在の有無で区分される。

さらに陸は、その面積によって、大陸と島に分類されるが、両者の間に明瞭な境界があるわけではない。例えば一般に6大陸と呼ばれる中で最小のオーストラリア(約760万平方キロ)と、最大の島であるグリーンランド(約220万平方キロ)の境界は人為的と言ってよい。

 

これに対して、地球科学でいう大陸と海の違いはもっと明瞭だ。

既に述べたように、両者では、地震波の伝わる速度が決定的に異なる。P波で比べると、大陸地殻では6~6.5キロ/秒であるのに対して、海洋地殻では約7キロ/秒である。

この違いは、大陸地殻が二酸化ケイ素を約60パーセント含む安山岩質の化学組成であるのに対して、海洋地殻は二酸化ケイ素量が50パーセント程度の玄武岩質の組成を持つことが原因だ(図1―4)。

一般に、二酸化ケイ素を多く含む岩石の方が密度が低い。つまり、軽い。だからこそアイソスタシーによって、大陸はいつまでもマントルの上にプカプカ浮かんでいられるのだ。

一方、海洋地殻を含む海洋プレートは、形成されてから時間が経つと冷えていって、遂にはマントルよりも重くなって地球の内部へ落っこちてゆく。この場所が、日本列島などの「沈み込み帯」と呼ばれる所だ。

つまり、大陸と海は、組成と密度が違うからこそ高低差が生まれ、その結果海水の分布が決まってしまうのだ。大陸と海の違いが、その地盤(地殻)の化学組成の違いによることは、理解していただけただろうか?

さまざまな説のある「大陸成長曲線」

では、この組成の違いはなぜ生じるのか?

これこそが本書の主要なテーマである。少しだけ種明かしをしておこう。

沖縄・万座毛の海と崖の写真

一部の例外を除いて、マントル物質であるカンラン岩が融けると玄武岩質のマグマが作られる。

プレートがマントル内へ沈み込むのは、テーブルクロスの垂れた部分を引っ張るようなものだ。プレートの弱い部分が裂けてしまう。この隙間を埋めるようにマントル物質が湧き上がると、マグマが誕生する。このマグマも玄武岩質であり、このマグマが固まって海洋地殻を作るのだ。

既に述べたように、このプロセスの起こる場所が、海の真ん中にある大山脈、大洋中央海嶺だ(図1-7、1-8)。

 

これに対して大陸地殻は、プレートが沈み込む場所で作られるらしい。詳しくは後に述べることになるが、沈み込み帯では、マントルで生まれた玄武岩質マグマが一旦固まって地殻を作るのだが、その後、地殻がもう一度融けたりして安山岩質に変化するのだ。

このように説明すると、大陸の誕生にはプレートテクトニクスが大きな役割を果たしていることに気づかれた方も多いだろう。先に、プレートテクトニクスは少なくとも38億年前には作動していたと述べた。グリーンランドのイスアでの記録だ。

 

では、その後地球はずっと大陸を作り続けてきたのだろうか?

大陸の成長史を眺めてみよう。これまで多くの研究者が、「大陸成長曲線」なるものを提案してきた(図2-3)。まさに百家争鳴の有様だ。中には、ほとんどの大陸が初期地球で形成されて、その後は、バランスをとるために、地殻の形成とプレート沈み込みによる削剥(さくはく)が行われているという考えもある。

最近では、大陸地殻にはほとんど例外なく含まれるジルコンについて、前にも述べた放射年代測定が飛躍的に進んだ。その結果、大陸地殻は何回かの活発な生成時期があり、段階的に成長してきたらしいことがわかってきた。大陸地殻が盛んに形成された時期には、プレートテクトニクスが活発であったのだろう。言い換えると、その時期には、マントルを始めとする地球の内部が、盛んに対流していたことになる。

 

ここで示した、大陸成長曲線もそうであるが、これまで大陸の成因や成長については、主に、ヨーロッパ諸国や合衆国、それにオーストラリアなどの「大陸のど真ん中に暮らす人たち」によって議論されてきた。そして私たち日本人のように、「大陸の縁にある沈み込み帯に暮らす人々」の出番は少なかった。まあ、大陸を研究対象にするのだから、当然と言えば当然のことではある。

でもちょっと、大陸地殻のできる場所を思い出していただきたい。それは、日本列島に代表される沈み込み帯である可能性が高いのだ。つまり、大陸の誕生は、私たち「沈み込み帯人」が語るのが筋というものだ。後ほど、最近私たちが提案した、日本発の「大陸形成論」を展開することにしよう。

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地球の中心で何が起こっているのか

なぜ日本ではこんなにも頻繁に地震が起きるのでしょうか。世界が認める地質学の第一人者が解き明かす地球科学の最前線、幻冬舎新書『地球の中心で何が起こっているのか』より、一部を抜粋してお届けします。

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巽好幸 理学博士

1954年、大阪府生まれ。理学博士。専門はマグマ学。独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス発展研究プログラムディレクター。78年、京都大学理学部卒業。83年、東京大学大学院理学系研究科(地質学)博士課程修了。京都大学総合人間学部教授、同大学大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授を経て、現職。2011年5月に幻冬舎より刊行された『パワーストーン 石が伝える地球の真実』を監修。

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