小林賢太郎さんの最新書籍『表現を仕事にするということ』より、試し読みをお届けします。
表現を仕事にするということ
表現を仕事にするということの魅力のひとつに、自分のペースで仕事ができる、というのがあります。
イラストレーターが、いつ絵を描くか。シンガーソングライターが、いつ曲をつくるか。俳優が、いつセリフを覚えるか。自分で決めていいんです。
毎日の通勤時間が決まってないから、寝ていたければ何時まででも寝てていいし、創作に没頭したければ、何時まで夜更かししててもいい。平日の昼間だろうと、どこでどう過ごそうが、自由。なにを着ててもいい。なんにも着てなくてもいい。誰から命令されることもなく、好きなことのために生きられる。表現を仕事にするって、最高です。
ただし、こうも言えます。
勤務時間が決まっているわけではないので、深夜何時になろうと、際限なく働き続けてしまいます。僕は長時間文章を書きすぎて腕を痛めてしまったこともありますし、座ったまま絵を描き続けて、おしりを痛めてしまったこともあります。
逆に、サボろうと思えばいくらでもサボれるし、だらしなくしようと思えば、どこまでもだらしなくすることもできます。仕事と一切関係のない遊びに何時間溺れようと、ただただ、人生の大事な時間が過ぎ去っていくのです。
表現を仕事にすると、遊びに見えるようなことも、すべてが仕事につながります。例えば、カラオケもテーマパークもコンサートも、ただのお客さんとして遊んでいるのではなく、勉強をしていることになります。僕は海外で暮らしながら舞台作品を観まくる、ということを何度かやりました。どう遊び、どう学ぶかも、自分で決められるんです。
また、めずらしい職業ですので、多くの人に注目してもらえます。芸能表現などの顔を出す仕事なら、知らない人から声をかけてもらえたりもします。
想像してみてください、あなたのことを知っている人の数が100倍になれば、あなたのことを好きな人の数も100倍になるわけです。
ただし、こうも言えます。
生活の全てが仕事の犠牲になります。芸能表現などの顔を出す仕事なら、突然知らない人から声をかけられてしまうこともあります。オフなのに、オンの自分を他人から求められる。これはかなりつらいことです。声をかけてくる人の中には、マナーの悪い変わった人もいます。プライベートな時間も場所も、安心できないのです。しかも自分だけでなく、家族が嫌な思いをすることもあります。賞賛も増えれば、誹謗中傷も増えます。あなたを知っている人の数が100倍になれば、あなたを嫌う人の数も100倍になるわけです。
表現を仕事にして成功すれば、経済的な成果は大きいです。やり方次第で、かなり大きな収入に繋げることができます。
ただし、こうも言えます。
表現の仕事で成功できる人なんて、ほんのわずかです。「舞台だけじゃ食えない」とか「本が売れない時代」とかって、多くの人が言います。
収入は不安定です。先月は調子良かったのに、今月はカラッキシ。来月どうなることやら。なんてことを、僕も経験したことがあります。表現を仕事にするということは、なんの将来の保証もないということなのです。
……まあ、このくらいにしておきましょうか。
いかがでしょう。ちょっと意地悪な書き方をしてしまいましたが、全部本当のことです。僕は表現の仕事の素晴らしさを、これまでに山ほど経験してきました。でも、無責任に夢やロマンを売るつもりはありません。
魅力的、かつ、やっかいな「表現」という仕事。やってみますか? やめときますか? それもまた、自分で決めることです。
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表現を仕事にするということ
やるやつは、
やるなと言われてもやるんです。
表現を仕事にする上で大切にしたいこと。
起こりうる様々な困難の乗り越え方。
表現の表裏にあることについての39篇。
どんな思っても見ない出来事も、
それを経験したからこそ、
たどり着ける表現があるはず。