プラトンのイデア、モンテーニュのク・セ・ジュ、メイヤスーの思弁的実在論、キーツのネガティブ・ケイパビリティ……。古今東西の哲学から、マンネリを抜け出し、ものの見方が変わるノウハウを教えてくれる話題の新刊、『「当たり前」を疑う100の方法』。著者である哲学者の小川仁志さんに、哲学の面白さと本書の中身についてうかがいました。
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哲学を通してハッとしてもらいたい
── 今回の本を書こうと思われた経緯を教えてください。
哲学がやっていることは、自分が当たり前だと思っていることや、知っているつもりでいることを疑ってみる。そして、視点を変えてもう一回とらえ直してみることです。
でも、私が「当たり前のことを疑ってみましょう」とお伝えしても、「疑うってどうやったらいいんですか?」という反応が返ってくるんです。
たしかに日本の教育では、「疑いなさい」と言われることはほとんどありません。「覚えなさい」とは、死ぬほど言われますけどね。だから、急にそう言われても、多くの人はやり方がわからないんです。
哲学というのは「疑う方法」の宝庫です。ですから、それらをリストアップして提示したら、みなさんが日常生活で哲学するきっかけになるんじゃないかと思ったんです。
── 最初の打ち合わせで、先生が「哲学を通してみんなをハッとさせることが好き」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
人生というのは、何もしていないとマンネリ化したり、ルーティン化してしまうものです。そんな人生を、ワクワクして生きるにはどうしたらいいのか。私は哲学を使って、みんなにハッとしてもらいたいと思っています。哲学にはハッとするような考え方がたくさんありますから。
悩み相談を受けることも多いのですが、みなさん人生に行き詰まっている方ばかりなんです。哲学に答えを求めている。だからこそハッとするような答えを出して、ものの見方が変わってスッキリしてもらいたい、喜んでもらいたいという気持ちがすごくありますね。
哲学って結局、ものの見方だと思うんですよ。現実はなかなかすぐには変えられないけれど、ものの見方をガラッと変えることはできる。それが、哲学の役割だと思っています。
疑うことは自分の世界を広げること
── 本書の中でオススメの項目を教えてもらえますか。
「すべて偽物だと思ってみる――プラトンのイデア」という項目があります。現代哲学とは対極にある、古代ギリシャのいちばん古い哲学ですね。ここから哲学は始まりました。
プラトンは、この世のすべてのものごとには理想の世界があると考えました。そして、それを「イデア」と呼びました。それに対して、私たちが見ているこの現実は、イデアの影にすぎないと考えました。つまり、すべて偽物だということです。
これはどういう意味かというと、「もっと完璧になりうる」ということです。伸びしろがあると思えば、ワクワクしますよね。
── 完成形ではないということですね。
そうとらえてもいいでしょう。理想は別のイデアにあると思って、自分の身のまわりを見渡してみたら、イノベーションの宝庫に見えると思うんです。そうやってものごとを見ることで、私たちはもっと理想を追求するようになるのではないでしょうか。
── この世のすべてが偽物だとしたら、自分自身の存在も疑わしくなってきます。
いいですね。自分ももっと進化できるとか、キャリアアップできるとか、そういう考えにもつながってきますよね。
もうひとつ、別の項目をご紹介しましょう。「ググらない方がいいと考えてみる――モンテーニュのク・セ・ジュ」という項目です。
モンテーニュが書いた、『エセー』という有名な本があります。今の「エッセイ」のもとになった言葉だと言われています。
この本の中でモンテーニュが書いているのは、「自分に問いかけよう」ということです。私たちはわからないことがあったり、知りたいことがあったりすると、当然のようにググりますよね。最近は、AIに聞くという人も増えているでしょう。
いずれにしても、自分で考えようとしないことが問題だというのが、モンテーニュの言いたいことなんです。もちろん当時はグーグルもAIもありませんが、自分で考えずにすぐ人に聞いたり、辞書を引いたりすることは、みんなやっていたわけです。
人間というのは、考えるのを避けようとするものです。でも、それだとみんなが当たり前だと言っているものが答えになってしまって、新しいことは生まれません。自分で考える、自分に問いかける態度が、哲学では重要なんです。
── この本は見開きで完結しているので、すごく読みやすいですよね。
順番に読んでもらう必要もないので、自由に読んでもらえればと思います。よく言われるのが、「目次を見ているだけで、すごくヒントになる」ということです。目次を見て、気になった項目から読んでいくのもいいかもしれませんね。
── 自分の世界が広がりそうです。
いいことを言っていただきました。「当たり前を疑う」というのは、今の自分の狭い世界を広げていくという意味でもあります。「この本で自分の世界をどんどん広げるんだ」と思って読んでもらうと、より楽しめるのではないでしょうか。
そもそも、疑うことは楽しいことだと思うんです。ものの見方を変えて、自分が思ってもみなかった答えを出す。そのためのプロセスですから、楽しんでもらいたいなと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】小川仁志と語る「『「当たり前」を疑う100の方法』 から学ぶものの見方が変わる哲学思考」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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