小林賢太郎さんの最新書籍『表現を仕事にするということ』より、試し読みをお届けします。
アイデアの出し方
「どうやってアイデアを思いつくんですか」なんて、よく聞かれます。
アイデアって「ひらめく」とか「おりてくる」とかって言われることがありますよね。でも僕は、なんにもひらめきません。天から何かがおりてきたりもしません。
それでも僕はこれまでに、ストーリーとか、演出とか、山ほどアイデアを出してきました。
では、どうやっているのか。僕の場合の「思いつく」を分解したら、二段階ありました。まずは「気がつく」、そして「たどりつく」です。 アイデアって、大発明や立派な虚構を生み出すこととは限りません。実はアイデアとして使える材料が、すでに事実として存在することがあるんです。
事実って、最強です。とにかく説得力があります。逆に、事実ではないフィクションだけで作品をつくろうとすると、観客を説得しにくいんですよね。自由すぎちゃって。
例えば、僕が脚本を書いて演出をした『TAKEOFF~ライト三兄弟~』という演劇作品があります。ライト兄弟の飛行機、ライトフライヤーには、記録に残っていない幻の機体があり、それを復元して飛ばそうよ。というストーリーです。
実はこれ、思いついたというより、気がつき、たどりついたアイデアなんです。
飛行機を題材にした物語をつくろうと思い、ライト兄弟についていろいろ調べていました。すると、ライト兄弟は、だいたい1年に1機のペースで飛行機をつくっていたことがわかりました。けれど、ある年だけは、新作飛行機の記録が残っていませんでした。それが、ライト兄弟がアメリカ軍に呼び出されていた期間と一致していることに気がつきました。しかも、その翌年に発表された飛行機が、一気に進化していたんです。ここでたどり着いたんです。空白の1年間に、ライト兄弟は軍協力のもと、飛行機をつくっていたのではないか、ということに。
ライト兄弟が、1年に1機発表していたことも、1年間空白があったことも、そのときアメリカ軍に呼び出されていたことも、翌年の飛行機が大きく進化していたことも、僕の創作ではなく、事実です。それをもとに、気がつき、そして、たどりついたストーリーなのです。
いつも作品のためのアイデアを考えるときは、見落としている面白い事実がないか、視点をコロコロ変えながら探すようにしています。
こうして0から1を生み出せれば、それはとても強い財産になります。そこにアイデアを重ねたり、角度を変えたりしながら、新たな作品へと展開していくことができます。
例えば、パラリンピックの開会式のためにつくった脚本は、前記した『TAKEOFF ~ライト三兄弟~』を元に膨らませたものです。障害を持った主人公が、さまざまな出会いを経て成長していくストーリーを、片翼の飛行機に例えて描きました。
パラリンピックはご存じのとおり、障害を持った方々のスポーツイベントです。僕は「福祉」という真面目さ以上に、パラスポーツのかっこよさやエンターテインメント性を意識して、パラリンピックの存在感をより強く伝えるのがいいと思いました。だから、ロックミュージックとか、デコトラとか、空を飛ぶとか、そういう派手めの演出要素を選びました。これも「思いついた」というよりは、パラスポーツをたくさん観て、勉強した先に、気づき、たどりついた、アイデアでした。
「思いつく」は、不確実です。「思いつかない」かもしれませんから。でも、「気がつく」「たどりつく」は、努力の積み重ねで、成しとげることができます。
もがいてもがいて、0.1を得る。それを10回繰り返せば、1にたどりつけます。秩序ある生みの苦しみによる、0から1。時間と労力はかかりますが、正しいやり方だと思います。
「気がつく」にせよ「たどりつく」にせよ、ここにコツがあるとすれば、「まだ思いついていない」ということに焦らない、ということです。
「早く何か思いつかなきゃ」って感覚に囚われるべきではありません。自分がつくっているものが好きで、前向きにいじくっている方が楽しいし、新しいものが生まれると思いますよ。
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表現を仕事にするということ
やるやつは、
やるなと言われてもやるんです。
表現を仕事にする上で大切にしたいこと。
起こりうる様々な困難の乗り越え方。
表現の表裏にあることについての39篇。
どんな思っても見ない出来事も、
それを経験したからこそ、
たどり着ける表現があるはず。