人生の後半戦を見据えて、あなたは今から何を「備え」ますか? 漫画家わたなべぽんさんの新刊『やっとこっかな』は、お金や健康、住まい、家事分担、家族との関係性など、生活のさまざまなことに考えを巡らせ、プチ老後への備えを描いた等身大のコミックエッセイです。
「やめてみた」シリーズを経て、「やっとこっかな」の境地に差し掛かったぽんさんと、『50歳からのごきげんひとり旅』が大ヒット中の料理家・山脇りこさんが人生後半戦を楽しむことについて、<前編>に引き続きおしゃべりしました。(構成・文 阿部花恵)
コロナ禍で心が不調になった日々
山脇『やっとこっかな』ではさらりと描かれていますが、ここ数年のぽんさん夫婦は心身の不調で大変な時期もあったんですね。パートナーさんの椎間板ヘルニアが悪化して緊急手術を受けたり、ぽんさんはコロナ禍で心の調子を崩して心療内科を受診されていたりと、大変でしたね。
ぽん 夫が椎間板ヘルニアで手術した時は、もしかしたら障害が残るかもしれないと言われて。人生って突然変わるんだと呆然としたことをおぼえています。いまは幸い回復したのですが、気持ちの備えって大事だなと感じました。色々と予期していない出来事があったので、勉強になった部分もあったというか。
私の方は、今振り返ると心がコロナ疲れしていたんだと思います。ネームを書いている最中に急に悲しくなって涙がポロポロ出てきたり、眠れない夜が続いて昼夜逆転生活になったりしていましたね。
山脇 そういうしんどい状態であることを、パートナーにもしばらくは伝えずにいたと書かれていましたが、その理由について聞いてもいいですか?
ぽん 彼も以前、仕事のストレスで心が疲れて病院に通っていた時期があったんです。だからこそ、妻の私もそうかもとは言い出しづらくて。
山脇 なるほど。彼もメンタルが疲れたことがあると知っていたからこそ、負担をかけたくなかったんですね。
ぽん もうひとつ、昼夜逆転で会社員の夫との生活がすれ違ったことも大きいかもしれません。彼は「ぽんちゃんは夜に仕事をしているんだな」と思っていたので、夜に私がノロノロと起き出すと「お弁当を買っておいたよ。じゃあ俺は寝るね」みたいな感じで会う時間が減ったので私の不調に気づきづらかったんでしょうね。
山脇 今はもう不眠の悩みは解消しました?
ぽん はい。お薬を服用したら眠れるようになりました。ただ、不眠は解消されても気持ちはなかなか前向きになれなかったんですね。そんなときに、夫の提案で「友人知人に御朱印帳にサインをしてもらう」という趣味を始めたら、だんだん気持ちも上向きになってきて、今は穏やかな日々を過ごせています。
50代はキャリアに向き合う最後の分岐点
山脇 50代になって私が感じたのは、身体があちこち不調になるだけでなく、気持ちも沈みがちになるなぁということ。周りの友達からもそんな声が。私の相方はサラリーマンだったから、「自分はこのままのキャリアで定年退職まで向かって本当にいいのか?」と、この先10年くらいの働き方、生き方についてかなり考えたようです。その結果、定年を待たずに転職しました。その選択で、なんだかハッピーそうだから、よかったなぁと思っています。
ぽん それは大きな転機ですね! 素晴らしいです。私は会社員ではないのでそういう悩みとはちょっと違いますが、やっぱりこれから先の仕事への向き合い方については最近よく考えるようになりましたね。
山脇 50代に入ったあたりから、この先の仕事の仕方とか、なかなか悩ましくなりますよね。私もぽんさんもフリーランスだから、切れ目もないし定年もない。明日のことは分からない(笑)。年齢とともに、仕事のペースが変わるかもしれないし、減っていくかもしれません。
ぽん 本当にそうですよね。私は10代のときからずっと漫画でごはんを食べられるようになりたいと思っていたので「なりたい自分になれた」気持ちもあるのですが、これから先も漫画家を続けていくにはまだまだ頑張らないと、とも思っています。山脇さんはどうですか?
山脇 料理家は体力が必要な仕事なんです。レシピ本を撮影する日は1日に30~40品作ることもあるし、撮影や料理教室で10時間近く立ちっぱなしなんてことも珍しくない。今のペースでずっと同じことを続けるのは、体力的に難しくなるだろうなと思います。書く仕事も続けながら、あまり無理しすぎないように、長く続けられたらいいなぁと思っています。
そろそろ「自分軸」で生きていい
ぽん 私、たまに近所のスナックに行くんですけど、そこは自分より年上のカッコいい女性たちがたくさんお客さんとして来てるお店なんですよ。年齢なんか気にせず好きな服を着て楽しそうにおしゃべりしている姿を見ると、すごく励まされます。
山脇 昔は60代以上=おばあちゃんだと思っていましたけど、その頃と今では全然違いますよね。みんな若々しいし、自由に振る舞えるようになっている気はします。私は最近は80代の自分を色々想像します。今はなんとなく中途半端なところで、いっそ80代になったら、ピンクのセットアップとか着たりして、もっと自由に楽しめそう。
ぽん ちょっと先を行く先輩たちが、興味を惹かれたもの、やりたいと思ったことを素直に行動に移している姿を見ると、私もすごく勇気づけられます。最近、アフリカンダンスを習い始めた年上の友人がいるのですが、発表会を見に行ったらパワフルですごく楽しそうなんですよ。でも私が踊れるかと言われると、できない気もしますが……。
山脇 すごくすてきですね。私も、たぶん無理かもだけど。それぞれがやりたいことをのびのびとやったらいいんでしょうね。私は走れる人になりたいなと思って、もともと200mくらいで「もう帰りたい」みたいな感じだったのですが、5kmまで走れるようになりました。走ると汗もかくし、爽快感があって気持ちいいんですよね。いまは旅先で走ることが楽しみです。いろんな発見があるし、その土地に住んでるような気分にもなれる。
年齢を重ねてくると、自分の得意不得意もわかってくるから、無理にハードルを越えなくても、気持ちよくできることだけやればいいですよね。無理にハードルを越えなくてもいいんじゃないかな。
ぽん ああ、そうかもしれません……! 出会いと一緒で、本当に縁があれば一度離れても自然と戻っていくこともありますからね。私は50歳までもうすぐなので、今から心と体を整える準備を始めていけたらなと思っています。ちょっとずつ、無理のない範囲で。
山脇 人生の残り時間が短くなってきたからこそ、自分が「楽しい」「おもしろい」ことを優先して、ごきげんに過ごしたいなぁ、と思います。
ぽん 本当にそうですよね。最近、自分の中で「イライラしたら負け」っていうゲームを勝手にやっているんです。イライラしそうになったときは、ちょっと見方や考え方を変えてみる。そうすることで、自分の中にどれだけイライラを残さないでいられるかを試しているところです。色々試しながらこれからも元気に人生を楽しんで、漫画を描いていけますように、と思ってます。
やっとこっかな
累計50万部突破!「やめてみた」シリーズのわたなべぽん最新刊。防災、お金、健康、そして住まいのこと。コロナ禍をきっかけに考えた、人生後半、これからも楽しく生きるための準備あれこれ。