小林賢太郎さんの最新書籍『表現を仕事にするということ』より、試し読みをお届けします。
古くならない作品のために
舞台も映像も本も、何にせよ作品づくりは大変です。せっかく苦労してつくるんですから、いつまでも色あせず、愛され続けてほしいものです。
時間が経っても古く感じない作品をつくるには、どうすればいいのでしょうか。
まず単純に、新しい材料を使わなければ、作品は古くなりません。
時代劇を観て「江戸なんてもう古い」とはなりませんよね。古くて当然の、過去の事実なのですから。
最先端のものは、時間が経てば最先端ではなくなります。作品に流行を取り入れると、その流行が終われば、おのずと作品も古くなっていきます。だから、10年後に観た人に「10年前だな」と感じさせるような要素は、選ばないようにしています。
それに僕は、作品の前に座ったすべての観客は平等であるべきだと思っています。年齢も性別も関係なく、全員を楽しませたいんです。だから、今流行りの何かを知らないから笑えない、ということは避けたいのです。
逆に、積極的に取り入れている材料があります。それは「普遍的な事実」です。
五十音やアルファベットの形や順序。曜日や季節などの、カレンダー上のルール。
タネ →芽 → つぼみ →花 といった自然の摂理による展開。りんごは木から落ちる。トランプには4つのマークと13までの数字がある。……などなど。観客と共有できる、普遍的で美しい材料は、この世界に溢れています。これらは古くなりませんし、誰の著作物でもないから、使い放題です。
例えば、僕の作品に『うるう』という演劇があります。うるう年のうるう日に生まれた主人公が、4年に1歳しか歳を取らないオバケになって、その長すぎる人生に翻弄される、という物語です。2月29日は4年に1回しかない。これは僕の創作ではなく、事実です。だから、強いんです。
オリンピックの開会式の全体構成には、点 →線 →面 →立体 →空間 →時間 という、次元の並びを使いました。植物の種という、ひとつの点から始まる。人と人とのつながりを光の線で表現する。平面のピクトグラムが立体になる。ドローンでの空間表現。そして、音楽と伝統芸能という時間軸を持った表現。という具合に。
言葉やテーマだけではなく、演出の手段もまた、古くならないものを選ぶようにしています。最先端の映像技術を駆使するのもいいけれど、影絵遊びやカキワリなどの昔からある効果だって、面白いビジュアル表現はできます。
アナログ表現には、故障の心配が少ないという良さもあります。以前、海外でパフォーマンスをした際、機材トラブルがありました。原因は、日本とヨーロッパとの電圧の違いでした。それでも、僕が手で動かす舞台装置には一切のトラブルはありませんでした。当たり前です。僕の手に電圧は関係ないですから。動く舞台装置をつくるときは、できるだけ人力を使うようにしています。
世の中には、長く愛される作品もあれば、消費され忘れられていく作品もあります。どちらが良い悪いということではありませんが、僕が目指したいのは、やはり前者です。日に焼けて色が薄くなったプラスチック容器って、嫌な古さを感じますが、長く使われた革製品は、時間経過が更なる魅力になったりしますよね。この素材感の差にも似ているように思います。
『鳥獣戯画』は、およそ800年前の作品と言われています。僕は描いた人の顔も名前も知らないけれど、あの作品が大好きです。これってすごいことですよね。もしも遠い未来に、僕を知らない誰かが、僕の作品で笑ってくれたら、それは本当に素晴らしいことだなと思います。
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